おれのおひさま

第一話


          一


 みどりはりく。しろはうみ。

 ちかくのくろはこわーいカイブツ。


 しろをふんだら、うみにどぼん。

 くろをふんだら、カイブツにペロリ。


 りくはセーフ。あんぜんちたい。だけど、それいがいはアウト。

 ゲームでいったらゲームオーバーさ。おれはゲームなんてもってないけどね。


 おっとあぶない、うみにまっさかさまになるところだった。そう思ったおれの足元の色はくろ。おれはすかさず、みどりにとびうつる。


 へへん、どうだ。いま、おれはカイブツのあたまをふみつけて、りくにとびのったんだ。


 おれがぴょんぴょんとびはねていると、きまっておとなが、りくもうみもカイブツまでも、おかまいなしにずんずんと近寄ってくる。そうだった、おとなはふねにのっているんだ。でっかいでっかいふね。すすむだけで、カイブツもにげていくでっかいふね。


 おれに近寄ってきたおとなは、うみのうえにたったまま、にっこりわらってまずこうやっていう。「ボク、とっても元気ね」って。

 そのあとは、きまって「ボク、ママはどうしたの?」ってきくんだ。

 だから、おれはとおりかかったふねにのっているおとなに、ぐんとむねをはっていう。


「母ちゃんはいそがしいんだ」


「おうちにいるんでしょ?」


「うん、でもいそがしいっていってたよ」


「あら、そうなの…じゃあお父さんは?」


「とーちゃんは…しらない」


 とーちゃんってことばをきくと、おれはしんぞうがぎゅうとつかまれたようにいたくなる。なんでだろ、でも、おれにはむずかしくってわからないや。

 おれがちょっとだまると、おとなはきゅうに、へんなたかいこえで、「ごめんねえ、かわいそうに」という。へんなこえをだすおとなは、ちょっとだけきもちがわるい。


 なんでごめんねっていわれたのか、なんでかわいそうなのか、おれにはちっともわからない。

 だから、おれは「べつにいいよー」っていってやる。


 そうしたら、たいていのおとなは「まあ、優しいのねえ。偉いのねえ。いったいこの子の親は、こんなよい子をほったらかして何をしてるんだか」って、やっぱりへんなたかい声と、おこったような声をだすんだ。そうして、おれのあたまをぽんぽんとしてから、「偉い子にはこれあげる」といってアメだとかクッキーだとか、おかしなんかをくれる。


 りくをわたっていると、きまっておなかがすくから、おれは「ありがとう!」と、でっかいこえでいってから、すぐにふくろをやぶいて、くちにおかしをほうりこむんだ。


 そこまですると、たいていのおとなはまんぞくしたみたいに、うんうんとうなずいて「はやくおうちに帰るのよー」とこんどは、おれのいるりくから、ぐんぐんとはなれていく。 


 そうして、おれは、また商店街のむこうがわまで、ぴょんぴょんとりくのうえをわたっていくんだ。

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