第二話②


 先程も述べた通り、私は決して自分の足の速さに自信あったわけではありません。


 しかし、なんと言えば良いのでしょうか。

 はっきりと自覚しているからこそ、あえて他人から指摘してきされると、無性に腹が立つことってあると思うのです。

 ましてや当時小学生の子どもですから、イマミヤくんからはっせられた爆弾に、私は目を白黒させたあと、さけびました。


「ハ、ハナミはおそくないもん!」


「おそいよ!みんな思ってるって!」


「そんなことないもん!ハナミだって足速いもん!速くなるもん!」


「ぜってームリ。だって、ミカちゃんにまけてたじゃんか!」


「い、いまのはホンキ出してなかったんだもん!」


「うっそだあ。すっごくハアハア言ってたくせに!」


 さあ、ここからが大騒ぎでした。図星ずぼしであるからこそ言い返すことができなかった私は、顔を真っ赤にして「うるさいっ!」とわめき、イマミヤくんにつかみかかりました。本当に呆れたものです。小学校低学年というやんちゃな盛りでしたから、イマミヤくんも負けじと応戦します。


 かわいそうなのはミカちゃんです。何も悪いことをしていないにも関わらず、えをらった彼女は本当に困ったような顔をしていました。


 さわぎを聞きつけて慌ててやってきた先生に、イマミヤくんとふたりしてこっぴどく叱られたのはいうまでもありません。


 こうして、見事にへそを曲げた幼き日の私は、大好きな給食のシチューのおかわりもそこそこに、お昼休みになっても、誰とも遊ばず、校庭の隅っこにしゃがみ込んで地面に棒切れをひっかきまわしていました。


「……ハナミは悪くないもん。悪いのはぜんぶ、ぜーんぶイマミヤくんなんだから」


 そうは言ってみたものの、はじめにつかみかかったのは、私。当然私にも非はありました。

 その頃の私もいくら幼かったとはいえ、自分が何をしでかしたのかはよくよく分かっていましたから、このような言い訳がましく文句をらしたところで、それがどうにでもなるものではないことなど、とっくに承知していました。


 けれども、だからといって、バカにされたままごめんと謝るにはちょっとしたプライドが許さない。さあ、困った、どうしたものかと、本当にくだらない葛藤かっとうのなかで、私はうじうじとグラウンドに落書きをしてふてくされていたのでした。


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