第三話

 三


 おれは、きいろいおねえさんが歩いていってしまったほうへ行ってみることにした。おねえさんが いってから ほんのすこし たってしまったけれど、走ったらまにあうかもしれない。こうみえても、おれは足がはやいんだ。

 はしっているから、今はうみも、りくも、カイブツもカンケイない。足もとの いろいろな いろにかまわずに、おれはずんずんすすむ。


 おねえさんはすぐにみつかった。どこかのお店から出てきたおねえさんは、さっきはなかったふくろをもっていた。


「おねーさぁーんっ!!」


 おれは、おねえさんがさらにべつのお店に入ろうとしていたから、大きなこえでよんだ。

 おれの声に、びっくりしたようにふりむいたおねえさんは、おれがタオルをもっているのをみると、アッ!とこえをあげた。そうして、りょうほうの手で、かばんをパンパンとたたいて、それからかばんの中をガサゴソとしていた。


 おれが、はあはあと言いながら近づくと、おねえさんはようやく顔をあげて、よかったー!とおおきな声でうれしそうに言った。


「これ、おねーさんの?」


 おれが見上げたおねえさんは、ほんとうにうれしそうだった。だけど、おねえさんのうれしそうな顔は、ちょっとだけ泣きだしてしまいそうにもみえた。

 おねえさんはうれしそうなはずなのに、おれは、どうしてそんなことを思ったんだろう?

 でも、おれの中にふっと出てきたなぞなぞは、おねーさんの笑顔でふきとんでいった。


「よかったー!これ、大切なものなの。届けてくれてありがとう。マジ感謝っ!」


「うん、どういたしまして。…だけど、おねーさん、大切なものなんだったら、どうして落としちゃったの?」


「ほんと、大切なものなのにねえ。落としちゃダメだよねえ。どうして落としちゃったんだろ。私にもわかんないや」


「おねーさんなのに?」


 おれが聞くと、おねえさんは「ぐさっ」と胸になにかがささったようなふりをしてから、あははと笑った。


「私だって、まだまだ知らないことが多いよ。中3だもん」


「そっかあ!よのなかってひろいんだねえ」


 おれがいうと、おねえさんはびっくりしたようなかおをした。


「真理だねえ。それにしても、よくそんな言葉を知ってるなあ」


「えへへっ!まえにね!おれのね、かあちゃんがみているテレビで言ってた!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る