濃霧の夜遅く。C県N市とS県K市を繋ぐH橋の上から江戸川を覗くと、宙に浮かぶ人魂が見えるっていう噂があって、僕(A)とB、Cの仲間内3人で見に行ったんです。

 3人ともS県出身の地元だからチャリで行こうっていう話になって、近くの交差点で集合して出発。

 K市って言ったけど、そこは元々は大凧ぐらいでしか騒がれなかったくらいの小さな町で、つい先月K市と合併したばかりの田舎町だけあって街灯の数もそれほど多くなく、霧の濃さも相まって、あたりは独特な雰囲気になっていました。

 K市側から土手に上がる手前右側に神社があって、それを見てBが「おー、雰囲気出てるなー」なんて言い、仲間内で盛り上がりながらも直ぐ橋に到着、橋のたもと近くにチャリを置いて橋を見渡しました。

 さすが田舎という感じで、既に車を利用する人はおらず橋は真っ暗。一応歩道用の道もあったんだけど、僕らは広いからという理由で車道側の橋を歩き、だいたい中央らへんから川を覗き込みました。

 まあ予想通りというか何というか、そこには真っ暗な江戸川が流れていて、人魂らしき光は確認できませんでした。反対側にいるCにもどうだと聞いてみたのですが、そこも同様何も見えず川だけが流れていたそうです。

 Cは「なんだよ、何にもねーじゃん」と愚痴をこぼしましたが、その言葉には全く怒りを含んでおらず、むしろ楽しんでる感じで、僕らは「どこ情報だよこれ」とか愚痴をこぼしながら笑い合いました。

 当然、本気で人魂を見たいと思って集まったわけではなく、ただ友人同士でこうやって集まって、意味もなくただ馬鹿みたいなことをやるのが楽しかったんです。

 3人で笑い合いながらもう少し川を見ていると、突然BがN市側の橋のたもとを指差し「おい、あれ」と声を出しました。何かなーとBが指さした先に視線を向けると、街灯に照らし出された霧の中で何者かのシルエットがあるのが見えました。

 それは細身で160センチくらいの人のシルエットだったのですが、明らかに人と違う箇所がありました。頭部が異様に大きく膨らんでいて、目のような膨らみが二つ、頭部からはみ出ていたんです。昔「クロノ・トリガー」ってゲームあったじゃないですか、あれの「カエル」を想像してもらえるといいと思うんですけど、その影が明らかにこちらを見ているんです。

 僕とCはビビり上がって声が出なかったのですが、Bはむしろ果敢で、影に向かって「何だてめえは!」と声を張り上げました。もしかしたら一番ビビっていたのがBだったのかも知れませんが、あ、今はそんなことはどうでも良いですね。

 んで、Bが影に対してわめいていると、影は一瞬小さくなったんです。で、次の瞬間、影が目の前に現れました。

 ヌメヌメとした光沢のある体をしていて、なにより顔がシルエットで見た通り、カエルの顔をしていたんです。あいつは赤い目で僕らを見つめながら、Bの腕をガッと掴みました。

 一瞬の出来事に僕もCもビビってその場から動けませんでした。本音を言うと、Bを置いてそのまま逃げたかったのですが足が言うことを聞いてくれません。Bは掴まれた怒りから暴れ、カエル男を突き飛ばしてチャリの方に駆け出しました。

「おいA、C、逃げんぞ!」

 と言うBの声に僕とCはハッとし、Bの後に続いて自分たちのチャリに跨り、一目散に土手を下って商店街の方へ走らせました。

 後ろなんか振り返る余裕なんてなくて、僕らは無我夢中でチャリを漕ぎ、中央通りを抜けてコンビニで止まって初めてあたりを確認しましたが、カエル男は追ってきている様子はなく、やっと僕らは安心してコンビニで時間を潰した後、それぞれの自宅に帰りました。

 次の日、僕とBは同じ学校だったんで「昨日は大変だったなー」って、何事もなかったかのように話そうとしたんですが、Bの様子が何やらおかしく、何かあったのか尋ねてみると、昨日カエル男に掴まれた腕がおかしいと言い、見てみると皮膚が手の形にそってただれていました。

 Bを保健室に連れて行き腕の様子を見せると、先生は慌てて、すぐさま車を出しBを病院まで連れて行きました。病院まで付いて行きたかったのですが、「Bくんは、こちらでちゃんと面倒見るから」と言われて僕は学校に残りました。

 病院から帰ってきたBに話を聞くと、命に別状はなく、ただれた腕も数ヶ月もすれば治るだろうと言われ、Bは今でも病院に通っています。

 結局、カエル男はが一体何者だったのか分からないままですが、僕は今でもあそこの橋が怖くて近づけません。

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