【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~
Interlude-Mikotsu 勇者召喚 / 勇者(前)
Interlude-Mikotsu 勇者召喚 / 勇者(前)
わたしの名前は
家が多少裕福な影響で、中学までは割と良い学校は通わせてもらっていたけど、性根はバリバリの庶民だ。ファストフードは大好きだし、特売品を見たら手を出しちゃうし、流行りのゲームもそれなりに遊ぶ。
見た目だって地味。背中まで伸びた黒髪をおさげに結んだ、没個性の塊である。
そんなわたしにも、平凡とは異なるものが二点あった。
一つは親友の存在。
まずは、その肩書きに注目すべきだろう。今や世界一の企業と評される『DDテクノロジー・オルセン』の社長令嬢なんだ。しかも一人娘。幼少の時分でも分かるくらい、彼女は家族から溺愛されていた。
次に容姿の端麗さ。ノルウェー人の血が混じったクオーターで、シルバーブロンドのロングヘアと碧眼がとても麗しい。スタイルもボンキュッボンって感じで、チンチクリンのわたしとは正反対だ。個人の好みの差はあるだろうけど、テレビに出ているどのアイドルよりも可愛いとわたしは思う。
他にも長所はある。国内一番の大学を今からでも狙えるほど頭が良いし、現役の運動部と張り合えるくらい運動神経も良い。性格だって、誰にでも優しく大らか。
まさに、完璧超人とは彼女のことを指す言葉だった。
何で、わたしみたいな平凡女が
その点については、わたしも不思議でならない。学校がずっと一緒だったというのも要因なんだろうけど……最大の理由は”気が合ったから”かなぁ。
誰もが認める超人の彼女は、その実、とても庶民的な感性を有している。一般家庭で出されるような素朴な味が好みだし、服装はユニシロで十分とか言っちゃうし、ゲーセンのクレーンゲームでお小遣いを溶かしちゃうし。容姿に目をつむれば、わたしと同じ普通の女子高生だ。
あと、同好の士であることも仲が良い理由かも。
あまり公では言いふらしていないけど、わたしたちって、いわゆるオタクなんだ。アニメや漫画、ラノベをガンガン読んでいるし、グッズも大量に買っている。もちろん、学生のお小遣いで足りる範疇だけど。
特に
そういった経緯もあって、わたしは
はてさて。長々と親友について話してしまったが、そろそろ、二つ目のわたしの平凡ではない点を語ろうと思う。
といっても、
「呼びかけに応じてくださり、ありがとうございます、異界の勇者方。ようこそ、アンプラード帝国へ」
放課後、
お喋りの時そのままの姿勢だったので、昏睡させられたわけではなさそう。親友の素性が素性ゆえに誘拐の線は捨て切れないけど、その可能性が低いことは明らかだった。
何せ、この場にいるのは、わたしたちだけではない。放課後の教室に残っていたクラスメイト全員がいたんだ。少なくとも、
また、先のセリフも否定材料の一つ。
目前にいる黒髪のイケメンさんは、わたしたちを指して『勇者』と呼んだ。オタクであるわたしはビビッと来たよ、「これ、異世界転移じゃね?」って。
そう考えると、現状の説明も容易だった。黒髪イケメンは勇者を呼んだ魔術師さんで、周囲の人々はアンプラード帝国? の重鎮さんと騎士さんたち。この荘厳な広間は、お城のどこかなんだと思う。
テンプレのクラス転移。オタクとして少しワクワクした。わたしも無双とかしちゃうのではと心躍った。
……ごめん、嘘。めっちゃ不安。だって、勇者ってことは、戦わされるってことでしょ? まともなケンカもしたことないのに、生き物相手に武器を振れるはずがない。
家に帰れるか否かも心配する部分だった。物語の主人公みたいに、あっさり故郷を切り捨てるなんて無理。家族が心配するのを想像すると、心が痛くなる。
「大丈夫、
「えっ、あ、うん。ちょっと怖くて」
「心配いらないよ、私がいるから」
「ありがとう」
親友には、気落ちしているのを見破られてしまったらしい。励ましの言葉をくれた。
自分も同じ状況なのに他人に気を配れるなんて、やっぱり
わたしは軽く頬を叩いた。
くよくよしている場合じゃない。
一度気を引き締め直すと、周りの状況がよく見えるようになった。
クラスメイトたちの反応は二つに分かれている。わたしと同じく不安がる者とウキウキしている者。後者はオタク趣味の人が大半だった。
推定異世界人たちは……よく分からない。ただ、値踏みされているのは察した。ジッとこちらの様子を窺っている。
「突然の事態に混乱していることでしょうが、どうか落ち着いて聞いてください。今より、あなた方の状況をご説明いたします」
黒髪イケメンが説明を始めた。
要約すると、わたしたちがココにいるのは事故らしい。
異世界に召喚されたことや帝国がわたしたちを呼び寄せたのは間違いない。だが、前提として、彼らが何もせずとも、わたしたちは異世界に落ちていたとのこと。散り散りになるところを、召喚術によって保護したらしい。
真偽は判然としない。わたしたちに恩を着せるため、嘘を言っている可能性は否定できない。実際、帝国側は保護の代わりに、国に貢献してほしいと要求している。
とりあえず、その場は解散となった。頭を整理する時間が必要だろうと、用意された個室に案内されたんだ。
あてがわれた部屋は、想像していたよりも快適なものだった。こういった異世界転移モノだと元の世界よりも低い生活水準というのが定番だけど、ここは当てはまらないよう。ベッドはフカフカだし、トイレも水洗だ。
しばらく部屋の中を散策していると、扉がノックされた。同時に、外で待機していたメイドさんから「ユリエさまがお見えです」と伝えられる。
「お邪魔します」
わたしが入室の許可を出すと、
「様子を見に来たんだけど、思ったよりも元気そうだね。安心した」
「うん、もう大丈夫。さっきはゴメン」
「いいよ、気にしないで。誰だって、突然異世界に呼ばれたって聞かされたら動揺するよ」
「それにしては、
「慣れだよ、慣れ」
わたしが首を傾ぐと、彼女はヒラヒラと手を振った。
「気にしないで。似たような経験があるってだけで、私も異世界転移は初めてだから」
ものすごく気になる言い回しなんだけど、長年の付き合いで分かる。これについて、彼女は明かしてくれそうにない。今は諦めた方が良さそうだ。
それから、今後の相談を始めた。
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