Chapter13-4 色の衝突(3)
「【
そう簡単には終わりませんよね。
一つの大声とともに、空に
それだけではありませんね。
アイナは歪んでいました。いえ、この表現は的確ではないでしょう。彼女の周りを、景色を歪ませる膜のようなものが囲っているのです。魔力の密度も高く、アレを突破するのは並大抵の術では不可能だと理解できました。
牽制で破魔矢を何本か放ちますが、空間の半ばで消滅してしまいます。色魔法でも貫通できませんか。
ただ、割と良い線はいっているようですね。アイナの頬が若干引きつったのを見逃しませんでした。普通の攻撃だと、膜に触れた途端、消滅する仕様なのかもしれません。
ならば、もう少し魔力を込めたら突破できそうです。
問題は、その魔力を込める時間を確保できるかどうか。
「ぐっ」
次の瞬間、
これは土魔法の【重圧】?
……いえ、魔力の流れを一切感じませんでした。重力を操作したのは間違いないですが、魔法の類ではない?
混乱する
「あははははははは。こうなったら、もうあなたは手も足も出せないわ! このまま、星の力に圧し潰されなさいッ」
「ぐぅ」
襲い掛かる重さが増えました。骨がきしみ、筋肉が震えます。
敵が重力を操っているのは間違いなさそうですね。ですが、今回も魔力を使った痕跡が窺えない。
もしかしなくとも、先の【
そうなると、あの膜の正体も読めてきますね。自身の周りの重力を捻じ曲げていると考えられます。
しかし、答えが導けたからといって、現状を打破する
光魔法は、端から選択肢に入りません。景色を歪ませている以上、かの魔法が光を曲げる出力があるのは明白。素の劣る属性魔法は役に立ちません。
そうこうしているうちに、さらに重力が強まります。内臓が傷ついたのか、口から血がこぼれました。【身体強化】のお陰で、ギリギリ持ち堪えられている状態です。
「案外、大したことなかったわね。色魔法を使う奴がこの程度なら、他の場所で泥臭く抗っている連中も簡単に片づくでしょう」
こちらが何もできないと判断したのか、アイナはそのような暴言を吐きました。
想定内ではありますが、やはり、彼女は今回の事件を引き起こした輩の仲間らしいです。よりいっそう、この魔法司を取り逃す理由はなくなりました。
それに――
「家族や仲間を侮辱されて、黙っているわけには参りませんね」
お兄さまの誇れる妹として、なめられっぱなしは許容できません。大切な家族たちを傷つけさせるわけにもいきません。
こちらの呟きを耳聡く聞いたようで、アイナは鼻で笑いました。
「這いつくばるしかない分際で、何をほざいているの? その歳でアタシと同等の実力者なのは素直に感心できるし、奥の手を使わせたのは誇って良いけど、あなたの負けは確定よ」
相手が悪かったわね、と嘲笑う彼女。
まぁ、相性が悪かったのは認めましょう。重力という檻を、技巧で解決できないのは事実です。
ですが、いつ、
小さく深呼吸し、新たな魔法を発動します。
「【
発動句が紡がれたと同時、
「まさか自害?」
こちらの状態を見て戸惑うアイナ。
しかし、見当違いですよ。これは自らを殺める魔法ではありません。いえ、ヒトとしては誤っているのかもしれませんが、死ぬような術ではないです。
障害がなくなった
それを受け、アイナは動揺します。
「ど、どうしてッ。というか、その姿は何!?」
彼女の言うように、
大きな変化は髪色でしょう。自慢の金髪は、今や赤色に染まっております。赤魔法特有の、光沢のある炎の色に。
また、体のところどころから炎片が漏れてもいました。まるで、
これぞ【
今の
本来なら、すでに席の埋まっている赤の魔法司には至れません。
ですが、
とはいえ、かなり無茶な魔法なのは間違いないです。制限時間がありますし、魔力消費は色魔法の比ではありません。何より、解除後しばらくは光魔法を使えなくなるのが難点でした。
スタンピードの真っ最中ゆえに、アイナを下した後の継戦も視野に入れていたのですが、今の
形成は逆転しました。魔法司十八番の、一方的な蹂躙が始まるのです。
「【
アイナが焦った風に茶魔法を発動しました。
おそらく、重力で敵を吹き飛ばす術なのでしょう。
伊達に魔法司の一柱を担ってはいませんね。魔法司との戦いを心得ている。
しかし、こちらもその手の技は想定済みです。
それによって発生する現象は――加速。純粋な速さが、敵の茶魔法を捻じ伏せます。
一瞬でアイナの目前まで移動した
「ごほっ。……そんな、うそ……だ」
炎を秘めた拳は、穿った穴から彼女のすべてを燃やし尽くします。
数秒後には、茶の魔法司はキレイさっぱり消えていました。
本当は生け捕りにした方が良かったのですが、現状では難しいと言わざるを得ません。お兄さまもおらず、他の面々も魔獣狩りに専念していますからね。貴重な戦力を費やしてまで、彼女を生かしておくメリットが感じられませんでした。
お兄さまなら、もっとスマートに解決したのでしょうけれど、ないものネダリをしても仕方ありません。
ふぅと一息吐き、
「嗚呼、魔力がほとんど残っていませんね」
まったく戦えないわけではないですが、上級二、三発が限界でしょうか。最上級は無理ですね。
この魔法、発動中は万能感に溢れるのですけれど、使用後の反動が大きいのが難点です。他者は、この程度の反動で済んでいることに驚くのでしょうが、お兄さまの隣を目標とする身としては、精進しなくてはいけません。
ドッと押し寄せる疲労感を我慢し、【念話】で魔法司を下した旨を伝えます。皆に色々と怒られてしまいましたが、こちらの身を案じてのことだと理解していたので、甘んじて受け入れました。
その後、三回ほど魔獣たちの襲撃を経た辺りで、あれだけ溢れていた魔獣の群れの発生が途絶えました。
お兄さまたちが黒幕を倒したのでしょう。さすがはお兄さまですね!
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