第23話 急がば突っ切れ


「ほんとに貰っちゃったなぁ……金貨1000枚」


 王都の外門を出て、ぽつりと呟く。

 日が暮れる前に工房に帰りたいと言ったら、二人は快く送り出してくれた。もしかしたら、引き止められるかも――なんて思ったけど、そんなことも全くなく。

 本当にびっくりするぐらい、あっさりしていた。

 ヴァンさんは「何かあれば連絡する」とか言っていたけど、連絡先は交換していない。それでどうやって連絡してくるんだろう? そういう魔道具でもあるのかな?


 ――二人のことは、信用して大丈夫そうかな。


 一緒にいたのはそんなに長い時間じゃなかったけど、悪い人ではなさそうだった。王子様だったり、騎士団団長だったり、なんか未知の人たちではあったけどね。

 それに超イケメンだったし。キラキラの髪色で目が痛くなる系のイケメン――師匠ともまた違ったタイプのイケメンだった。好きな人多そうだなぁ。


 ――疑う相手より、信じられる相手を見つけたい。


 それは師匠に助けてもらったときから変わっていない、私の信念でもある。裏切られたら自分の見る目が悪いってこと。それ以上のことはない。

 そりゃあ、私だって裏切られたりしたら傷ついたりはするだろうけど……でも、だからと言って周りを疑ってばかりだと何も進まないと思うから。

 それは前の世界であっても、この異世界であっても同じことだ。


 ――ま、それでも引きこもり癖やコミュ障が治ったりするわけではないんだけど。


 それはそれ、これはこれ――そういうものだ。

 出会った人のことは信じたいけど、そもそも人と会うまでが面倒くさい気質なんだよね、私。それは仕方ないってことで。


「回り道するのも面倒だなー……魔の森、突っ切ろうかなぁ」


 こういうのだって、すぐに面倒くさくなる。

 王都から我が家である工房までは、魔の森を迂回するより突っ切ったほうが半分ぐらいの時間で帰れる。これ、結構な違いじゃない?

 魔の森は名前のとおり安全な場所ではないし、突っ切るなんて普通の人はあんまり考えないんだろうけど、森の浅いところに出る魔物レベルなら倒すのに苦労はしないし、大丈夫だと思う。

 これは過信ではなく、事実だ。


「よし。そうしよ」


 行きと同じようにガラガラ引っ張っていたキャリーケースを、アイテムボックスに仕舞う。いくら強くないとはいえ、魔物を前にして手が塞がっているのはよくないからね。

 いつ戦闘になっても大丈夫なように杖を手に持って、ひょいっと脇道から魔の森の中へ足を踏み入れた。



   ◆



「敵影なーし……なんだけど、なんかいつもと違うなぁ」


 いつものように、結界魔法を応用した索敵魔法で魔物の気配を探る。

 私の向かう方向に魔物は一匹もいないみたいなんだけど――それよりも、ずっと気になっていることがあった。


 ――索敵魔法に、なんか当たってない?


 索敵魔法は威力を極力弱めた結界魔法だ。

 魔物に気づかれないレベルまで威力を弱めているので、魔法を防ぐ効果はかなり低い……はずなんだけど、その索敵魔法にさっきから何かがあったっている気がする。

 静電気みたいなパチッて感じの弱い反応だから、別に気にするほどでもないんだけど、こういうときの違和感には重要なことが隠れていたりするって、師匠に言われたことがある――っていうか、そういう抜き打ちスパルタみたいなのをうけたことがあるんだけど。


「うーん……」


 とはいうものの、その静電気みたいな反応は本当にうっすらとしか感じなくて、一体何が起きているのか全く掴めない。

 索敵魔法も結構うまく使えるようになってきて、最近では相手が魔物なら、その強さとかサイズまで結構わかるようになってきたのに……もしかして、小さな虫ぐらいの大きさの魔物が引っかかっていたりするんだろうか。


「とりあえず、警戒するに越したことはないか」


 念のため、自分の身体の周りにうっすらと結界魔法を展開しておく。

 ドラゴンの咆哮だったら一発で壊されちゃうレベルの結界だけど、魔の森の浅い部分に通常生息しているレベルの魔物だったら、何発撃ち込まれても耐えられるぐらいの強さはある。


「師匠様様だよなー」


 こうやって身を守れるのも、結界魔法をしっかり教えてくれた師匠のおかげだ。

 そういえば露店を留守にするとき結界魔法を使ったら、隣の露店にいた行商人の人に驚かれたんだっけ……いや、別にその人の名前を忘れたわけじゃないよ? 嘘です、ド忘れしました。

 なんだっけ。なんか覚えやすいなって思ったはずなんだけど……いや、それは違う人だっけ。ああああ! わかってるよ! その程度なんだよ! 私の記憶力なんて。


 ――なんだったら、ヴァンさんのちゃんとした名前だってもうわからないからな!


「……カタカナの名前、苦手すぎる」


 はぁ、と溜め息をつきながら肩を落とす。

 異世界の人との交流で一番厄介なの、名前を覚えることかもしれない。


 ――ファーラは完璧だけどな! 絶対忘れないけどな!!


 師匠の名前も……ちゃんとギルドカードに後見人として名前が書いてあるから完璧!

 たまに間違ってないか確認するけど。たまにね。


 お願いだから、それぐらいは許してください!!

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