Epilogue
「ってことなんですけど、田村さん、どうします?」
自宅へと帰宅後、僕は今日あった経緯を田村さんに報告した。もちろんこの問いかけは、河鹿が提案した共同調査に対してのものだった。
多少は思考を巡らすものかと思っていたが、意外にも田村さんは《良いと思うわ》と二つ返事で了承した。
「だ、大丈夫なんですかね?」
《まあ多少のリスクはあるにせよ、今回はメリットの方が強いわね。なんにせよ使えるカードが増えるのは好都合よ。河鹿くんを初め、他に仲間は何人か居るでしょうし》
「やっぱり、「僕ら」って、そう言う意味ですよね?」
《なんだ、気付いてたのね》
本当に驚いたような声が受話器から漏れ、少しピキリと何かが頭に走る。まあ深くは追求するまい。なにぶん今日はもう疲れた。
「仲間って、誰なんですかね?」
《まず松崎助教授はほぼ確定ね。ふたりかも知れないし、もっといるかも知れないから、そこは未知数》
「松崎助教授……。あのナイスミドルですか? あの人、妖怪とか怪異に関係しそうには思えなかったですが……」
《河鹿くんが私を怪しんだように、私も松崎助教授は怪しいと睨んでる。これは一種の勘ね。でも河鹿くんと違って情報が少ないから、未確定の部分もあるけど……。そうそう、河鹿くんのことを調べたんだけど、彼、本当に叩いてもホコリが出てこないくらいの良識人ね。
幼い頃から許嫁一筋らしいし、それを冷やかされても涼しい顔してる。義理人情にも厚いし、ストーカーに近い被害を受けてた友人を助けたって逸話もあったわ》
「うわ、超絶ハイスペック野郎ですね」
《家族構成は祖母と両親、8つ離れた兄、10離れた妹、今年で4つになる甥と、2つになる姪がいる。河鹿家の男系は総じて短命で、大体54歳付近で亡くなってて、長くても70代まで生きた人はいない。大体は蛇との戦闘で祟られて死ぬか、長く生きてもやっぱり毒に耐えられなくなるみたいね》
予め短い命を約束された家系か……。そう考えると、世界の不条理が憎らしくなってくる。
《まあ、河鹿くんには明日にでも、了承したと伝えて》
「分かりました。でも意外です。田村さんならもう少し渋るか、なんなら却下するかもと思ってたので」
《ああ、そのこと。確かに、彼は私たちを監視下に置きたいって言う思惑もあって、仲間に誘ったんでしょうね》
「それ、あんま良いように聞こえないんですが……」
《少なくとも、河鹿くん側に優位になる条件であることは確かだわ、でも、よく言うじゃない》
そこまで言って、田村さんは一度言葉を切り、深呼吸をした。受話器越しからも、向こうの空気がヒンヤリとする幻覚が耳を伝う。
十分な間を置いて、彼女は言った。
《友は近くに。
しかし、敵はもっと近くに》
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