Chapter25-5 聖剣の真意(4)

 どんな傷を負わせても治せる自信があるから、殺す気で攻撃しているんだろうが、スキアもずいぶんと好戦的になったものだ。絶対に師匠カロンの影響だよなぁ。


 まぁ、でも、その気概は間違っていないかもしれない。何せ、聖剣カレトヴルッフは因果を操る。


 現に、師子王ししおうは“因果操作”を使い、自身の負った傷を治療していた。ジュワジュワと斬り裂かれた腹から煙が上がっている。


 ケガが完全に治る前に、スキアも風の刃や闇魔法で攻撃を仕掛けた。


 だが、ことごく外れる。“因果操作”で命中率を下げたに違いない。


 結局、師子王ししおうは全快し、振り出しに戻ってしまった。


 再び睨み合う両名だが、今度はなかなか動き出さない。


 師子王ししおうも理解したんだろう。無闇に大技を仕掛けようとしたら、スキアに刈り取られると。速さという点においては、彼女の圧勝だもの。


 だからこそ、今度はスキアから動き出した。


「【影滑りシャドームーヴ】」


 発動するは、視界内のいずこかへ転移する最上級闇魔法。


 彼女は師子王ししおうの死角に一瞬で移動し、先程と同様の素早い居合を放つ。


 繰り出された刃をもろに腹へ食らう師子王ししおうだが、何と彼は怯まなかった。口から血を溢しながらも、聖剣によってカウンターする。


 “因果操作”も併用したんだろう。スキアは反撃を認識していたようだが、回避に一瞬手間取ってしまった。


 超近接戦闘では、その一瞬が致命傷になる。黄金の剣は見事に彼女の肩口を捉え、袈裟斬りにした。


 斬撃の衝撃によってスキアは吹き飛び、血を撒き散らしながら落下する。


「ッ」


 思わず戦闘に介入しそうになるオレだったが、グッと堪えた。


 まだ決着はついていない。今の一撃は致命傷に違いないけど、スキアにとってもそう・・だとは限らない。何故なら、彼女は光魔法師だから。


 落下中、スキアは自分の肩口に手を当て、光魔法を発動した。瞬時に傷は完治し、青白くなりかけていた顔色も元に戻る。


 スキアは崩れた大勢を立て直し、再び宙を舞った。聖剣の能力で風を操作して、師子王ししおうへ向かって突貫する。


 聖剣を正面に掲げ、風をまとう。その突進は槍の如く。


 スキアの聖剣は刀状のため、そんな扱い方をすればポッキリ折れそうだが……。


 師子王ししおうも同じ結論に至った様子。自信に満ちた表情を浮かべ、彼女の攻撃を受け止める姿勢を取った。


 はたして、両者の結末は如何いかに。


 激突と同時に、轟音が響き渡った。白と黒と黄金の煌めきが周囲に拡散し、目がくらむ。


 とはいえ、それは一秒も満たない。すぐに視界は元に戻り、結果が明らかとなった。


「うぐっ」


「……」


 被害が大きかったのは師子王ししおうの方だった。全身に切り傷が及び血塗れ。聖剣カレトヴルッフも全体にヒビが走っていた。


 一方のスキアも無傷とはいかない。いや、彼女自身はケガ一つしていないんだが、聖剣が致命傷を負っていた。


 刀身が半ばからポッキリ折れているのである。先端から半分はカレトヴルッフに突き刺さっていた。


 事前に分かり切っていた現実。ここから如何いかにしてスキアは展開するのか、非常に興味深かった。


「ハッ。僕の聖剣の方が強い。僕たち・・の正義は負けない!」


 刺さっていたスキアの聖剣――大蛇之荒真刀おろちのあらまさの刃を投げ捨て、“因果操作”で自身と聖剣の傷を消した師子王ししおう。そのままの流れで、スキアを斬り捨てようと刃を振り降ろす。


 対する彼女は冷静だった。動揺一つ見せず、折れた聖剣を敵との攻撃の間に差し込む。そして、淡々と呟いた。


「第二解放――九頭竜の一・【自己再生】」


 今度は柄の一部の闇が砕けた。白い鱗に覆われたそれが、姿をあらわになる。


 同時に、奇妙な現象が起こった。半ば折れていた刀身が、まるで生き物のようにグニョグニョと伸び、元の形状へと回復したんだ。


 カレトヴルッフの一撃を受け止めた大蛇之荒真刀おろちのあらまさは再び真っ二つに折れかけるが、途中で停滞する。半ばまで食い込んだ剣を押し返し、傷一つない刀身になった。


 おそらく、大蛇之荒真刀おろちのあらまさの【自己再生】が、カレトヴルッフの威力を上回ったんだろう。ゆえに、一撃を受け止め切れた。


 ここまで来れば、察しがつくと思う。スキアの扱う聖剣・大蛇之荒真刀おろちのあらまさは、封印を解放する度に能力が増えていく。正確には『能力が復活する』だが。


 ご存じの通り、スキアは大蛇之荒真刀おろちのあらまさに所有者として認められたわけではない。闇属性の魔力によって縛りつけ、無理やり利用しているだけだ。


 もちろん、その弊害は出ていた。全力で封印している場合は“風操作”の能力しか使えず、他の能力を使うには封印を緩めるしかないんだ。


 当然ながら、封印を解放していくごとに聖剣のコントロールが困難になるため、解放度合の見極めが大事だった。


 第二解放した今は“風操作”に加え、有形すべてを切断する【草薙】と聖剣自体を直す【自己再生】が利用できる状態だ。


「負けるかぁぁぁぁぁぁぁ!」


 気合一閃。雄叫びを上げ、カレトヴルッフに力を込める師子王ししおう。聖剣は黄金に輝き、膨大な聖剣粒子が周囲に溢れた。


「……」


 スキアは静かに相対する。鍔迫り合いの大蛇之荒真刀おろちのあらまさに力を込めつつも、聖剣粒子を無駄に拡散したりしない。少しずつ練り込むように注入していく。


 これは聖剣を全力で扱えるかどうかの差だが、実戦経験の差でもあった。


 敵とぶつかり合った際、どう力を込めて行けば競り勝てるのか。それをどこまで理解できているかが現れていた。


 ただただ全力で向かう師子王ししおうと、徐々に出力を上げていくスキア。最初こそ前者が押していた戦いも、おもむろに逆転していく。


「うお、おおおおおお、おお?」


 師子王ししおうも、途中で事態に気がついたんだろう。だが、もう遅い。


 均衡が僅かにスキアへ傾いた瞬間、彼女は勝負に出た。


「第三解放――九頭竜くずりゅうの二・【火炎】、【草薙】」


 大蛇之荒真刀おろちのあらまさの切っ先全体が白く染まり、刀身から炎の斬撃が放たれた。


 全長一メートルに及ぶそれを、体勢の崩れた師子王ししおうは受け止め切れない。後方に弾き飛ばされ、そのまま炎に呑み込まれた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る