Chapter14-5 モルモット(2)
翌朝。生徒会室にはエコルとオレ、生徒会長のウルコア、副会長のマウロア、ミーネル、教師のロクーラがいた。
生徒会役員さえ全員そろっていない。行方不明者を捜索するにしては、あまりにも矛盾した状況だった。
エコルは困惑げに、昨日準備を進めていたミーネルに問う。
「えっと、どういうことなんでしょう?」
「色々、複雑な事情がありまして……」
抽象的な質問だったが、しっかり意図が伝わった模様。ミーネルはこれまでの経緯を説明し始めた。
「まず、ヴィベレ・ギリが行方知れずである事実確認は取れました。寮以外でも姿を見た者はおらず、授業もすべて無断欠席。しかし、島外へ出た形跡も見つかりませんでした。事件か事故かは判断できないものの、何かしらの異常に巻き込まれたのは間違いないでしょう」
かなりの人数への聞き込みが必要となる作業のはずだが、ミーネルはたった半日で裏取りを済ませたらしい。生徒会所属は伊達ではないみたいだ。
ところが、そんな優秀な彼女でも対処できない事態はある。
「ただ……調査の過程で発覚したのですが、行方不明者はヴィベレ・ギリさんのみではなかったようです。他にも、しばらく姿を見せていない生徒が十名もいました」
「誰も気が付かなかったんですか?」
僅かに呆れの混ざった声をエコルはあげる。
至極真っ当な感想だ。十――ヴィベレも合わせれば十一名の生徒が消えていたのに、誰一人として気づかなかったのは、いくら何でも間抜けすぎる。
対し、ミーネルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「反論の余地もありませんね。言いわけにはなりますが、多忙な時期と重なった上、行方不明者全員が社交的ではなかったのが、発覚の遅れた原因です」
忙殺されていた状況で、ボッチで影の薄い生徒を認知するなんて難しいわけか。
「……」
言いたいことは分かるけど、納得はできない。そういった渋い顔をするエコル。
このままでは話が進まないと踏んだオレは、彼女の肩を軽く叩いた。
「気持ちは分かるが、彼女を責めるのはお門違いだ。今は捜索に専念すべきだろう?」
ずさんだったのは教師たち学校運営側であって、一生徒にすぎないミーネルは無関係だ。ここで怒りをあらわにする行為は、単なる八つ当たりになる。
それはエコルも理解しているんだろう。彼女は素直に応じた。
「……そう、だね。ごめんなさい、ミーネルさん」
「いえ。エコルさんのお気持ちは理解できますから、お気になさらず」
頭を下げて謝罪するエコルを、ミーネルを受け入れる。お陰で、重くなった空気が幾許か緩和された。
その隙を突き、今まで黙していたウルコアが口を開く。
「擁護ではないが、五ヵ国より子どもが集まるからな。膨大な人数から十一人程度が消えようと、気づかないのは無理もない。それが平民なら尚更だ」
「我々教師は反省すべきなのは変わりませんが、もしも誘拐なら、犯人は時間稼ぎも狙ったのでしょうね。消えても気づかれにくい相手を、意図して標的にした」
この場で唯一の教師ロクーラも、肩身を狭そうにしながら言う。
彼の見解は正しい。平民かつ孤立した生徒を狙うのは、事件の露見を少しでも遅らせるための策だったんだろう。似たような手法は、聖王国の学園でも行われていた。
犯人の過ちは、完全に孤立していなかった生徒をターゲットにしてしまったこと。そのせいで、こうして露見した。そのミスさえなければ、学園の時のように何年も発覚しなかったかもしれない。
行方不明の件が、想像以上に大きな案件であることは理解できた。
しかし、未だ現状の説明はもたらされていない。何故に六人しか集まっていないのかは判明していなかった。
「そんな大事件なのに、どうして六人だけなんです?」
エコルが恐縮しつつ尋ねると、ミーネルは申しわけなさそうに答えた。
「ここにいない生徒会メンバーと他の教師陣は、別件の対処に当たっています」
「別件?」
「ええ。湖岸沿いの街に、大量の竜の素材――ドラコマテリアが売られたらしく、学校側はそちらの対応に追われています。その助っ人に、ここにいないゼンタたちは向かわせました」
「それは……」
ミーネルの語る理由を訊いたエコルは、気炎を上げ気味だった勢いを失ってしまう。
この反応は些か意外だった。二人に語り口からして政治的な話なんだと察するが、エコルなら気にせず『人命が優先です!』とでも豪語すると思っていた。
よほど、ドラコマテリアが絡む問題は難しいよう。
会話の腰を折るのも嫌だったので、オレはこっそりロクーラへ話しかける。
「ドラコマテリアとやらが大量に売られるのは、相当マズイのか?」
「ひっ!? ……えっと、はい。ドラコマテリアは竜の鱗や爪、牙の総称です。それが大量に売られるということは――」
「――すなわち、ドラゴンが大量に狩られたと同義か」
「はい。ドラゴンは魔獣でもトップ層の実力。野生なら周辺地域を巻き込む大問題です。逆に使い魔だった場合でも国際法に反しますので、やはり大問題です」
「あー……『戦闘行為や事故以外で、使い魔を害してはならない』だったか?」
「その通りです。それを破った者は、厳しく罰されます」
「だから、学校側も優先して動かなくちゃいけないのか」
無関係だと証明しなくては、自分たちの責任に見舞われる。最悪、生徒一人一人が尋問を受ける事態にまで拡大してしまうだろう。
それくらい国際法は重い。五ヵ国すべてより罪人だと糾弾されるゆえに、その者の未来は果てしなく暗くなるんだ。
“運営人の責任問題や全生徒にかかる容疑”と“十一人の生徒の安否”を天秤にかけたら、前者に傾くのも仕方なかった。
それでも、もう少し人員を割いてほしかった。そんな感情がアリアリと面に浮かんでいるエコル。ミーネルも同感なのか、眉間にシワが寄っていた。
重苦しい空気が場を支配する中、今まで黙していたウルコアが口を開く。
「安心しろ、エコル。この俺が協力するのだ、絶対に行方不明者は見つかる!」
どこにも根拠のないセリフだった。だが、底なしに明るい声音は、幾分か暗い雰囲気を払拭してくれた。
「自分も協力する。犯人、ボコボコ」
そこにマウロアも続いた。シュッシュッと拳を空打ちして、何が立ちはだかっても殴り飛ばすと宣言する。
両名とも、腐っても王族だ。みんなの意識を引っ張るカリスマは有している模様。すっかり雰囲気は切り替わり、二人へ注目が集まった。
ただ、格好良く締まるわけではない。
「フン。犯人を屠るのは、この俺だ。でしゃばるなよ、マウロア」
「違う。倒すのは自分。弱者は引っ込んでろ」
「何が弱者だ。総合成績は俺が上だぞッ」
「実技は自分が上」
「ほぅ。吠えたな? ならば、ここで上下関係をハッキリつけようではないか!」
「望むところッ」
といった風に、何故か争い始めてしまうウルコアとマウロア。
彼らが衝突する理由なんて、火を見るより明らかだった。何せ、言い争いつつも、チラチラとエコルの様子を窺っているんだもの。意識しているのはバレバレだった。
当のエコルはドン引きしている。そろそろとオレの影に隠れるほど。
正直やめてほしい。そのせいで、オレが二人から睨まれるではないか。
「やめなさい、二人とも!!」
本気で戦い始めそうになった二名を、ミーネルが怒鳴り声を上げて止めにかかる。彼女だけでは力不足なので、仕方なくオレとエコル、ロクーラも加勢した。
こんなメンバーで本当に大丈夫なんだろうか?
そう不安を抱きながらも、オレたちは捜索活動に乗り出すのだった。
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