Chapter25-4 道具(4)
「もう一度だ!」
焦りを声に滲ませ、アッシュが叫びました。その合図とともに、再び魔法の一斉掃射が
しかし、いくら繰り返したところで、結果は変わりません。
「【コンバージョン・リビルド】」
魔法の弾幕は互いに衝突し合い、その大半が消滅ないし周囲に着弾しました。
いくつか
……すべての軌道を逸らせませんでしたか。まだまだ精進が足りないようです。オルカやシオン辺りなら、完璧に処理し切れるでしょうに。
それにしても、子どもたちの強さは異常ですね。今しがた防御魔法で攻撃を受け止めたお陰で改めて実感しましたが、その力は
今までの
正直、こうやって搦め手を使っても、簡単には勝てませんが。
お互いに決定打が作れないのですよ。こちらの攻撃も、きっと協力して防がれてしまいます。
長期戦になれば、総魔力量の関係で
やはり、
「まだだ!」
無傷で切り抜けられたことが相当衝撃的だったのか、三度目の魔法掃射の指示を出すアッシュ。
いえ、三度に留まりません。何度も何度も同じことを繰り返しました。
ところが、それによって変化するのは崩壊する建物のみです。
ノマたちが頑強に作った孤児院も、さすがに
大量の土煙が宙を舞い、
周囲一帯が茶色い煙に覆われましたが、子どもたちは攻撃の手を緩めませんでした。
もしかしたら、こちらも視界不良だから、先程までの精度で攻撃を防げないと考えたのかもしれません。
ですが、そのようなことはありません。
すると、時間経過とともに魔法攻撃の数が減っていきました。徐々に弾幕が薄くなっていき、土煙が晴れる頃には、たった一人の攻撃しか放たれなくなっていました。
これは、敵が諦めた結果ではありません。
「なっ」
良好な視界が戻ったと同時、アッシュは絶句しました。
理由は一目瞭然。彼以外の子どもたちが、全員その場に倒れ伏していたからです。そして、彼の首元にはシオンが短剣を突きつけていました。
何が起こったのか、言をまたないでしょう。子どもたちが
彼らが頭に血を上らせ、視界不良になりやすい弾幕攻撃の連射を実行したお陰でした。冷静に波状攻撃などされていたら、これほど簡単には決着がつかなかったでしょう。少なくとも、殺さずに無力化はできなかったと思います。
ちなみに、シオンに同行していた職員たちは、
「何でだッ。俺たちは力を手に入れたのに、何で負けるんだ!」
現実が受け入れられないのか、刃が首に食い込むのも構わず泣き喚くアッシュ。その姿は、癇癪を起した子どもと表現するには、あまりにも痛々しいものでした。このままでは、自ら命を絶ちそうな勢いです。
それはシオンも感じていたようで、素早く彼を気絶させます。これにて、子どもたちの制圧は完了しました。
地面に転がる子どもたちを見て、
「カロラインさま、ご無事ですか?」
近づいてきたシオンに声を掛けられ、
そうです。今は呆然としている場合ではありません。
「はい、大丈夫ですよ。シオンの方は?」
「問題ございません。私は隠密で不意を打っただけですので」
彼女も色々と考えるところがあるのでしょう。倒れる子どもたちをチラリと窺い、眉根を寄せていました。
しかし、先程も申しましたが、懊悩する暇はありません。
「急いで、職員の方々を地下シェルターに移動させましょう。伏兵たちが駆けつけてくる前に」
「承知いたしました」
孤児院が崩壊したのです。百人全員は来ないでしょうが、敵は必ず様子を窺いにやってきます。
そうなれば戦闘は避けられません。非戦闘員の職員たちが巻き込まれないよう、対処する必要があります。
職員方の避難は、手際良く進みました。想定していたよりも、彼らの行動が素早かったのです。
どうやら、この仕事を受ける時点で、子どもたちに何かある可能性を覚悟していたようでした。ゆえに、今回の一件に対しても、それほど混乱はなかったとのこと。
それを聞いて、
「では、子どもたちを運びましょうか」
最後に、襲撃犯たる子どもたちを地下シェルターに移動させます。
お兄さま謹製の魔道具によって気絶させたので、彼らが目を覚ます心配はありません。ですから、非戦闘員と一緒にしても大丈夫です。
ところが、それを実行することは叶いませんでした。
何故なら、子どもたちが一斉に藻掻き苦しみ始めたから。
「「「「「「「「あぐ、あぅがああああああああああああああ!!!!!」」」」」」」」
その場で転がり始めたかと思うと、次の瞬間には全身から血を噴き出し始めていました。
「カロラインさま!」
「分かっていますッ」
子どもたちの苦悶の声は、すぐに収まりました。血の噴出も止まり、彼らは大人しく寝息を立て始めます。
それを認め、安堵するシオン。
一方、
彼らは、もはや死に体でした。光魔法によって体調は万全の状態に戻りましたが、それを維持する力が残っていないのです。
分かりやすく言うなら、寿命がほとんど残っていませんでした。
さらには、先程まで有していた膨大な魔力も失っています。おそらく、寿命が尽きかけている理由も、魔力の消失と関係があるのでしょう。魔力には、肉体を若々しく保つ効果がありますからね。
「これは……
削れてしまった寿命を元に戻すことは、光魔法の専門外です。生命力を操るという
自身の不甲斐なさが悔しくてたまりません。せっかく、殺さずに済んだというのに。
唇を噛み締め、湧き上がる自らへの怒りを抑え込んでいると、シオンが声を掛けてきました。
「カロラインさま、敵襲です」
「ッ」
切迫した彼女のセリフに応じ、
それと同じタイミングで、何者かがガレキの一画に降り立ちました。
「やっぱり、三十人程度では相手にならなかったみたいね」
そう何の感慨もなさそうに呟くのは、金の長髪と黒目を持つ女性です。
美しい容貌を持っていらっしゃいますが、そこに宿る感情は無。この場にいる誰にも、一切の感情を抱いておりません。『冷たい』という言葉では表現し切れない何かが、彼女の中には感じられました。
初対面ではありますが、彼女のことを
アヴァリシア・ヘーヒスト・リフォール・マンモン。兄と同じ『
探知魔法の反応からして、彼女が伏兵たちのリーダーなのでしょう。頭自ら斥候を担うとは、ずいぶんと破天荒な人物のようですね。
「アヴァリシア嬢。あなたが子どもたちを
「あら。自己紹介よりも前に質問だなんて、礼儀がなっていないのではなくて? わたしたちは初対面でしょう、カロライン嬢?」
「良いから答えてくださいッ」
彼女は先程、子どもたちに関して言及しました。しかも、捨て駒前提と思しきセリフを。
ゆえに、確認したのです。間違っても八つ当たりをしないように。この件に関して、
アヴァリシア嬢は何を思ったのか、
「そうよ。子どもたちを今のように育てたのは、わたしたちで間違いないわ。素晴らしいデキでしょう? 投薬や呪い、訓練によって、無才の子どもたちが人類を超越できたんだもの。まぁ、ここにいる子たちは失敗作だから、魔力を解放した後は一日もせずに死んじゃうのだけれど。寿命自体を削ってしまったから、光魔法でも癒せないし」
「……そうですか」
聞いてもいないことをペラペラと……。
それだけ、
ですが、これで遠慮する必要はなくなりました。子どもたちを道具のように扱う輩など、放置はできません。絶対に排除します!
次の瞬間、
しかし、直撃はしません。彼女も伊達に二つ名持ちではないようで、腰に下げていた剣を抜き、
瞬きよりも速い攻防に遅れて、ドンッと
ギリギリと鈍い金蔵音が鳴る鍔迫り合いの中、
「あなただけは、絶対に許しません!」
「あはは。許さないから何なのかしら?」
こうして、
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