Chapter25-5 聖剣の真意(3)

【お知らせ】

大変お待たせいたしました。

オーバーラップの公式ブログにて、書籍3巻の刊行予定日が発表されました。

来月――10月25日(金)に待望の3巻が刊行されます。よろしくお願いいたします!


――――――――――――――



「チッ、あんたたちを構ってる暇はないのよ!」


「さっさと片づけて、光輝こうきを助けにいかねぇと」


「申しわけないけど、スキアさんの邪魔はさせないよ」


「先に進みたいなら、僕たちを倒してからにしてくれ」


「チッ、何で須直すなおがそっちの味方なのよッ」


「やっぱ、洗脳されてんだな。クソッ」


「洗脳なんてされてないから!」


「ミコツ、今は目の前に集中だ」


「ごめん!」


 乱れ飛ぶ電撃と魔法、交差する剣とこぶし。


 攻撃の手数は転移者組の方が多いけど、どちらかというと実湖都みこつ&アルトゥーロ組の方が優勢だった。


 というのも、後衛を務める実湖都みこつが、敵の攻撃をすべて読み切っているんだ。回避に無駄がなく、反撃も的確。今はまだ致命打を与えられていないが、徐々に押しているのは確かだった。


 加えて、彼らの背後にはネモも控えている。フォラナーダの中でも一際強い諜報部隊の一員である彼女なら、不測の事態が起こってもフォローできるはずだ。


 この調子なら、実湖都みこつたちの勝利は堅いだろう。まさに堅実な流れだった。


 そうなると、オレが気をかけるべきは、空で戦う聖剣使いたちの方だな。


 地上戦も気にかけつつ、空を見上げるオレ。神化によって強化された視力は、遥か上空で繰り広げられる戦いも、正確に捉えられた。


 どちらも、聖剣の能力によって空中移動しているらしい。観察した感じ、スキアが風を操り、師子王ししおうは水を操っているのかな? 大気中の水分を集約し、足場としているようだ。


「不意打ちで分断なんて卑怯なマネをッ」


 師子王ししおうがそう叫び、地上に戻ろうと動く。


 しかし、その行動をスキアが許すわけがなかった。聖剣で風を操り、彼の行く手を遮る。


「チッ」


 舌を鳴らし、その場に踏み止まる師子王ししおう


 少し意外だな。水を操作する力を使って、強引に突破すると思ったんだが。無論、そんなことをすれば、無防備にさらした背中をスキアが斬り捨てただろうけども。


 もしかしたら、カレトヴルッフの水操作は、スキアの聖剣の風操作ほど自由自在ではないのかもしれない。何らかの制約がありそうだ。


 スキアを倒さなくては仲間の加勢に向かえないと、ようやく理解したよう。師子王ししおうは転身し、彼女へ聖剣を叩きつけた。スキアも素直に応じる。


 まずは小手調べのつもりか。お互いに余計な能力は使わず、純粋な剣術で斬り合った。黄金のロングソードと闇に覆われた打刀が何度も交差し、火花を散らす。


「剣の技量においては、スキアに軍配が上がるね」


 オレと一緒に戦いを観察していたノマが、そんな感想を呟く。


 もありなん。専業魔法師とはいえ、彼女はオレが監修した訓練を受けてきたんだ。最低限の近接戦闘の技量は修めている。しかも、聖剣を手に入れてからは、よりいっそう気合を入れて鍛えていたし。


 つい最近までズブの素人だった人間とは、年季が違いすぎる。


「クソッ」


 剣撃の応酬の最中、師子王ししおうが悪態を吐きながら、後方に大きく下がった。足場である水の上を、重心を動かさずに滑ったんだ。


 スキアは深追いしなかった。


 賢明な判断だと思う。今の動きを見るに、師子王ししおうは体の動きとは別に、水の上を移動できるみたいだからね。無闇に追いかけたら、予想外の挙動から不意打ちを受ける危険性があった。


 聖剣カレトヴルッフの水を操る能力は、制約さえクリアできれば、結構使い勝手が良いみたいだな。


  “因果操作”に“強化バフ”、そして“水操作”の三つか。カレトヴルッフの能力は、他に何があるんだろうか。


 己道こどう大陸の聖剣ドゥリンダナは四つの異能を、スキアの持つ聖剣も一応・・三つの異能を持っていた。となると、カレトヴルッフも、まだ能力を隠している可能性が十分考えられた。不意を突かれないよう、気をつけたいところだ。


 まぁ、わざわざ忠告しなくとも、スキアはその辺りを理解しているだろうけどね。


 二十メートルほどの距離を置き、睨み合う両名。ただし、その静寂は十秒と持たない。


「うおおおおおおおお!!!!!」


 最初に動いたのは師子王ししおうだった。聖剣を頭上に両手で掲げ、雄叫びを上げる。その気迫に合わせて、聖剣が黄金に光り輝く。


 目映い閃光が周囲を照らし、彼自身が一つの星になったよう。


 十中八九、因果操作による一撃必殺を放とうとしているんだろう。


 一見すると無防備だが、あの光が防御を担っているんだと思う。あれは聖剣粒子が濃密に圧縮された代物。生半可な攻撃は通らない。


 かといって、ただジッと待つスキアではない。師子王ししおうが雄叫びを上げた瞬間には動き始めていた。


 彼女は聖剣を自らの後方に大きく逸らし、その切っ先を足下近くまで下げた。それから、両膝を僅かに曲げて腰も落とす。いわゆる居合の姿勢である。


「いや、それだけじゃないな」


 目を凝らせば、彼女の手元に真空状態の場所ができあがっていた。それは、抜刀される聖剣の軌道を描いているように見える。


 スキアは呟いた。


「聖剣・大蛇之荒真刀おろちのあらまさ、第一解放」


 刹那、下を向いていた聖剣の刀身――刃先の闇が砕け散り、その下から純白が顔を出した。そして、


「【草薙】」


 気がついた時には、聖剣はスキアの前方――十時の方向まで振り切られていた。師子王ししおうとは対極。まったく溜めがなく、一切の音が鳴らない居合の攻撃だった。


 当然、この攻撃を向けられた師子王ししおうにも変化がある。


「ぐぉあ」


 悲鳴を上げた彼の腹は、パックリと裂けていた。右から左へとキレイな横一文字が描かれている。


 スキアの居合によるダメージであることは一目瞭然だった。先の攻撃は彼我の距離だけではなく、聖剣粒子による防御も貫通したらしい。


 おまけに、ダメージを負った影響か、繰り出そうとしていた攻撃も中断されている。


 しかし、スキアは不服そうだった。眉間にシワを寄せ、白い刃先が露出した聖剣を構え直している。


 かなりの重傷を負わせたと思うんだが……まさか、師子王ししおうを真っ二つにするつもりだったのか? 想定よりダメージを軽減されたから、残念がっている?


 この予想が当たっていたのなら、少しおっかないな。


 どんな傷を負わせても治せる自信があるから、殺す気で攻撃しているんだろうが、スキアもずいぶんと好戦的になったものだ。絶対に師匠カロンの影響だよなぁ。

 

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