第11話 師匠の名は
魔術師ギルドの受付は美人エルフちゃんだった。
いや、その子の種族名が本当にエルフかどうかはわからないけど……見た目の特徴がめちゃくちゃエルフそのものなんだよ。
さらりと長いプラチナブロンドも、宝石みたいな薄い青色の瞳も。
何より超美人。顔ちっちゃい。
尖がってる耳がたまにひくひく揺れていて可愛い。可愛い!!
――はあ。やっぱり最高だな、異世界。
にしてもみんな、基本的に顔面偏差値が高すぎない?
私、平凡すぎて逆に浮いてないですか? 大丈夫です?
「おっと。すまんな、嬢ちゃん」
あ、今ぶつかった人、結構親近感ある顔立ちだった。よし、セーフ。
でもさ、師匠もかなりのイケメンだし――まあ、あの隣を歩いている時点で私の顔はかなり残念には映るんでしょうけどね……うん。
師匠、私だけを見えなくする結界とか張ってくれないかな。
「それでは、セト様。魔術師ギルドへ登録されるということでよろしかったでしょうか?」
「あ、はい! それで大丈夫です」
「まず、こちらに記入いただく必要があるんですが……代筆は必要ですか?」
「あ、大丈夫だと思います……けど、一緒に見ててもらっていいですか?」
「はい。かしこまりました」
文字はちゃんと読めるし書けるんだけど……やっぱりちょっと自信がない。
私がそう頼めば、受付のエルフさんは快く了承してくれた。
――美人で優しいなんて、天使かな?
師匠は少し離れたカウンターで誰かと話をしている。
相手の人は、このギルドの偉い人っぽい。
だって、すごい立派な長い髭を蓄えた、いかにも最高位の魔術師! って感じの豪華めのローブを着た人だなんだもん。
杖もどこか古めかしい。
ああいう、ザ・杖! って感じのやつもいいよね。王道ファンタジーって感じがしてワクワクする!
「あの! セト様は……ルトゥカリ様とどういったご関係なんでしょうか?」
「……ふぇ?」
「いえ、その、詮索をするつもりはないのですが……ただ、あんな風にルトゥカリ様が笑ってらっしゃるところを見たことがなかったので……皆も気にしていまして」
――あ、ルトゥカリ様ってあれか。師匠のことか。そういえば、そんな名前だったね。
エルフちゃんの言ったその名前と師匠が瞬時に結びつかなくて、思わず固まってしまった。
私が妙な沈黙を作ってしまったせいで、エルフちゃんが困ったような表情を浮かべている。
――っ、ごめん! 別に答えを誤魔化そうとしたわけじゃないんだよ?
でも、きょどきょどしてるエルフちゃんも可愛い。
首を傾げると揺れるさらさらのプラチナブロンド、やっぱり正義だわ。
「んーっと、私たちの関係は……師匠と弟子、みたいな感じですかね?」
「え? セトさん、お弟子さんなんですか? あの弟子を取らないと有名なルトゥカリ様の?」
――あれ? そうなの?
最初に師匠って呼んだときも、別に嫌な顔されなかったと思うけど。
全然、断られなかったし。
そっか。師匠って弟子取らない派だったのか……知らなかった。
「まあ、ちょっとした縁があって……魔法を教えてもらうことになったっていうか」
「すごいですね。それだけで尊敬します」
「いやいやいやいや、そんな」
こんな美人のエルフちゃんに尊敬されるなんて、申し訳なさしかない。
だから、そういうのやめて。普通にして。
「ええっと、書くのはこれで大丈夫ですか?」
「あとは、ここの後見人の欄ですが……」
「あ、そっか」
師匠が私の後見人になってくれる、って言っていたのって……まだ有効かな?
視線を向けると、師匠もちょうどこっちを見ていた。目が合ったので、ちょいちょいと手を動かして呼ぶと、話を中断してこちらに来てくれる。
「……ルトゥカリ様をあんな風に呼べるなんて」
――あ、これもまずかったですね!!
つい、普段魔法を見てもらっているときの感じで師匠を呼んでしまった。
師匠はすごい人……すごい人、っと。
「どうした? セト」
「後見人の件なんですけど」
「ああ。ペンを貸せ」
ペンを手渡すと、師匠がさらさらと後見人の欄に名前を書いてくれた。
ルトゥカリ・エナ・ファーサルト……覚えるのは無理だな。ルトゥカリだけですら怪しかったし。
「なんだ? じっと見て」
「いえ、なんでも」
名前をちゃんと覚えてなかったなんて、いくら相手が師匠であっても本当のことは言えない。
「ああ。ボクの名前を覚えていなかったのか?」
「……はい。ごめんなさい」
言わなくても、バレていたみたいです。
◆◇◆
用紙に記入を終えたら、魔力量とスキルを水晶型の魔道具で確認されて――無事、ギルドカードが発行された。
これで私は魔術師ギルド所属の魔術師、ということになるらしい。すごい。
帰り道、つい嬉しくて貰ったばかりのカードを無駄に何回も確認してしまった。おかげで何度も師匠の背中に顔をぶつけてしまう。
「そろそろ、ちゃんと歩いてくれないか?」
「……ずびまぜん…………」
赤くなった鼻を擦っている私を、師匠が呆れた目で見つめていた。うう、本当ごめんなさい。
「あ……そういえば、ギルドの所属って何かしなきゃいけない決まりとかってあるんですか?」
「いや、特にはないな。登録はどんな魔術師がいるかをギルド側が把握するのが目的だからな」
「へえ……そうなんですね」
「もちろん、有事のときは招集がかかることもあるが――……ああ、そうか。先日、勇者が召喚されたんだったな。そうなると、近々何か起こる可能性がないとも言えない」
急に真剣な声色になった師匠に驚いたけど、内容は私がよく知っていることだった。
だって、私が巻き込まれたのが正にその〔勇者召喚〕だったからね……そういえば、あの高校生勇者たちはどうしてるんだろう。
「……そういえば『勇者様ぁ〜、魔王を倒して、この国をお救いください〜』とか言ってましたね、お姫様」
「今のは、王女の声真似か?」
「似てませんでした?」
「王女は……もっと、ねっとりした声だった気がするが」
――確かに、もっと猫撫で声だったかもしれない。
あんまりちゃんと聞いてなかったけど。
向こうも最初から、私のことは眼中になかったみたいだしね。
「あれ? 師匠って王女様と面識あるんですか?」
「不本意ながらな」
――不本意なんだ。
師匠はちょっと機嫌が悪くなったみたいだった。
もしかして、師匠も王族とはいい思い出がないのかな? 仲間じゃん。
「ギルドからの招集で、魔王討伐に駆り出される感じになったりするんですか?」
「そうならないとも限らない……が、どうだろうな。二百年前にも同じようなことがあったが、魔王討伐にかかわっていいことなど一つもなかったからな」
――んん? 師匠、一体おいくつなんです?
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