第三話

「おねーさん?」と下げた頭をなかなか上げない私の様子を心配したのか、少年が私の顔を覗き込む気配がした。


次の瞬間、あたしは頭をくしゃくしゃと撫でられていた。不器用に撫でるその手は、とても小さくて頼りないのに、だけど、なんだかすごく温かくて懐かしい。


まるであの時の手みたいだ、と思った。

このタオルをくれたあの人と比べて全然大きくないけど、この小さな手も優しさと温かさでできている。

撫でられた私のくるくるとした茶色がかった髪はそのまま風になびいてふわふわ揺れていた。


あたしは溢れてしまった涙をぐいと拭って、小さな天使に笑いかけた。


「ふふ、ごめん。ちょっと前のことを思い出しちゃって」


そう言いながら、あたしはほんのちょっぴり名残惜しくなる。


「私、ヒカリっていうんだ。引き止めてごめんね。またいつか会えたらいいな」


本気の本気でそう思って、私は少年に名前を告げる。今度こそ、黄色いタオルを届けてくれた天使が、大好きなお母さんのところへ帰るのを止めるわけにはいかない。


それじゃ、と言って私はすくっと立って、今度はあたしから背を向けた。そうしないと、また泣いちゃいそうだ。

黄色いタオルをぎゅっと握りしめて、あたしはママに頼まれた買い物を再開する。


  スーパーカリフラジリスティック 

   エクスピアリドーシャス!!

   どんな時でも忘れないでどうぞ。


その言葉たちは、たとえどんな小さな望みが叶わなくても、幸せな気持ちにくらいはさせてくれるんだ。


黄色いタオルをくれたあの人も、今日出会えた小さな天使とも。


また会えたらいいな

なんて小さな希望を持つことくらいは、してもいいはず。


ね、そうでしょ?


(終わり)

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