第四話


 かあちゃんったらね、っておれは話し出そうとしたけれど、おれはとっくに5時のチャイムがなっていたことを、そのときになって、ようやく思い出したんだ。


「母ちゃん…」とつぶやいたおれを、おねえさんがどうしたの?というように、しゃがんで おれのかおをのぞきこんだ。


「かえらなくっちゃ、母ちゃんがもうすぐ おきるから!おねーさん、バイバイ!」


「えっ…?あ、うん。じゃあねー」


 いきなりでっかい声をだして走り出したおれに、おねえさんは、やっぱり びっくりしたようにしていたけど、走り出したおれにびゅんっとおいついて、通せんぼした。おれよりもずっとはやい。


「少年、タオルを拾ってくれてありがとう。すごく助かりました」


 いきなり おねえさんが ていねいに いって、ぺこりとしたから、おれはびっくりした。今までにそんなことをしたおとなはいなかったんだ。


「…おねーさん?」


 なかなか頭をあげないおねえさんのことがしんぱいになって、おれはしゃがんでおねえさんをしたからのぞいた。


 おねえさんは泣いていた。


 ポロポロとほっぺを流れるなみだが光にあたってきれいだなあ、なんておもった。だけど、そんなことをいったらいけないような気がして、でも、ほかに何を言ったらいいのかわからなくって、おれはおねえさんの頭をよしよしとなでてあげた。おねえさんのかみの毛が、風でふわりとなって甘いいい匂いがした。


「ふふ、ごめん。ちょっと前のことを思い出しちゃって」


 ぐすっと涙をぬぐって顔をあげたおねえさんは、もう泣いてなかった。


「私、ヒカリっていうんだ。引き止めてごめんね。またいつか会えたらいいな」


 それじゃ、とヒカリさんはすくっと立つと、こんどこそおれの家とはぎゃくの方に歩いていった。


 おれは、また、おねえさんのせなかをちょっとだけみおくってしまったけれど、やっぱりカッコイイな!と思った。


 みどりはりく。しろはうみ。

 ちかくのくろはこわーいカイブツ。


 しろをふんだら、うみにどぼん。

 くろをふんだら、カイブツにペロリ。


 りくはセーフ。あんぜんちたい。

 だけど、それいがいはアウト。

 ゲームでいったらゲームオーバーさ。


 ああ!やーっと、わかった!

 おれはさけんだ。


「そうだ!おひさまだ!」


 ヒカリさんは、あの きいろいおねえさんは、おひさまだ。

 ピカピカと光って、スッゴくかっこよくて、とってもまぶしいおひさまだ。


 まわりにいた大きなおとなたちは、びっくりしたようにおれをみたけど、おれはぜんぜん気にしなかった。


 おひさまのヒカリさんが、にっこりとしたのを思い出して、なんだか、むねのあたりがぽかぽかしているんだ。


 おれは、ちょこっとだけ泣いていたおひさまをにっこり えがお にしたんだ。


 そっか、おれは「いいこと」をしたんだ。

 じゃあ、「いいこと」をした今日くらいは、母ちゃんもおれをおこらないんじゃないかな。

 おれはウキウキとして、でもおれのことをしんぱいしているかもしれない母ちゃんがいる家に、こんどこそダッシュでかえる。


 みどりはりく。しろはうみ。

 ちかくのくろはこわーいカイブツ。


 しろをふんだら、うみにどぼん。

 くろをふんだら、カイブツにペロリ。


 りくはセーフ。あんぜんちたい。

 だけど、それいがいはアウト。

 ゲームでいったらゲームオーバーさ。


 かたむきかけたきいろいおひさまは、きょうもニコニコわらってる。

 《《》》(終わり)

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