Chapter12-ep2 囚人
王城地下にある貴人用の独居房に、オレはシオンを伴って訪れていた。分厚くて無機質な、もはや鉄塊と呼んでも良い扉を開こうとしている。
この中に収容されている囚人は
あと、彼女自身の身を守る意図もあった。【
まぁ、それらの保障も、残り僅かの期限付きなわけだが。
先の謁見の後、女王
そんなわけで、オレは最後の訪問を敢行した。やらかした内容や彼女の保有能力などを鑑みると極刑は堅い。港町への対応で多忙を極めるのは目に見えているので、そうなる前に色々と観察しておきたかったんだ。
銀行の金庫かと見紛う重厚な扉をゆっくり開き、入室するオレたち。
貴人用の居房とあって、中は快適そうな作りだった。ワンルームマンションのイメージが近いか。ベッド等の家具は高級な代物だし、風呂やトイレは別室に区切られている。手狭ではあるものの、それなりの生活は送れるだろう空間だ。
部屋の住人は、ベッドの端に腰かけていた。簡素なドレスこそ身にまとっているが、王族特有の華やかさはない。元から落ち着いた雰囲気だったけど……何と表せば良いのか。根っこの部分が欠けている印象を受けた。牙の抜かれた獣のような。
おそらく、彼女の抱いていた野心――
印象が変わって見える要素はもう一つある。顔半分を覆っていたベールがないんだ。お陰さまで、しっかりと
音でこちらに気づいたよう。
「ご無沙汰しております、ゼクス殿。お待ちしておりました」
「待っていた? 未来を視たのか?」
「はい。本日のこの時間帯、未来が不確定になりましたので、あなたが訪れると確信しました」
こちらの問いに、しかと頷く彼女。
事前の尋問により、アリアノートの推理が当たっていたことは証明されていた。オレの未来が
ゆえに、彼女に予想されていても驚きはない。『コルマギア』の補助がない今、魔眼の乱発は難しいはずだが、死を覚悟している者にとって、温存なんて無意味なんだと思う。
「本日は、どのようなご用向きでしょうか?」
「魔眼の調査といくつかの質問をする」
「なるほど」
オレの回答に対する
僅かでも聡明さがあれば、考え至る結論だもんな。先の質問も、一応尋ねたに過ぎないんだろう。
「シオン。周囲警戒を頼む」
「承知いたしました」
オレは背後に控えていたシオンに声を掛ける。
これより行うのは、未知の魔眼【
程なくして、オレの両眼は白く輝く。それから、周囲にも無数の白光する球体が浮かんだ。【
無力化した相手に隠蔽の手間を挟む必要はないので、堂々と精査を開始した。数多の目玉を不気味がる
観察は三十分にも及んだ。
未知だった
前提として、彼女たちの眼は、厳密には魔眼の定義より外れる。
そも、魔眼とは、自身の肉眼を
というか、【
おそらく、【
前世にあったアカシックレコード説みたいで
話を戻そう。
要するに、
うーん。糧になるかと思って調査したけど、これは再現不可能だな。魔力の根本が違いすぎる。
一応、アクセス先の座標らしきものは手に入れたけど、嫌な予感がするんだよなぁ。神化すればワンチャンいけそうだが、別の厄介ごとを招く気がする。
触らぬ神に祟りなし。放置しよう。オレの胸のうちに留めておけば、闇に葬られること。
そう結論を下したオレは、魔眼群を消した。もう【
「では、質問タイムだ。素直に答えるか否かは強制しないが、嘘を吐いても無意味だとは言っておく」
質問といっても、一つを除いて念のための最終確認だからな。彼女の証言がなくても、今後に支障はない。まぁ、彼女も立場を弁えているのか、嘘は吐かなかったが。
いくつかの問答を終え、オレは最後の質問を投じた。
「
これこそ、オレの本題だった。
遺体を検分した結果、
遺体を調べるまで気が付かなかったのは、刻印の機能が停止していたためだ。長らく魔力を流していなかった影響で、ほとんど壊れかけの術式だった。
主だった
「刻印、ですか? 申しわけございませんが、そのようなものが刻まれているとは存じ上げませんでした」
期待した結果は得られなかった。
そう、簡単には解決しないか。
想定内の回答だったので、そこまで落胆はない。だが、厄介ごとの予感にゲンナリしてしまった。
やるべきことは終えた。帰るとしよう。
多少肩を落としつつも、オレは別れの挨拶を告げて独居房から
すると、
「最後に、一つだけ宜しいでしょうか?」
「何だ?」
肩越しに振り返ったところ、彼女は意味ありげに頬を緩めていた。
嫌な気配を感じたオレは、
「捕まってから……いえ、ゼクス殿の未来を視られないと知った日からずっと、私はあなたの未来を見通そうと繰り返してきました」
話し始めてしまったのなら、足を止める他ない。最後まで聞かない方が、気になって仕方なくなるもの。
オレは首を傾ぐ。
「真っ白な景色しか見えないんだったか。それがどうした?」
「つい先刻。一つだけ、ゼクス殿の
「……結末?」
「はい、結末です」
「あなたは黒髪の男に殺されていました。背後より剣で心臓を一突きです。ふふふははは。私の輝かしい未来を潰したあなたが無様に死ぬ姿を視られて、とても幸せな気分です。あはは。期限は一年以内。せいぜい、怯えて過ごすと良いでしょう。はははははははははは」
「それは、どういう意味ですか!?」
オレの死を予言した
ところが、いくら体を揺さぶろうとも、彼女は笑声を響かせるだけだった。こちらの問いかけには一切答えない。慌てるコチラの姿をも愉しんでいるかのように。
「はぁ」
オレは小さく溜息を吐く。
どうやら、オレたちを取り巻く環境は、まだまだ安定したとは言い難いみたいだ。カロンの運命を打開したかと思ったら、今度はオレが死の囚われなんて笑えない。
まぁ、ちょうど良い機会か。グリューエン討伐後、些か緩んでいると感じていたし、今一度、気を引き締め直すとしよう。
未だ
次なる目標は、オレ自身の死の回避。はてさて、世界最強を殺す男とは何者なのか、実に興味深い未来だな。
――――――――――――――
これにてChapter12は終了です。ありがとうございました。
明日から三話ほどの幕間を挟み、Chapter13を開始する予定です。よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます