第12話 万能すぎる杖


「できたー!」


 帰宅してから、朝作っておいた魔力パテ(仮)をコネコネしてみた。軽い気持ちで始めたけど、やり始めたら止まるわけもなく――。

 完成したのは、今日魔術師ギルドで会った受付の美人エルフちゃんの胸像だ。

 超リアル造形を目指してみた。

 実は私、デフォルメ系の造形って苦手だったりする。あ、見るのは好きだけどね。

 でも自分じゃ、どうしてもうまく作れないっていうか、好きなのがリアル系だからなのか……何度作り直しても実物寄りになってしまう。


 ――ずっと、クリーチャーばっかり作ってたもんなぁ。


 私の趣味を知っている友達に、売り物とは別に作ったものを見せたことがあるんだけど、案の定、気持ち悪がられてしまった。

 ゴツゴツとした鱗の触感とか、ぬるりとした舌の質感とか――そういうのにこだわって作ってたからね。


 ――好きなんだよ! 悪いか!!


 まあ、美人も好きだよ。あと、可愛い子も。

 エルフちゃんの流れるようなプラチナブロンドの髪の再現は難しかったけど、この横顔のラインは結構気に入っている。

 いやあ……やっぱり美人って最高では。


 結果、この魔力パテ(仮)でもいい感じに造形ができることがわかった。

 色付けまではできてないから、全体的にグレーのままだけど――それでもちゃんと知っている人が見れば、あのエルフちゃんだってわかる仕上がりになっている。


 ――上出来じゃん。


「これ、普通のパテと違って、好きなときに柔らかくしたり硬くしたりできるのはいいなぁ……ただ、もう少しさくさく削れる感じになれば私好みなんだけど」


 目指すのは、使い慣れた造形用パテの感触だ。

 今の完成度は六割ぐらいかな。指で捏ねた感じは結構似てるし。そろそろ、魔力パテ(仮)から卒業して、魔力パテって呼んであげてもいいかもしれないな。

 ちなみに作業中、細かい部分を削り出す道具として活躍したのは――なんと杖だった。


「自由に形が変わるっていうのは知ってたけど……お前、万能過ぎない?」


 デザインナイフやスパチュラ代わりになる杖なんて……最強すぎると思う。

 あ、スパチュラっていうのは造形に使う、金属製のヘラのことね。本当なら先端がいろんな形のものを何本も揃える必要があるんだけど、杖がそれの代わりになってくれるのは本当に助かる。

 これ、一本で済むし……すごいな、杖。オールインワンじゃん。


「これで、あとは固定化がうまくいけばなぁ……色付けも結構難しいけど」


 色付けは魔力の流し込み具合で色が表現できる、っていうのは師匠と一緒に研究したからわかっているんだけど、まだどれぐらいで何色が表現できるかまではわかっていない。

 大まかにこれぐらいなら赤、これぐらいなら青――ぐらいまでは把握済みだけど。もっと細かい色の調合とかしてみたいし。

 それも結局、試行錯誤を繰り返すしかないんだと思う。

 どちらかといえば、当面の研究を進めなきゃいけないのは固定化のほうだ。まだ、それも完璧とはいえないし。


「今日はもう休むか……」


 久しぶりに外に出掛けたし、かなり疲れていた。

 人がたくさんいたせいかもしれない――最近は師匠以外の人に会うこと、ほとんどなかったからね。

 ベッドに倒れ込むと、一気に眠気が押し寄せた。



   ◆◇◆



「レベル上げ?」

「ああ。もしかすると、キミに足りないのはそれかもしれないと思ってな」

「……確かに」


 私のレベルはいまだ1のままだった。

 どれだけ魔法の練習をしても、レベルは上がらないものらしい。

 敵を倒して経験値を稼ぐっていうのがレベルアップの基本なのは、ゲームとかと同じだった。


「ここから一番近い狩り場と言えば、魔の森か」

「おおう……聞くからに物騒な雰囲気が」

「街に近い範囲なら、そこまで危なくはない。最初はボクもついていこう」

「ということは、それ以降は私一人で……」

「当たり前だ」


 ――ですよねー。


 まあ、最初はついてきてくれるっていうだけ、優しいんだろうけど。

 しかし、魔の森か……本気でその名前、物騒すぎない? 完全に危ない雰囲気漂ってるけど、大丈夫なのかな。


「そういえば、キミは討伐用の装備を持っていなかったな。ボクのローブでよければ、一枚やるが」

「え? いいんですか?」

「ああ。好きなものを選ぶといい。記念だ」


 記念っていうのはあれかな。

 そろそろ、私の弟子卒業も近いのかな。

 元々期限は決めていなかったけど、あんまり長く師匠に頼りすぎるのも悪いもんね。自分で経験値やお金を稼げるようになったら、独り立ちしなきゃだよなぁ。

 できれば、自宅兼工房が手に入れば文句なしだったんだけど……やっぱり、しばらくは宿暮らしかなぁ。


「どうかしたのか?」

「あ、いや。ちょっとこれからのこと考えちゃいまして」

「これからのことか……そうだな。ボクもそろそろこの王都を離れたほうがよさそうだ」

「それってやっぱり、勇者がらみの理由で?」

「察しがいいな」


 なんとなく、そんな気はしていた。

 王女の話をしたときとか、複雑な表情してたもんね。魔術師ギルドの偉い人と話してたのも、そういう話だったのかな? 

 ちょっと寂しいけど、私が引き止めて変なことに巻き込まれるのも悪いし。


「……師匠」

「なんだ? 珍しく真剣な顔をして」

「聞きたいことが、あって……あの、答えづらいかもしれないんですけど…………」

「言ってみろ」

「……師匠って、おいくつなんですか?」


 私の質問に、師匠は呆れた表情を浮かべていた。

 はぁぁ、とわかりやすいぐらい大きな溜め息をついてから、真面目な表情が堪えきれなかったみたいに噴き出す。


「キミは本当に――――そうだな。いくつに見える?」

「その質問、激しく面倒くさいですよ」

「わかっていて、聞いている」

「うーん……じゃあ、250歳ぐらい?」

「惜しいな。357歳だ」

「ええぇ――??」


 全然惜しくないじゃん!

 っていうか、師匠って年齢も規格外だったんだね……。

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