第13話 魔術造形師誕生


 魔の森は、名前の割にそこまで物騒な雰囲気ではなかった。

 見た目は普通の森かな、たぶん……別にそんなに森に詳しくないけど。


「教えたとおりに。まずは索敵魔法だ」

「はいっ!」


 索敵魔法は結界魔法の応用だった。

 ゆっくりと結界を広げていって、それに引っかかった反応を見て索敵するんだって。ちなみに敵には結界の存在を悟られちゃだめだから、その力の調整がなかなか難しい。


「今のって、うまくいったと思います?」

「この辺りの敵は弱いから、ギリギリ及第点だろう」


 ――まだまだだめ、ってことですね。


 相手が強い場合、逆にこちらの位置を割り出されることになるので危険なんだそうだ。

 索敵魔法も一長一短あるってことか。


「右手方向は個体の強さはさほどじゃないけど、数が多め。左手方向は個体としては強いけど、一体だけ……かあ」

「どちらに行く?」

「………………両方?」

「正解だ」


 まあ、見てもらえるうちに経験しておくしかないよね。



   ◆◇◆



「キミに属性魔法は必要なかったな」

「……私もそう思います」


 造形用の魔法の応用で作った、小さな魔力玉を投げるだけで、今日会ったすべての敵が倒せた。

 いや、なんとなくそんな気はしてたんだよね。

 初日の魔力シャボン玉の威力を見てからさ……この魔法で全部いけるんじゃないかって。

 ちなみに消費MPは1。めっちゃ省エネで最高な魔法だね。


「まあ、属性魔法は野営に必要になるし……一応覚えておいて損はなかっただろう?」

「私の属性魔法は野営用……」

「火や水を自由に出せるのは便利だと思うが?」

「そうですね!!」


 ちょっとやけくそだった。ちくしょー。

 いや、いいんだよ? 別にちゃんと使える魔法だし。


「セト、レベルは上がったのか?」

「あ、そういえば!」

「……目的を忘れていたな」


 そういえば、そのためにここまで狩りに来たんだった。

 レベルアップのファンファーレみたいなやつが流れて教えてくれると思っていたから、完全に失念していたよ。


「ステータスオープン……お、上がってる!」

「いくつだ?」

「18ですね! 結構上がったー!」

「弱い魔物ばかりだったが数は多かったからな。ステータスのほうはどうだ?」

「ステータスは……んんん?」


==========


名前:セト

レベル:18


HP:1082/1100

MP:7912/8000


STR:21

AGI:26

INT:289

DEX:1824

VIT:24

LUC:88


【スキル】火属性魔法/水属性魔法/土属性魔法/風属性魔法/結界魔法/魔術造形

【称号】転移者/セルディアの加護


==========


 HPが少し減っているのは何度か転んだからだ。

 そう、私は結構どんくさい。

 それにしても、なんかおかしな数字がいくつかある気がするんだけど……これって、どうなんだろう。


「セト、何か気になることでも?」

「……あの、このステータスウィンドウって師匠に見てもらう方法ないんですか?」

「あるが……いいのか? ステータスは秘匿すべきものだぞ」

「いいんです。師匠なんで」

「見せる方法は簡単だ。ステータスオープンの後にボクの名前を付け加えれて詠唱すればいい」

「…………」

「ルトゥカリだ」


 ――うう、ごめんなさーい!!


 師匠の名前も覚えられない、不肖な弟子は私です。

 本当、カタカナ苦手なんだよ……これだけはどうやっても克服できる気がしない。


「……なんだ、これは」

「やっぱり、そういう反応になりますよね……?」


 私のステータスウィンドウを見た師匠は固まっていた。

 どの項目を見て固まっているのかは、なんとなく予想がつく。


「……セト。君のDEXはどうなってるんだ……ああ、この加護のせいか」

「加護って、セルディア? これって神様の名前だったりします?」

「ああ。セルディアは職人たちの間で崇められている神だ……まさかそんなものに愛されていたとはな。だから、あれだけ魔力も器用に扱えたのか」

「おお。職人の神」


 造形師を目指す私には最適な神様かもしれない。

 最高……ありがとう。セルディア様!!


「……スキル、《魔術造形》か」

「ん? あ、本当だ! 『????』じゃなくなってる!」

「気づくのが遅いぞ。自分のスキルだというのに……まったく」


 呆れられてしまった。

 いや、だってさ……DEXの数字のほうが気になるじゃん。四桁だよ?


「やったぁ。ついにスキル名がついた!」


 足りなかったのがレベルだったなんて。

 なんともあっけない感じだけど、やっぱり嬉しい。


「魔術師ならぬ、魔術造形師の誕生ということか――やはり、キミに魔法を教えれば面白いことになりそうだと感じたボクの目に狂いはなかったようだな」


 師匠も嬉しそうだ。

 私のステータスウィンドウを見て、感慨深げに目を細めている。

 しばらくしてから私のほうを見て、ふっと破顔した。


「よくやったな」


 くしゃり、と頭を撫でられる。

 お、おう……なんか、すっごい恥ずかしいんですけど!


「……私、師匠の期待に応えられました?」

「ああ、充分だ。キミのおかげで全く退屈せずに済んだよ。久しぶりに楽しませてもらった」


 その言葉が私も嬉しかった。

 師匠に出会えたことも、こうして魔法を教えてもらったことも――あの出会いがなければ、何も始まっていなかったのだから。

 この世界で造形を始めるための糸口を見つけられたのは、師匠のおかげだ。

 少しだけ、涙が出た。


「ほら、セト」


 師匠が私の名前を呼んで、杖を差し出す。

 差し出されたその杖に、自分の杖をクロスさせた。

 こうするのが、魔術師同士の信頼の証だと教えてくれたのは師匠だ。

 同時に、お互いの杖から魔力を放出させる。

 重なった魔力が森の暗がりに、キラキラと煌めく粒子を生み出した。

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