第2話 ステータスオープン


 王城を追い出された私は城から少し離れた、街を見下ろす丘の上にいた。

 この坂を下れば、王城を取り囲む街に入れるらしい。

 樹齢100年ぐらいだろうか。見上げるぐらい大きなクスノキに似た広葉樹の下に腰を下ろして、うん、と一度大きく背伸びをする。


「本当に、異世界だなぁ」


 我ながら、捻りも何もない感想だ。

 だけど、私は今、すごく感動している。

 今まで海外旅行すらしたことない私にとって、眼下に広がる街の光景は珍しいものばかりだった。

 さっきまでいた王城の中も変わったものがたくさんあって楽しかったけど、街は街でまた違うワクワクがたくさん詰まっているような気がする。

 規則的に立ち並ぶ、たくさんの白い建物。今まで住んでいた街とは全然違う光景。

 いきなり異世界に放り出されて緊張もしていたけど、今はそれよりも期待のほうが大きかった。


「――ステータスオープン」


 さっき城の中で高校生たちが口に出していた言葉を、私も真似して言ってみた。

 こうすれば、自分のステータスを確認できるとお姫様が彼らに説明していたのだ。

 私も一緒にやってみようとしたんだけど、直前に王様から「貴様のステータス確認は不要だ」って言われてしまったので、さっきは試してみる機会すらなかったのだ。

 自分のステータスを見るのは、これが初めてだ。

 ぶぉん、という音と共に、空中に半透明の板が現れた。


==========


名前:セト

レベル:1


HP:300/300

MP:1000/1000


STR:15

AGI:18

INT:84

DEX:420

VIT:17

LUC:52


【スキル】

【称号】転移者/セルディアの加護


==========


「おー、すごい。超ゲームっぽい」


 私はいわゆるオタクではあるけど、ゲームオタクではない。

 ゲームに関しては、いくつか有名どころのゲームをやったことある程度の知識しか持っていなかった。そんな私でもちゃんとわかる表記で書かれたステータスウィンドウに、ほっとする。


「名前が『セト』になってるのは、さっき王様の前で適当にそう名乗ったからかな。ま、いっか。ええっと、DEXって器用さ、だったよね? なんか他のステータスに比べて、やたら高いんだけど。次に高いのはINT……賢さだっけ。私、全然賢くないけど大丈夫?」


 造形を仕事にしようとしているので、器用さが高いのは嬉しいんだけど、次に高いのが賢さっていうのはどうなんだろう?

 力の強さを示すSTRや俊敏さを示すAGI、丈夫さを示すVITが低いのは、私が近接戦闘に向いていないことを如実に表していた。うん、知ってた。

 自分が戦いに向いていないことは最初からわかっていたし、そのステータスが低いのは別にいいんだけど……でも、もしこの世界で手っ取り早く稼ぐために戦闘能力が必要だった場合、いきなり詰み――なんてことになりかねない。

 どうなんだろう、そこんとこ。


「あ、LUCもそこそこある。運がいいのはよさそうだ」


 運はいいほうがいい。

 この補正がどれぐらい影響するかはわからなかったけど、低いよりは高いほうがいいだろう。


「あとは……HPとMPか。これ、やっぱ0になったら死んじゃうのかな」


 自分の命を数値として見せられるのは、なんだか得体が知れない怖さがある。

 今のHPのMAXは300。

 これがどれぐらいの数字なのか、まだ誰とも比べたことがないからわからない――多いのかな? 少ないのかな?

 MPは1000。

 これはなんとなく高いような気がする。

 HPの3倍以上も高い数字なのは、INTが高いことと関係してそうだ。


「このINTだって、他の人と比べて高いのかどうか、わかんないけどさ」


 ちなみにレベルは1だ。

 ここから一つレベルを上げるごとに、どう数値が変化していくんだろう。


「あとは、スキルと称号だけど……」


 スキルの欄は、見事に空欄だった。

 これから頑張れということだろう――そういうことにしておく。

 称号の欄には二つ表示されていた。


「転移者はわかるけど……セルディアの加護?」


 加護といえば、よくある異世界転移ものでは、主に神様が与える称号――じゃなかったかな。

 セルディアっていうのは、この世界の神様の名前だろうか。


 ――転移のとき、神様らしき人には会わなかったけどなぁ。


 それとも、別の何かなんだろうか。

 よくわからないけど、一応その名前を気にしておくことにする。


「ステータスはこんなもんかな。あとは、持ち物だけど……」


 仕事の帰りに異世界転移しちゃった私の手持ちはなんとも心許ない。

 まず服装だけど、どうにも防御力が低そうなニットワンピだ。異世界で浮くかな……どうかな、といった微妙なライン。

 荷物はリュックが一つだけ。

 中には財布と定期と社員証、充電が残り少ないスマホに家の鍵、飲みかけのペットボトルとハンドタオルぐらいしか入っていなかった。

 あとは、さっき王城で貰った金貨の入った巾着袋だ。

 入っている金貨の枚数は20枚。

 私を王城の入り口まで案内してくれた騎士さんの話では「贅沢をしなければ、ひと月は余裕で暮らせる」とのことだったけど、今は手持ちがこれだけしかないので、生活の基盤が決まるまで、うまくやりくりしなければいけないだろう。


「とにかく、街に降りてみるかな」


 まず、やることは今日の宿探しだ。

 治安を最優先に――でも、できるだけ安いところがいい。


 ――あとは、ご飯がおいしいとこがいいな。


 味覚が合うっていうのは、暮らしていく上では結構重要なことでしょ?

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