第二話①

            二


 小学校低学年の子どもによくありがちな都市伝説に、足の速い子はモテるというものがあります。いったいどうして、あんなに純粋で無垢むくな子供たちがこのような残酷ざんこくな定義づけをできるのかはちょっとした謎ではありますが、それだけ『足の速さ』というものは学校行事において抽象的ちゅうしょうてきかつ明瞭めいりょうなものなのでしょう。

 要するに、いつだって人は、何かしら『持っている人』に寄るものなのです。


 持つものと持たざるもの。

 両者は、一瞬にしてハッキリと区別されてしまいます。


 そうです、かけっこです。

 残念なことに私は持たざるものでした。格好良く言ったものの、簡単に言ってしまえば、もともと足が遅い子どもでした。



 その日のお昼休み、私はねたように校庭のすみで、地面に落書きをしていました。私が、そうしている原因は、なんてことのない、だれでも子ども時代にはよくあるケンカです。


 4時間目は、体育でした。

 この日の授業は、たしか選抜リレーの選手を決めるために、授業中にみんなためしに走っていたのだと思います。おさないながらも私は、自分の足の遅さには気がついていましたから、選手になりたいともなれるとも思ってはいませんでした。

 一方で、足の速い子は、このような場面ではスターです。選ばれた子はもてはやされ、彼らもまた、青くんだ空をも突き抜けそうなほど、鼻を高々とかがげるのです。


「カンザキ、あし、おっそ!」


 それは、スターとなり意気いき揚々ようようとしていた男の子から発せられた言葉でした。

 男の子が先にタイムを計り、今、まさに女の子の計測途中でした。二人ずつ測っていたので、当然、足の遅い私はビリ。一緒に計測したミカちゃんに「はやいねえ」なんて話しかけている私に向かって、その爆弾を投げたのは、普段はおとなしい、あのイマミヤくんでした。

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