【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~
Interlude-Mikotsu 勇者召喚 / 勇者(後)
Interlude-Mikotsu 勇者召喚 / 勇者(後)
「帝国の人たちが話してたこと、本当だと思う?」
「うーん。情報が一方的すぎて判断できないかなぁ。もっと別視点が欲しい」
「だよねぇ。都合のいい嘘を吹き込まれてる可能性は否定できないし」
「でも、私たちに利用価値を感じているのは確かだね」
「まぁ、そうだろうね」
でなければ、一人一人に個室を用意したりしないし、状況を整理する時間もくれなかっただろう。
わたしがコクコクと頷いていると、
「というわけで、私たちの利用価値とやらを調べてみました」
そう言うと、彼女は右手を掲げた。三センチメートル開いた親指と人差し指の間隔を注目させるように。
すると次の瞬間、
”バチバチバチ”
掲げられた指の間に、電気が走り抜けた。
「は?」
「あはははは、驚いた?」
わたしが目をパチパチと瞬かせると、
それから、今度は両手を掲げ、その間にバチバチと電気を走らせた。先程の光景は、見間違いではなかったらしい。
「な、に、それ?」
かろうじて言葉となった質問に、彼女は笑顔で答えた。
「たぶん、異世界に転移した際に身についた、勇者の能力ってやつじゃない? 国が欲する利用価値って考えて、真っ先に思い浮かんだのが特別な能力だったからさ」
言いたいことは分かる。創作物において、異世界へ渡った勇者に異能が授けられるのは定番中の定番。わたしたちに、そういった力が宿っても不思議ではない。
しかし、それを何のヒントもナシに発現させるとは。相変わらず、
わたしは眉間に指を当てながら問う。
「どうやって気づいたの?」
「前と違うところはないかって自分の内側に意識を向けてみたら、できるようになった」
全然参考にならない。これだから天才肌は手に負えないんだよ。
さらなる頭痛にさいなまれつつ、別の質問を彼女に投じた。
「それって、どんな能力なの?」
「……生体電気を増幅させる能力、かなぁ? 元々あったモノが強化された感覚」
「魔法とか、スキルとか、そういうの?」
「魔法ではないと思う。魔法って魔力を使うでしょ? そういう不思議物質が消費されてる感じじゃないから」
「断言するのは危ないと思うけど……そっか」
ここは親友の直感を信じることにした。こういう時、彼女の勘はかなり的確なんだ。
「その能力は固有のものなのかな? それとも全員一緒なのかな?」
次に考えるべきは、
個々人で違うのであれば、この場で自分が能力を発現させるのは難しい。
「それは分からないけど、試す方法はあるよ。片手だして」
「えっ、うん」
わたしは反射的に右手を差し出した。
「ッ!?」
何と、こっちに電気を流し込んだんだ。
わたしはとっさに手を離し、怒る。
「何するの、
「『何するの』って、同じ能力か調べたんだよ。結果は出たでしょ?」
「……どういうこと?」
「どうもこうも、
「え?」
引っ込めた右手に視線を向ける。
そこには先程と変わらない手のひらがあった。電気を流されたというのに、肌が赤くなるようなこともない。まったくの無傷。
「ちょっと赤くなる程度には力を込めたはずなんだけど、全然変わってない。ということは、
体内の電気を操るのなら、その体が電気に耐えられなくては意味がない。だから、電気に耐えられるイコール電気を操る能力持ちである。そういう論法だと理解する。
うん、理解はした。でも、何の説明をせずに電気を流すとは何事か。
「
「……なに?」
「正座しよっか」
「…………はい」
親しき仲にも礼儀あり。間違ったことをしたら、きちんとお説教をしないとね。
「できた」
お説教の後、わたしも電気を発生させられるか試してみた。最初は上手くいかなかったものの、三十分くらい費やした末に、指先に電気を流せるようになった。
ちなみに、その間にも
「サンプルは少ないけど、全員電気系の能力を得たって考えていいのかな?」
わたしがそう溢すと、自分の体を浮かせながら
「たぶんね。でも、他のみんなは、まだ能力に気づいてないと思う」
「それはそう。みんな、
「それ、褒めてる?」
「微妙」
「むぅ」
むくれる親友は可愛いが、前言は撤回しない。事実だから。
わたしはアゴに指を添え、疑問を言葉にする。
「帝国の人たちは、わたしたちの能力について知ってるのかな?」
「何とも言えないね。知ってたとしても、あの場では教えなかっただろうし」
「何で?」
「私たちが暴れないとも限らないから」
「確かに」
こっちが誘拐されたと判断し、暴れ回る。その可能性を向こうが危惧していても不思議ではない。
「結局のところ、しばらくは帝国に従うしかないね。この世界のことを私たちは何にも知らないし、元の世界に帰る方法も分からないし」
「そうだね」
彼女の言う通り、わたしたちに選択肢はなかった。
黒髪イケメン曰く、放流者を回収しただけであって、世界を飛び越えて呼び出したわけではない。ゆえに、帰還方法は知らないと言うんだ。
故郷に帰れないなら、帝国に留まるしかなかった。
「あと、
「あー……」
続く
顔が整っていることはもちろん、スポーツ万能で勉強もできる。そして、困った人を放っておけないという、ヒーローみたいな性格も有している。多くの女の子が注目する少年だろう。
ただ、わたしたちは、彼のことが苦手だった。
加えて、
わたしが渋い顔をしていると、
「まぁ、仕方ないよ。帝国以外との繋がりを作れるよう努力しつつ、ある程度は協力的でいよう。その過程で、帰る方法が見つかるかもしれない」
「うん、そうだね。希望を捨てずに頑張ろう」
少し前向きになれた気がする。
親友を連れて、絶対に帰る。
それが、この異世界でのわたしの目標だ。
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