Chapter13-ep 呼応(2)
「どの時代にも、バカは絶えないんじゃのぅ」
似たような輩に心当たりがあるのか、サザンカは遠い目をした。
しかし、それも一瞬のこと。すぐに表情を改める。
「あい分かった。先例を知るゆえに、ワシの存在も受け止められたのじゃな。『試練を課す者』に関しては何故?」
「実際に受けたニナたちの証言と
「うむ、正解じゃ。難しい話でもなかったか」
サザンカは例外として、聞く限りでは
そうなると、武力以外に立場を盤石にする手段がいる。それが、『試練を課す者』なんだと思う。クリアすれば確実に強くなれる方法なんて、戦士なら喉から手が出るほど欲しいもの。
サザンカは口元に手を当て、僅かに黙考した。
「『
「今はそれで頼む」
いずれは詳しく知りたいが、それはもう少し理解を深めた後が良い。
それから、彼女は
まず、『
次に
ただ、実際に戦った場合の勝敗はともかく、出力的には魔法司が上回るだろう。魄術は個人の魂を深く読み込む術。世界と契約する魔法とはスケールが違う。
要するに、サザンカは
どうりでニナにも試練を課せるわけだよ。人類を超越した強者だもの、それくらいは
ここまでの話の時点で、サザンカの処遇は決まったも同然だった。
何せ、魔法司レベルの存在である。誰が身柄を預かるかなんて言をまたない。
殺すという選択肢もあるが……あまり取りたくはないな。彼女は協力的だし、何より『試練を課す者』の能力はとても有用だ。
根回しは大変だろうけど、ここは取り込んでしまおう。
「サザンカ。あなたの身の安全は我々フォラナーダが保証しよう」
「願ったりじゃな。代わりに、必要な者には試練を課そう」
「話が早くて助かるよ。しばらくは屋敷内に留まってもらうが、そのうち外出の自由も約束する。よろしく頼む」
「ありがたい。こちらこそ、よろしく」
オレたちは握手を交わし、協力関係を結んだ。
穏便に話が進んで、本当に良かった。
それからすぐ、カロンたちの紹介しようと移動を開始したんだが、
「おっと、忘れるところだった」
部屋を出る寸前、一つ尋ね忘れていたことがあったのを思い出す。
「この男に見覚えはないか?」
サザンカに一枚の写真を見せた。写っているのは
神殿関係の調査は、彼に刻まれていた“刻印”を発端としていた。一度に情報が増えすぎて、その辺りの追求をうっかり忘れていたんだよね。他に比べると、重要度も低かったし。
サザンカは写真を注視する。
「すまん。覚えのない顔じゃ」
一分ほど眺めていたが、彼女は首を横に振った。嘘を吐いている様子もない。
彼女は問い返してくる。
「その男がどうしたんじゃ?」
「レクスたちのシンボルマークっぽい“刻印”が、手のひらにあったんだよ」
「嗚呼、なるほどのぅ」
こちらの回答に対し、サザンカは意味深に頷いた。“刻印”について、何か知っているらしい。
「写真の男は、レクスによって召喚されたのじゃろう。“刻印”は召喚された者に刻まれる証じゃ。奴が死んで消えてしもうたが、ワシにも刻まれておった」
ワシの場合は右胸の上部じゃったよ、と彼女は語る。
「
「違うと思うぞ。“刻印”は呼び出された時点で刻まれる。契約せずとも、な。以前に、二人目も呼び出せないかと実験をしておったし、その時に呼ばれたのじゃろう。失敗じゃと聞いておったが、召喚自体は成功しておったようじゃ」
「無茶な召喚をした影響で、出現地点が狂ったってことか?」
「専門ではないゆえに確実とは言えんが、おそらくのぅ」
なるほど。色々と得心がいった。
元々、
「それにしても、厄介な術だな。ヒトを容易く
「ヒトを呼べるのは限られた血筋のみだとレクスは言っておったが、何の慰めにもならんか」
「その通りだ。知ってしまった以上、放置はできない」
身の安全を考えると、レクスの故郷は一度調べた方が良いだろう。別大陸に渡る手段は、理論上なら完成している。
まぁ、すぐさま出向くわけにはいかないけどさ。
そんな不穏な会話を交わしながらも、オレはサザンカをカロンたちに紹介した。フォラナーダのメンバーのみを談話室に集め、粗方の事情を説明する。
「よろしくお願いする」
彼女が頭を下げると、みんなも快く歓迎してくれた。妙な確執が生まれなくて一安心である。
その後、彼女たちは仲良く雑談に移る。試練に関する話題が主だった。みんな、強くなりたいと願いつつも、壁にぶつかっていたからな。
しかし、意外だったのは、
「カロライン嬢。お主に試練は与えられない」
オレと同様、カロンも試練が受けられないことだった。
カロンは驚く。
「えぇ、何故でしょう?」
「お主はすでに覚悟を決め切っており、精神的に乗り越えるべきものが存在しない。実力も同じじゃな。今のアプローチのまま突き進めば良い」
「このまま鍛えれば大丈夫だと?」
「うむ」
「うーん。喜ばしい話なのでしょうが、少し残念です」
割と試練を楽しみにしていたらしい彼女は、若干肩を落とす。
まぁ、こればかりは仕方ない。
和気あいあいと会話が進み、オレも穏やかにそれを見守る。
だが、そんな中、ふと妙な感覚がオレを襲った。
「あ?」
思わず声が漏れると同時、足元に光る魔法円が出現する。
「これはッ!?」
「お兄さま!?」
対応する暇はなかった。みんなの驚愕の声を耳にしつつ、オレの視界は目映い光に包まれた。
そして、次に目撃した景色は――
「ひ、ヒトが呼び出された?」
「あははははは。落ちこぼれが平民を呼び出したぞ!」
「やっぱり、落ちこぼれは落ちこぼれだな」
――――――――――――――
これにてChapter13は終了です。
幕間を二話挟んだ後、Chapter14を開始する予定です。
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