FrogーMan編
UNUNIQUE ーーーー前回まではーーーー
「僕って、男と女、どっちに見えますか?」
僕の昔からの趣味が高じて、怪異を絡めた小説を書くことが多く、それに伴って妙な事象の相談事をよく受けることがあった。
今回の森田もそんな中の一つで、彼の体は不定期に「男性」と「女性」とが入れ替わる現象に悩まされていた。
「きっと何とかなるよ。私もできるだけ協力するし」
旧友、まどかからの後押しもあり、僕は解決策も全く浮かばない状態で森田の相談を引き受けることとなった。
調査を進める中、森田の母は既に他界しており、父親が彼の症状に関して知っている可能性が出てきた。僕は父親から森田の症状を聞くため、父親が教授として務める大学へと向かう。
「猫、好きやねんな? あ、まずは自己紹介やな。僕は河鹿ゆうもんです。ここの学生です」
大学に入りどこへ向かおうか悩んでいる最中、僕は「河鹿」と言う好青年と知り合った。そして森田の父親に会って話を聞けることになったのだが……。
「本当に申し訳ないがこれから用事があるのでね。すまないがまた日を改めて来てくれ、その時は一人も交えて食事でもしよう」
そう言って取りつく島もなく、僕はなんの成果もなく大学を追い出されてしまう。その後、森田から調査結果を催促するメールがあり、僕は近くのファミレスへと足を運ぶ。
「今日は女の子の日なんです」
「その言葉を、本当に”その言葉の意味”のまま聞いたのは初めてだ」
森田は軽く頭を整えると、自身の頭頂部と右側の側頭部の境目あたりに指を差す。
「ちょっとここらへん、触ってもらえますか?」
僕は言われた通り彼女の頭に手を伸ばす。艶やかでさらさらとした髪の毛を分け入り、頭部の皮膚へ指が到着すると、柔らかい皮膚の下には硬く隆起した何かがあるのが分かる。
「あら、何しているのかしら?」
森田の症状を調査している中、僕らは田村美奈小と言う女性と知り合う。
「生成、ね」
女性となった森田の頭部を触り、田村さんは納得した声を出す。
「般若というのは女性が鬼になった姿を現しているわ。で、それには段階があるの。『泥眼』、次に『生成』、次に『般若』」
「じゃあ、森田はこのままだと鬼になるってことですか?」
「般若はまだ成長段階で、最終形態があるの。それが『真蛇』。蛇の姿ね。
女性だから鬼になるのではなく、鬼になる過程のために、女性になったのよ。
森田くん、貴方は本来男性よ、それは断言できるわ」
僕が数日間かけて調査してもたどり着かなかった結論に、彼女はモノの数分で追い付いてしまった。
「森田くんには残酷な事実だけど、お母さんとお父さんは彼に呪いをかけた蓋然性があるわね。
あ、そうそう……。森田くん。河鹿ナオには気をつけて。
彼らは室町時代から続く自来也を祖とする蝦蟇一族の一派で、主に忍術や武術を得意とする退魔術に特化しているわ。その専門は『蛇専門』と徹底している。そこにはもちろん、真蛇となる前の『鬼女』も含まれるわ」
「田村さん、貴方、何者なんですか……?」
「私は、貴方たちが言うところの『魔女』に近い存在よ」
「田村さん。無理を承知でお願いするんですが、森田の症状を解除するためにも、協力していただけませんか?」
「良いわよ。
まあ面白そうだし。それに、無論タダで手伝ってあげようとは思っていないから安心して。私が貴方たちに協力する様に、貴方たちも私に協力してもらうわ
これから楽しくなりそうね」
ファミレスで田村さんと契約を交わしたのち、僕は大学に自転車を忘れたのを思い出し、止めていた自転車まで戻ってきた。
「あれ? クボさんまだおったんすか?」
背筋がヒヤリとした。河鹿だ。先ほどの田村さんとの会話を思い出し、僕の心臓は早鐘を鳴らす。平静を装い僕は河鹿の問いに答える。
「ああいや。自転車忘れてたのに気づいて、いま取りに戻ったって感じです」
「へえ、なるほど。クボさんから、ほのかにベリーの匂いしたから、何ぞあったんか思いましたわ」
「ベリー? あぁ、さっきのファミレスでストロベリーパフェ食ったんでそれですかね?」
「ちょいちゃいます。いやあ、すんません。僕言ったんはベリーやなくて
蛇、言うたんですわ」
再び、ゾワリと背筋に氷の様な冷たさが伝う。もしかしたら、気づかれているのだろうか?
「友達とファミレス良いですね。あ、せや……。クボさん、連絡先交換しましょ。『広げよう、友達の輪』っちゅーことです」
「よ、よろこんでー……」
河鹿が疑う様子はなく見えた。ガサゴソと自分の上着のポッケに手を入れ、携帯電話を取り出し、僕に差し向ける。正直、ものすごく断りたかったが、この状況で断れるほど僕の神経は図太く出来ておらず、僕は河鹿に言われるまま、自らの携帯電話の連絡先を交換した。
脳裏に田村さんが呆れた様子でため息を吐き「貴方、馬鹿なの?」と言う映像がよぎった。
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