Chapter13-ep 呼応(2)

「どの時代にも、バカは絶えないんじゃのぅ」


 似たような輩に心当たりがあるのか、サザンカは遠い目をした。


 しかし、それも一瞬のこと。すぐに表情を改める。


「あい分かった。先例を知るゆえに、ワシの存在も受け止められたのじゃな。『試練を課す者』に関しては何故?」


「実際に受けたニナたちの証言と百々目鬼とどめきの能力を鑑みれば、当たりはつく。言葉通り、戦士とかに試練を課す役職なんだろう。それを繰り返し、戦力を充実させていった。違うか?」


「うむ、正解じゃ。難しい話でもなかったか」


 サザンカは例外として、聞く限りでは百々目鬼とどめき族に直接的な武力はない。


 そうなると、武力以外に立場を盤石にする手段がいる。それが、『試練を課す者』なんだと思う。クリアすれば確実に強くなれる方法なんて、戦士なら喉から手が出るほど欲しいもの。


 サザンカは口元に手を当て、僅かに黙考した。


「『どく』や死鬼しきについてじゃったか。詳しく説明すると長くなる上、専門的な話になってしまう。大雑把に語るとしよう」


「今はそれで頼む」


 いずれは詳しく知りたいが、それはもう少し理解を深めた後が良い。


 それから、彼女は滔々とうとうと語り始めた。


 まず、『どく』とは、魄術びゃくじゅつの分類の一つらしい。魔法で例えるなら属性か。魔法ほど生まれに縛られないようだが、得手不得手は偏るとか。


 次に死鬼しき。一つの分野を極めた魄術びゃくじゅつ師の総称だという。己の魂を真に理解した者の立つ領域。魔法司に似た立場だな。


 ただ、実際に戦った場合の勝敗はともかく、出力的には魔法司が上回るだろう。魄術は個人の魂を深く読み込む術。世界と契約する魔法とはスケールが違う。


 要するに、サザンカは魄術びゃくじゅつ版の魔法司だ。


 どうりでニナにも試練を課せるわけだよ。人類を超越した強者だもの、それくらいはこなせて・・・・当然だ。


 ここまでの話の時点で、サザンカの処遇は決まったも同然だった。


 何せ、魔法司レベルの存在である。誰が身柄を預かるかなんて言をまたない。


 殺すという選択肢もあるが……あまり取りたくはないな。彼女は協力的だし、何より『試練を課す者』の能力はとても有用だ。


 根回しは大変だろうけど、ここは取り込んでしまおう。


「サザンカ。あなたの身の安全は我々フォラナーダが保証しよう」


「願ったりじゃな。代わりに、必要な者には試練を課そう」


「話が早くて助かるよ。しばらくは屋敷内に留まってもらうが、そのうち外出の自由も約束する。よろしく頼む」


「ありがたい。こちらこそ、よろしく」


 オレたちは握手を交わし、協力関係を結んだ。


 穏便に話が進んで、本当に良かった。


 それからすぐ、カロンたちの紹介しようと移動を開始したんだが、


「おっと、忘れるところだった」


 部屋を出る寸前、一つ尋ね忘れていたことがあったのを思い出す。


「この男に見覚えはないか?」


 サザンカに一枚の写真を見せた。写っているのは士道しどうである。


 神殿関係の調査は、彼に刻まれていた“刻印”を発端としていた。一度に情報が増えすぎて、その辺りの追求をうっかり忘れていたんだよね。他に比べると、重要度も低かったし。


 サザンカは写真を注視する。


「すまん。覚えのない顔じゃ」


 一分ほど眺めていたが、彼女は首を横に振った。嘘を吐いている様子もない。


 彼女は問い返してくる。


「その男がどうしたんじゃ?」


「レクスたちのシンボルマークっぽい“刻印”が、手のひらにあったんだよ」


「嗚呼、なるほどのぅ」


 こちらの回答に対し、サザンカは意味深に頷いた。“刻印”について、何か知っているらしい。


「写真の男は、レクスによって召喚されたのじゃろう。“刻印”は召喚された者に刻まれる証じゃ。奴が死んで消えてしもうたが、ワシにも刻まれておった」


 ワシの場合は右胸の上部じゃったよ、と彼女は語る。


士道しどう……この男は、レクスが送ってきた先兵だったのか?」


「違うと思うぞ。“刻印”は呼び出された時点で刻まれる。契約せずとも、な。以前に、二人目も呼び出せないかと実験をしておったし、その時に呼ばれたのじゃろう。失敗じゃと聞いておったが、召喚自体は成功しておったようじゃ」


「無茶な召喚をした影響で、出現地点が狂ったってことか?」


「専門ではないゆえに確実とは言えんが、おそらくのぅ」


 なるほど。色々と得心がいった。


 元々、士道しどうがどうやって海を越えてきたのか謎だったんだ。召喚事故によって近海に放り出されていたと考えれば、話の筋が通る。


「それにしても、厄介な術だな。ヒトを容易くさらえるなんて」


「ヒトを呼べるのは限られた血筋のみだとレクスは言っておったが、何の慰めにもならんか」


「その通りだ。知ってしまった以上、放置はできない」


 身の安全を考えると、レクスの故郷は一度調べた方が良いだろう。別大陸に渡る手段は、理論上なら完成している。


 まぁ、すぐさま出向くわけにはいかないけどさ。


 そんな不穏な会話を交わしながらも、オレはサザンカをカロンたちに紹介した。フォラナーダのメンバーのみを談話室に集め、粗方の事情を説明する。


「よろしくお願いする」


 彼女が頭を下げると、みんなも快く歓迎してくれた。妙な確執が生まれなくて一安心である。


 その後、彼女たちは仲良く雑談に移る。試練に関する話題が主だった。みんな、強くなりたいと願いつつも、壁にぶつかっていたからな。


 しかし、意外だったのは、


「カロライン嬢。お主に試練は与えられない」


 オレと同様、カロンも試練が受けられないことだった。


 カロンは驚く。


「えぇ、何故でしょう?」


「お主はすでに覚悟を決め切っており、精神的に乗り越えるべきものが存在しない。実力も同じじゃな。今のアプローチのまま突き進めば良い」


「このまま鍛えれば大丈夫だと?」


「うむ」


「うーん。喜ばしい話なのでしょうが、少し残念です」


 割と試練を楽しみにしていたらしい彼女は、若干肩を落とす。


 まぁ、こればかりは仕方ない。


 和気あいあいと会話が進み、オレも穏やかにそれを見守る。


 だが、そんな中、ふと妙な感覚がオレを襲った。


「あ?」


 思わず声が漏れると同時、足元に光る魔法円が出現する。


「これはッ!?」


「お兄さま!?」


 対応する暇はなかった。みんなの驚愕の声を耳にしつつ、オレの視界は目映い光に包まれた。


 そして、次に目撃した景色は――


「ひ、ヒトが呼び出された?」


「あははははは。落ちこぼれが平民を呼び出したぞ!」


「やっぱり、落ちこぼれは落ちこぼれだな」


 瞠目どうもくする一人の少女と、わずらわしい少年少女たちの集団だった。




――――――――――――――


これにてChapter13は終了です。

幕間を二話挟んだ後、Chapter14を開始する予定です。

 

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