かけっことスーパースター

第一話

          一

 秋です。

 秋といえば運動会、運動会といえば秋

 というイメージがあるのは、私が学校を卒業してから、もう随分ずいぶんってしまったことをあらわすものでしょうか。


 今は、多くの学校の運動会は初夏しょかにやってしまうそうです。秋はまだ暑いから、という理由をどこかで聞いたような気がするのですが、初夏だって十分じゅうぶん暑いと思うのです。秋は残暑ざんしょ厳しく、かといって涼しくなるのを待っているうちにいつの間にか肌寒くなり、アッという間に冬になってしまうのですから、季節の移り変わりも早いものです。これは一体、地球温暖化のせいでしょうか、それとも私がとしを重ねたせいでしょうか。


 それはともかく。


 秋です。そして、運動会です。

 そうはいえども、私は運動会そのものに何かしら思い入れがあったというわけではありません。

 もちろん、運動会は、何週間前からもワクワクします。浮足立ってしまいます。てるてる坊主を窓いっぱいにかざってしまいます。おうちでダンスの練習を何度もし、タンスのかどに小指をぶつけて、目に涙を浮かべてしまいます。


 けれども、肝心かんじんの運動会のことになると、あまり覚えていないのです。友達のユリちゃんなどは、毎年、自分が何色の組で、そして、その年の優勝した組とそれぞれの点数を覚えていましたが(すごい記憶力です!)、私は残念なことに全く覚えていません。


 嬉しい思いをしていたので、きっと勝ったことはあるのでしょう。しかし、反対に悔しい思いもしたことがあるので、負けたこともあったのでしょう。


 なんだかんだ言ってそういうものです。

 あの頃は楽しかったな、後に残るのはそういう思いだけなのです。


 私は、どちらかというと本番当日に印象に残ったことよりも、その準備期間に起こった出来事の方がより鮮明せんめいに覚えていることが多いようです。


 運動会の準備に起こった出来事できごと

 例えば、熱中症対策のアメが配られること。

 ミカちゃんが「これ嫌い」と言って、そのアメをくれたこと。休み時間に、ツシマくんが水筒の中身をグラウンドにぶちまけてしまったこと。学年主任のナカノ先生が、サングラスをかけていていつもにもして怖かったこと。ふだん、スカートばかりはいていておしゃれなさくら先生が、体操服(子ども用の!)を着ていたこと。


 いろいろな出来事がありましたが、少しふしぎな出来事もありました。

 幼かった頃にはそれほどふしぎだとは思わなかった出来事が、いまになってふしぎなことだと思えることがあります。それはきっと、私が成長したあかしなのでしょう。そのことを嬉しく思うと同時に、幼い頃の思考の自由さを失ったことをさみしくも思うのです。


 暑さが残る、あの秋の日。

 思えば、私は不思議な男の人と出会いました。

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