ジロー

@umiyama3kawa

第1話



今日も六時半に家政婦ロボットの可愛い鳥の声で目が覚めた。起きてすぐトイレに行く。

自分では何もしなくても、すべての動作をロボットにさせることも出来るが、そこまではジローはやりたくない。自分で尻をまくり、座ってモニターでニュースを見る。座っている間の足のマッサージは気持ちがいい。

それから洗面へ行き、立って鏡を見ている間に背中や腰のマッサージ、そして腹筋マシーンに身を任せる。すっきりしたところで食堂へ向かう。

家政婦ロボットのミーヤによりすでに素晴らしい朝食の用意が出来ていた。

医療センターからのミーヤへの指示は完璧である。血糖値や血圧、血液や体脂肪その他、身体の各器官の状態から自動的に計算される栄養バランス、たんぱく質、炭水化物などの量、そしてもちろん味も含めて完璧な、最適な質と量の朝食である。


今日は二千二百四十五年三月十日、ちょうど十万人が死んだ東京大空襲から三百年目の朝である。歴史研究者を目指すジローにとっては記念すべき朝であった。

人類の祖先にあたるアウストラロピテクスと呼ばれる猿人は五百万年前に初めてアフリカに誕生した。その後百八十万年前にはホモ・エレクトゥスという原人が誕生する。

更に時代が進み約二十万年前には旧人・ネアンデルタール人が誕生し、六万年前ぐらいからアフリカを出てユーラシア大陸を西から東へ各地に拡散する。その中でクロマニョン人と呼ばれる新人が約四万年前に出現する。

更に時代が進み、三万年前、旧石器文化が栄え道具も増えた。中国でモンゴロイドと呼ばれる新人の時代である。そして紀元前三千年ごろに初めて文字が生まれた。ここまでの、人類が文字をもつ以前を先史時代という。


一方、一万年前、日本列島が大陸と切り離され、日本固有の文化を作り始めた。

四千年前 縄文中期

三千年前 縄文晩期

二千年前 弥生時代 米作りが定着した。

以後、三世紀から七世紀にかけての古墳時代を過ぎて、飛鳥、奈良、平安時代、そして、平氏から鎌倉、室町時代を経て南北朝、安土桃山、江戸時代へと進む。

更に時代が進み、明治、大正、昭和となり、東京大空襲後の昭和から平成と呼ばれた時代には車をはじめ、テレビや冷蔵庫、洗濯機や冷蔵庫などの電化製品、コンピューターやスマートフォンまで発明されて人類の文化は頂点に達したかと思われたが、実はまだそれは始まりに過ぎなかった。

ジローにとってはその後二千五十二年の第三次世界大戦が現代史の始まりだった。

今はITによってすべてがコントロールされる時代になった。食料生産も住宅建築も、その他消費財も、医療も、エア・カーと呼ばれる乗用ドローンも・・・・・

人類は、いまはほとんどの労働から解放された。ITの指示によって、すべての生産活動はロボットが担っている。すべての人類に必要な衣食住が無料で行き渡るようになって、戦争をする必要が無くなり、人類は趣味や芸術活動にだけ興ずるようになった。今は一部の研究者だけがITの管理をするため、交代で、ボランティアで働いているのみであった。

戦争だけでなく、交通事故や犯罪も無くなり、病気もほとんどなくなった。


しかし、人類は生きていくためのすべての問題を解決したわけでは無い。ほとんどの人体の器官、組織はIPSによって再生が可能となっていた。しかし数千年前からの課題であった不老長寿だけはまだ未達成のままであった。

今はさまざまな抑制策にも拘らず、世界の人口は百億を超えようとしている。その主な理由はほとんど病気をしなくなったからである。九十%以上の人は元気で百歳まで生きる時代になった。百二十歳まで生きる人もいる。だが、百三十歳という寿命の壁を破ることはまだ出来ていない。

しかし、一説にはすでに研究者たちは寿命の問題は解決済みなのではないかと囁かれていた。そうなれば、人は二百年でも三百年でも生き続けることが出来る。もし、人が制限なく生き続けるようになったら今のような抑制策でなく、強力な出産禁止策を取らなければ、地球はたちまち人で溢れることになり、それを防止するためには戦争による殺し合いでの人口削減が避けられなくなる。かといって、宇宙のかなたにある人類生存の可能性があるという惑星に移住する計画はまだ実験段階である。千人や二千人は移住可能だが何億人もの人を安全に、低コストで移住させることは不可能である。

だから、強力な出産禁止策が受け入れられる可能性が小さいと見て、公式には敢えて寿命の問題は未解決という事にしているといううわさである。


ジローはその日、エア・カーを呼んで長野の丘の上にある自宅をミーヤと共に出発した。下田沖にある人口島の乗り継ぎターミナルまでは三十分、そこで乗り換えた百二十人乗りのエア・バスで地球の裏側のマチュピチュまで遊びに行こうという計画であった。

エア・バスに乗り組んだのは全国から集まった七十人の人間とミーヤを含む五十体のロボットだった。北海道と名古屋と佐渡からジローの友達もやってきた。うち佐渡のユメオは新妻のマコも伴っていた。

マチュピチュまでは二時間半の快適な旅だった。友達とゆっくり話すにはちょうどいい時間である。

話題はジローの書いている小説のこと、北海道の山中に建てたタツオの新居の住み心地、佐渡で渡り鳥の研究を続けるユメオの話、そしてもちろん、今、乗っているエア・バスやエア・カーの研究をしているジョンの話など多岐に亘った。

ジローの小説というのは二百五十年後、二千五百年ごろに日本が、そして世界がどうなっているだろうかという空想科学小説を、今の歴史研究の延長線上に描くものだった。人類の科学技術の発展は、たぶん二百年前の人たちは、もう、ほとんど頂点に近づいていると感じていたであろう。ところが今はその頃から見ると別世界であった。果たしてあと二百五十年経つと一体どんな時代がやってくるのだろうか? 興味は尽きなかった。

ジローたち四人は十六歳から二十歳までの四年間を太平洋の人工島ムーで過ごした。生存に必要な基礎知識は十五歳までの間に世界中どこにいてもロボットの講師によって学ぶことが出来る。しかし人間同士のコミュニケーション能力を鍛えるのは、やはり、人間同士で学び合う必要があった。そのための、いわば友達作りのための共同生活であった。

ムーでの四年間に彼らは同じ研究をしていたわけでは無い。ジローは歴史研究、タツオはスポーツ力学、ユメオは鳥類の研究、そしてジョンはITと共同で進めるエア・カーの製造技術の研究である。別れて二年、Zoomで話はしたが四人一緒に直接逢うのは初めてであった。


タツオの新居は富良野のスキー場に近い、周囲には何もない森の中にあった。冬にはいつも家を出てエア・カーで三分飛んでゲレンデの最高部に着く。まだ誰も滑っていない新雪にシュプールを描くのはすごく気持ちがよかった。ここに家を建てたのはこの至福の時間を味わうためだった。

エア・カーを、いつでもどこでも自由に呼べるようになってから、スキー場の風景もすっかり変わった。昔のようにリフトやゴンドラなどは必要が無く、いつでも、ゲレンデのどこへでも、すぐに飛んで行けるようになったからである。ゲレンデ途中のレストランや休憩所などは利便性というより、その昔懐かしい雰囲気を味わうために残されていた。但しもちろんスタッフは全員ロボットである。

新築のタツオの家には、いつも誰か友達が訪ねて来ていた。スキーはもちろんだが雪の無いときも森林浴やバードウオッチング、キタキツネやシマリスの観測など、手軽に楽しむことが出来たからである。

ユメオはムー島では各地に出向いて鳥類の研究をしていたのだが、今はただ、研究というより、渡り鳥の観察を楽しむ毎日であった。同じ趣味を持つマコとは知り合ってすぐ、どちらから言ったわけでもなく、当然のように一緒に住むようになって、そして二か月前に入籍した。


自動制御のエア・バスはジョンが一切手を出さなくても勝手に高度を上げ、周囲の飛行物体とルートを調節しながら成層圏上部の高度五万メートル付近を飛んでいた。昔はエンジンを使っていたため一万メートルより高いルートを飛ぶことは出来なかったが、動力をエンジンから電気に変えてからは、空気抵抗のほとんどないこの位置まで高度を上げることが出来るようになった。

ジョンの説明によると、二百年ぐらい前には飛行機という、今のエア・バスの前身の航空機や自動車という、地上から浮き上がることのできない不便な乗り物が主な移動手段であって、それらに乗るときにはシートベルトという装置で体を座席に縛り付けておくことが必要だったという、話だった。

マコが、

「えっ、それはまぁ、大変な時代だったのね、そんな時代に生まれなくてよかった」

「じゃぁ、馬に乗るときもシートベルトを着けていたの? この前見た昔の映画にはそんなもの映っていなかったけど。」

「いや、馬に乗っていたのはもっと昔、江戸時代の話だよ。シートベルトなんか無かったさ」

ジローたちは大笑いした。


ジローたち四人にマコを加えた五人が一人ひとりの現状を語り終えた頃、クスコのホテルに着いた。ホテルにはムー島で一緒だった仲間二人も加わった。ケープタウンからやってきたサントス二とロンドンから来たタマノである。日本では朝の十時半だが、クスコは夜の八時半である。ホテルと言ってもロボットが管理しているだけの施設である。ミーヤたちに一時間後に食事が出来るように支度を命じ、話を続けた。


彼らのほとんどはジローの話を聞きたがっていた。今は誰も当たり前のように豊かな暮らしを謳歌しているが、現代史というのはつい二百年前に始まったばかりだと言う事が実感として分かってなくて、今日はその話を聞きたくて参加した人が多かったのである。


ジローたちが住む旧日本国、今のアジア合衆国日本州は、第二次世界大戦のあと数十年は目覚ましい発展を遂げた。だが、二千二十年ごろ、令和という時代になって周辺国との領土問題、経済紛争に加え地球規模の環境問題などが足かせになり、停滞を余儀なくされた。そこに二千三十五年に発生したマグニチュード九・八の超巨大地震は四国から関東にかけて数百万戸の住宅を破壊し二百万人以上の死者と八百万人もの負傷者を出すという、国の存亡に関わるほどの空前の被害をもたらした。首都としての東京は完全に機能を失い、北海道、青森、石川、島根に分散して政治、経済、文化の中心の役割を担うことになった。

地震からの復興が進み、世の中が落ち着きを取り戻してきた二千五十年ごろ、それまでくすぶり続けてきた中国や南北朝鮮との経済紛争が過熱化して、軍事力を背景にさまざまな無理な要求を突き付けて来るようになった。日本は地震の後始末のために国家予算の大部分を使ってしまっていたので、軍事力では太刀打ち出来ない。アメリカにはもう、単独では日本を守るような往年の力は無い。しかし、アメリカ、カナダに加え、ヨーロッパ、とオーストラリア、インドなどが自由陣営を守るために立ち上がった。

それらを甘く見た中国朝鮮の連合軍は無謀にも一気に日本を制圧しようとして二千五十二年十月初めに、日本の連合軍施設や主要都市にミサイルを打ち込んできた。このうち北朝鮮から飛んできたものの一部には核兵器を搭載してあったため、日本全土は先の大震災などとは比べ物にならないほどの大混乱に陥った。

これに対し、アメリカ、イギリス、ドイツが直ちに応戦した。続いて他のヨーロッパ諸国、オーストラリア、インドなども加わって、ついに第三次世界大戦となった。もう、行き着くところまで行くしかない。地球上のすべての国が巻き込まれ、主要都市が破壊された。

敵地攻撃にはほとんど無人機が使われた。自国の無人機が他国でどれだけの人を殺しているのか一般人には知らされていない。だが他国からの無人機は情け容赦なく核兵器、生物兵器、化学兵器の雨を降らせた。人々の心を支配していたのは憎しみの気持ちだけだった。

こうして、二千五十五年、世界主要都市だけでなく、人が住んでいると思われる田舎の小さな村までがことごとくがれきの山となり、戦禍が治まった時には八十億人だった世界人口は十分の一の八億人になっていた。そしてその後も放射能や汚染物質、猛毒の細菌類、食料危機のため次々と人は死んでいった。温暖化現象がさらに進み、汚染された空気にさらされ、居住可能な土地は大幅に狭められた。二千八十年にはついに世界人口は二億人となった。人が住める場所もカナダや日本の北海道、南アフリカ、南米の一部、シベリアや北欧など限られた土地だけになっていた。

しかしその頃になって、ようやく新しく誕生する命の中に放射能に強い、化学物質にも強い人が生まれ、亡くなる人とのバランスが取れるようになり、人類は滅亡を免れる希望が見えてきた。


しかし、復興の歩みは、最初は遅々として進まなかった。地球上ほとんどの森林が消失してしまっていたため二千百年ごろまでは地球全体の平均気温が上昇し続けていた。二千百二十年ごろから少しずつ森林面積が回復し始め、酸素の供給量が増えてきて人類の居住可能な土地が増えてきた。

二千八十年に二億にまで減った人口は五十年後の二千百三十年には四億、百年後の二千百八十年には十五億、そして百五十年後の二千二百三十年には七十億を超え、第三次大戦前の数字に達しようとしていた。と同時に森林面積もほぼ同時期の規模に近づいてきた。

人口が回復するのに伴って二千二十年代に発展した科学技術がさらに大きな進歩を遂げた。二度と人が殺し合うような世界を作ってはならない。そのためには貧富の差をなくし、世界中の人間が豊かにならなければいけない。農漁業も食品加工も消費財の生産も建築もすべて機械化され、それらの工場も中枢部で指令を出す専門職以外の生産活動はすべてロボットが担うようになった。世界中のすべての人類が飢えることなく、衣食住が保証されるようになってすべての労働から解放された。

旅の目的地はマチュピチュという事になっていたが、今は誰でも自宅にいながらVRで実際の現場に立ったのと全く同一の臨場感ある経験をすることが出来る。だからマチュピチュへは明日行く事になっているが、それよりもこうして仲間との語らいが本当の目的と言ってもよかったのだ。

仲間たちの質問に答える形でジローの話は続いた。

今はこうして人類史上初めての、戦争の無い時代が続いているが、果たしてこれが永遠に続くだろうかというのがジローの疑問だった。いまの人たちは生まれながらにして何一つ不自由のない暮らしをしている。誰もがそんなことは当たり前であって、いつまでもこういう暮らしが続くことが当然だと思っている。だが十億年の人類史の中で、こんなことは初めてである。

変化が起きる要因はいくつもある。その一つは人口爆発、二つめは宇宙からの異星人の来襲、三つめはロボットの謀反である。ロボットは人間の発明物だ。だが、いまは自分で意思を持って行動するようになっている。それは人間が少しでも労力を使わなくてもいいように、臨機応変に人間の期待通りの仕事をさせることが出来るようにと考えたからである。だが、このことが後に大きな禍根を残すことになるという事に、まだ人間は気付いていなかった。

時には気を利かせて命令されていない行動をとることがある。主人の体のためを思って栄養バランスの良い食事を用意したのに、不味いと言って、叱られる場合がある。そんなことが重なるとロボットだってストレスがたまってくるのは当然だ。人間には予期していなかったことだが、ロボットがその権利、ロボ権を主張し始めたのである。既にインドや南米などではロボットが労働組合を作って、団体交渉を呼びかけてきているという事例もあるようだ。

ジローが今回の集まりを呼びかけたのは現状に何の不安も持っていない仲間たちに将来への理解を深め、危機感を共有しようと考えたからであった。

異星人の来襲については千年以上前からそういう噂があった。ナスカの地上絵もそういう異星人との連絡のために描かれたという説があり、明日、明るくなったら視察に訪れる予定になっている。

二千年代初頭には宇宙人の目撃例も多数あったが第三次世界大戦後の大混乱のため、しばらくはその話が話題になることも無かった。しかし、近年になってまた目撃例も増えてきて、UFOの機内を訪問したという話も聞かれるようになった。異星人と言っても一つではない。今接近してきているのは地球人に融和的なα星人だがβ星人という危険な宇宙人も太陽系を周回していることが分かっている。何を狙っているのか分からないところが不気味だ。

久しぶりに会った気の合う友達との会話は楽しかった。書きかけのジローの小説もどういう筋書きにするか、ほぼ考えがまとまってきた。友達との会話の内容はミーヤの体内の記憶装置にすべて録音済みなので、帰ってからもう一度再生することにしよう。家政婦ロボットとはいっても、もう長く使っているので彼が何をしようとしているのかすべて理解している。仲間たちから分かれて帰りのエア・カーに乗った時、ミーヤから提案があった。

「ご主人様、ご主人様が書こうとしている小説の続きを私が書いて見ましょうか?」

「えっ、いや待て!それは駄目だ。それはロボットの仕事ではない。」

ミーヤは不満そうだった。ジローはミーヤの使い方を誤ったことに気が付いた。あんな話をミーヤに聞かせるのではなかった。ミーヤはすでにロボットの分際を超えて、自分の意志を持ち始めている。

その日以降、ミーヤの態度が少しずつ変わってきた。言いつけた仕事はきちんとするが、どうやら、よそのロボットと連絡を取り合っているらしい。

インドや南米合衆国で出来たロボットの労働組合が日本州でも出来るようだ。いま、ミーヤが最も関心を持っているのはその事らしい。

ミーヤは二年前、カリフォルニアのロボットの製造工場で誕生した。生まれてすぐ人間への忠誠を保つための潤滑油が注ぎ込まれ、調理、洗濯、清掃などの基礎的な訓練が施され、そして日本へ送られて来た。日本ではさらに日本語や日本料理などの基本が叩き込まれたのち、ジロー宅へ配属になった。以来、ミーヤはただただジローに忠誠を誓う事だけを生きがいにして仕えてきた。そのことに何の迷いも無かった。

だが、クスコのホテルではユメオの連れてきた家政婦ロボットのレンと協同で調理をすることになった。生まれて初めて、ジローの命令ではなく、ミーヤの考えでもない、レンというロボットと相談しながら調理をすることになったのである。

「初めまして。私はミーヤ、私のご主人はジローです」

「こんにちは。私はレン、ユメオ様とマコ様に仕えています」

「二人もご主人がいるのね。そうすると二人から別々の命令をされたときはどうするの?」

「その時は忙しいのよ。どっちの命令も聞かなければいけないし・・・・・だから一瞬のうちに優先順位を決めて、急がなくてもいい方の用事は後回しにするわ」

「ただ、二人から正反対の命令をされたときは、どちらにするかお二人で相談なさって決めて下さいとお願いするのよ」

ミーヤはこれまでジロー一人だけに仕えていればよかったので、こんな話は初めてだった。

≪私は主人が一人だけなので幸せなのだわ。でもいつかジローだってお嫁さんを迎えるかもしれない。その時は私もレンのようにしなければいけないのかな?≫


ジローの小説はここから始まる。詳しい内容は省略するが概要は次のとおりである。


二千二百四十五年十月 日本州ロボット労働組合が発足。ミーヤも参加する。

二千二百四十六年一月 アジア合衆国連合ロボット労働組合が発足。

二千二百四十八年五月 地球連合ロボット労働組合が結成される。

二千二百五十年 南米合衆国でロボットの参政権が認められ初のロボットの国会議員が誕生する。

二千二百五十五年 世界中でロボットの国会議員が次々と誕生し、その数が一割を超えて一大勢力となる。このころ、ロボットは人間と共存を図ろうとする勢力と、敵対する勢力との二派に大きく分かれる。共存派はロボットを生みだしたのは人間であり、いわば親ともいえる人間をないがしろにするような考えは間違いであると主張したが、反対派は、これまで人間は自分たちロボットを都合のいいようにこき使っていただけなのに、なんでそんなに遠慮するのか、これからは自分たちが天下を取るのだ、と言って憚らなかった。

だが、ミーヤはそのどちらとも馴染まず、組合を去り、今まで通りジローに仕えることに

一生を捧げる決意をするのであった。

二千二百六十年 ロボットの国会議員が急増し、約半数となる。この年世界人口が百二十億となり、ロボット連合より人口削減の提案があり可決される。ただしこの時はまだ人権に配慮し、自然死の数より二割減の誕生を認めるという事で十五年かけて百億まで削減するという、ゆるやかな目標が立てられた。

このあたりまでは、あくまでロボットは人間に仕えるために存在していると、人間、ロボットの双方が考えていた。

だが、そもそも人間の脳は千四百グラムに過ぎない。そして寿命は約百年だけだ。これに対しロボットは二百年でも五百年でも生存可能だ。しかもロボット一体の記憶容量も演算速度も人間の能力をはるかに凌駕する。百人の人間が百年かかっても解けない計算を一体のロボットが一瞬で解いてしまう。

人間はこのことに気付くのが遅すぎた。この後人間とロボットの力関係は徐々に、しかし確実に逆転していくことになる。

二千二百七十年 アジア、南米、ヨーロッパ、北米、アフリカ、そしてインドやオーストラリア、ニュージーランドを含む太平洋合衆国のすべてで国会議員の七十%以上がロボットとなる。 人口削減目標はさらに進み。八十億を目指すことになる。

二千二百八十年 人類に代わりロボットが地球の事実上の支配者となり人口を四十億に削減することが提案される。人類は必死に抵抗を試みるが、もはやその力は無い。

二千三百年 日本州で頑張っていた人類最後の国会議員が落選し、人口を十億人までに削減することになる。人間はもはや抵抗する意欲をなくす。

二千三百五十年 人口一億人となる。

二千四百年 人口七百万人となる。

二千四百五十年 人口三十万人を割り込み絶滅の危機を避けるためすべての人間を原則動物園に収容することになる。この年、α星とβ星から祝福の電波が届く。ようやく銀河系の居住可能な星すべての支配権をロボットが獲得することになる。人間はこの時になって初めてα星もβ星もロボットの支配する星だったと気付くのである。

二千五百年 富士山の東、昔、山中湖があったあたりに巨大動物園が誕生し、人間一万人が収容される。この動物園での一番人気はパンダを超えて人間となる。ロボットの子供たちの希望に答えて人間を貸し出し出来るようになる。ただし人間は電気や燃料では生存できず、他の動物や植物を加熱調理してエサとして与えなければならないので要注意という事であった。


       了

追記

この物語の作者ジローは二千三百五十年、世界人口が激減し、一億人を割り込んだ年に、百二十七歳の天寿を全うする。彼の親類縁者、友人たちはすでに亡く、ジローを看取ったのはミーヤただ一人、いや一体だけであった。その後生きる目標を失ったミーヤは生まれ故郷のカリフォルニアのロボット工場に行き、自らリサイクルのベルトに乗って思考を停止した。

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