第二話①
ママから渡された買い物リストとにらめっこしながら、あたしは商店街の店をめぐる。
前に住んでいたところは、家の近所にスーパーとショッピングセンターがあって、そこには何でもそろっていたから、まとめて買えた。だけど、この小さな町には歩いて行けるようなスーパーすらない。
この前、商店街の会長っぽいおじさんがどすの聞いた声で「おれがショッピングセンターの建設を止めたんだ、地域活性化のためにな」なんてふんぞり返っていたけれど、正直なところいい迷惑だ。ていうか、そもそもあのおじさんは、自分で買い物とかしたことあるんだろうか?
商店街のアーケードを歩いていると、ちらほらと小学生くらいの子供を見かけた。まだ、暑いのに、よく元気に走り回っている。
このあたりでは子どもはそんなに少なくない。スーパーもショッピングセンターもないのは割と致命的な気がするけど、それらがないことを除けば、案外暮らしやすい街らしい。らしいっていうのは、私が、まだこの場所のことを知らないからだけど、きっとママも暮らしやすいっていう理由で、引っ越し先にこの街を選んだのだろう。
いくつかメモの買い物を終えてからアーケードに戻ると、そこで、ぴょんぴょんと跳び跳ねている男の子を見つけた。
何やってるんだろ、と首をひねる前にすぐに答えは出た。さっきまで全然気がつかなかったけれど、地面をざっと見回すと、色とりどりのタイルが地面いっぱいに敷き詰められている。とってもカラフルで思わず見とれてしまいそうだ。
ああ、タイル飛びか。昔やったなー、とあたしはすこしだけ感傷に浸った。
色をきめてここは安全な場所、ここは危険な場所、と言いながらぴょんぴょん飛ぶのだ。大人はバカらしいって顔をするけれど、やっている側からすれば、もうそれは真剣そのものだ。邪魔しようとするものならば、ものすごい勢いで睨みつける。車やバイクなんてお構い無し。まあ、だから『危ないからやめなさい!』って叱られるんだろうけど。
大人になったらやらなくなる、なんてみんな言うけれど、あたしたちの年齢でも本気になればスッゴク楽しいにちがいない。そして大人になったら、これが楽しくなくなってしまうのかと思うと、少しだけ悲しくなった。とはいえ、大の大人がやっているのを見たらさすがにドン引きするけど。
私がタイル飛びを眺めて感傷に浸っていると、いつの間にか近くまで飛んできていた男の子が5時を知らせるチャイムがなるのと同時に、くるっと振り返り、ぼーっとしていたあたしに向かって全力でぶつかってきた。…うん、かなり痛い。
ぶつかった男の子はビックリしたようにして、ちょっと口をパクパクさせて私をみていた。
真顔をしている時のあたしは、よく怖いっていわれることがあったけれど、そんなに怖い顔をしていたかしらん?
子どもを見ると、あたしの表情筋はピタリと固まってしまうみたいで、小さい子はひどく怖がる。
だから、子どもは嫌いじゃないんだけど、なんかちょっと苦手だ。いや、ホントにほんのちょっとだけ。
「こら少年、前見て歩きな。危ないでしょう」
怖がらせないよう少しおどけて笑ったあたしをみて、やんちゃそうな男の子は安心したようにホッとした顔をさせて「ごめんなさい」とペコンと頭を下げた。
おや、見た目よりもずっといい子だった。
見た目で判断しちゃいけないな、ってこういうときに思う。
わたしは、新たな発見に少し嬉しくなって、「いいの、いいの。気をつけなよ?」とひらひらと手をふって、チャイムが鳴った商店街を足早に歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます