第22話 王族とはケチらしい※第五王子を除く


 ごっついリングを使った耐久度の試験は、予想していた以上の結果だった。

 騎士であるリードさんが、全力で剣を振り下ろしても指輪に与えらえたダメージはゼロ。傷一つつかないなんて。


 ――そんなに硬かったんだ、これ。


「魔術造形で装備一式を作れば、強い守りが手に入るのか?」

「どうでしょうね。小さなものなら丈夫でも、大きくなればそうではないという可能性も」

「それはあるかもしれないな」


 二人は私よりも真剣に魔術造形物に対する検証を進めてくれている。

 うん。参考になります。

 ヒートアップしてきたのか、二人の会話はだんだん専門的になってきた。聞いていてもよくわからない。

 手持ち無沙汰になった私は、机の上に置いてあった魔力水の小瓶を手に取る。今は無色透明の魔力水しか入っていない小瓶の中を覗き込んだ。


 ――そういえば、この中で起こる反応の大きさの違いってなんなんだろう。


「あ……おっと!」

「何をしている。危ないぞ」


 小瓶を傾けすぎて、中身をこぼしそうになったところを助けてくれたのはヴァンさんだ。

 どうやら二人の中で、私はおっちょこちょいキャラということに決まったらしい。私が何かやらかしそうになれば、必ずどちらかが助けてくれる。

 従兄弟同士だからなのか、二人はそういうところで気が合うようだった。

 時々、お互い見つめ合って苦笑いを浮かべたり、大きな溜め息をついている。やめてよ、こっちがなんか惨めになるから。


「何か気になることでも?」

「火花の大きさとか、弾けてる時間とかってどういう風に決まるのかなって」

「単純に考えれば、魔力水の中に溶け込んだ魔力の量とかだろうな」

「あー、確かに」

「あと考えられるとすれば、魔力量ではなく質――でしょうか」


 考えるように顎に触れながらそう言ったのはリードさんだ。

 ヴァンさんもそれを聞いて「あるかもな」と頷いている。魔力の質かぁ。


「質って、何か計測する方法があったりするんですか?」

「あるな。お前も魔術師ギルドに登録するときに使ったんじゃないのか?」

「? あ! もしかして、登録のときに触った水晶?」

「それだ。あの水晶型の魔道具に魔力を流すことで魔力の属性や質を計測することができる。総魔力量なんかも測れたりするが、レベルに応じて大きく変わることもあるからな。その辺りは目安にしかならない」

「……ほうほう。実はすごい道具だったんですね」


 ――ってことは、私の魔力の質もどっかでわかるのかな? ギルドカードに書いてあるとか?


 アイテムボックスから、魔術師ギルドで発行してもらったギルドカードを取り出す。

 裏面を眺めていると、横からヴァンさんが一緒に覗き込んできた。また距離が近くなってますよ、王子様。


「まだ〔魔術造形師〕という称号ではないんだな」


 ヴァンさんが気になったのは、そこらしい。

 そういえば、今も私のギルドカードに書かれている私の称号は〔魔術師〕のままだ。それを確認するってことは、称号を〔魔術造形師〕に変えられるってことなのかな?


「ならばそのまま、魔術師としておいたほうがいいでしょうね」

「それは、私もリードに同感だな。セトはそこまで目立ちたいわけではないんだろう?」

「目立ちたくはないですけど……やめといたほうがいいってことですか?」

「新しい称号を登録する場合、王にまで報告が上がる――面倒なことになりそうだろう?」


 ――うわー、まじか。


 それは確かに面倒なことになりそうだ。

 召喚のとき、王様は私のほうをほとんど見向きもしなかったし、名前を覚えているかどうかだって怪しいけど――それでも目立って、目をつけられたりしたら、造形だけをして過ごす、私の平和な暮らしが一気にだめになってしまう可能性だってある。


「……もしかして、今日のもまずかったり?」

「それは大丈夫だろう。今日は結構目立っていたが、今日は祭で外から行商人が多く訪れている。セトに辿り着くことは簡単ではないだろう。お前の商品を買った人間が簡単に口を割るとも思えんしな」

「買った人が口を割らないって、どうしてですか?」

「冒険者は情報も金だと考える輩の集まりだ。それに対して、うちの血縁者は皆総じてケチで荒くれものも嫌いときた。冒険者にわざわざ金を渡して情報を得ようなんて、考えるやつはいない――私を除けばな」

「……ケチなんですね」

「ああ。私除いて、だがな」


 ――どうして、そこを二回も強調した。


「というわけだから、安心していい。ただ……勇者のほうは少し気になる」

「勇者……?」

「露店に来たところを、こっぴどく追い返したんだろう?」

「そういえば、そんなこともありましたね」


 すっかり忘れていた。

 っていうか、そんな話もヴァンさんの耳に届いていたなんて。


「でも……追い返したんじゃなくて『並び直してください』って言っただけなんですけどね。それを聞いて、怒って帰っちゃったけど」

「ああ。そういうことだったのか……まあ、こちらに召喚されてからは特別扱いが当たり前で、調子に乗っているガキ共だからな。お前の店でも当たり前にそうしてもらえると思っていたんだろう。ざまあみろだな」


 ――お? やっぱり、勇者がお嫌いのようですね。ヴァンさん。


 そう思ったけど、指摘はしないでおく。

 王子様は微妙な立場かもしれないし――私も、別にそこまで勇者にどうこう言うつもりはないしね。


「まあ、気をつけるに越したことはないだろう」

「わかりました。ありがとうございます」


 でも、勇者ってもうすぐ出立だったよね。

 それまでの間、気をつければ大丈夫ってことかな。

 あのとき一緒に露店に立っていたファーラのことも気になるけど、守りの腕輪も渡してあるし大丈夫だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る