Chapter12-2 忍び寄る(2)
五月も終わり。雨の多くなってきた時節に、とある催しが開かれた。聖王家主催の魔獣狩りである。これも留学生歓待の一環だった。
魔獣と聞いて安全性を憂慮する者もいるだろうが、大事故に繋がる可能性は低い。聖王家が管理する森で開催される上、事前に騎士団による間引きも実施されている。また、企画の範囲外は騎士の巡回もあるため、間違っても大型の魔獣が迷い込むことはなかった。感覚としては、普通の動物を狩るのと変わらないと思う。
まぁ、万が一はあり得るかもしれないが、参加者には腕利きの護衛もついている。よほどの不運が重ならない限り、貴人の死亡事故は起こらないと判断できた。
ウィームレイによる開会の挨拶が終わり、招待された貴族たちは各々行動を開始する。単独グループで
ちなみに、ウィームレイは後者で、モナルカ第三皇子は前者だった。同じ王族でも性格が如実に表れている。
「
「アタシたちだけで進むのは確定。あとは様子見?」
「それが現状は最適かな」
「他勢力の牽制はお任せください」
「よろしく。程々に頼むよ」
徐々に森の中へと消えていく貴族たちを見送りながら、オレたちはそんな会話を交わした。
今回の狩りに同行しているのはカロン、ニナ、シオンの三人だった。人選理由は分かりやすいと思う。戦闘要員、回復要員、斥候である。
十全を期すなら、もう少し人員を増やしたいところだけど、あまり大人数だと主催のウィームレイに迷惑がかかるからな。人目の少ない森での過剰戦力なんて、めちゃくちゃ警戒されてしまう。
というか、現時点でも思いっきり警戒対象だ。あちこちから監視の目が光っていた。
あとは、物欲しげな視線も散見されるか。おそらく、強者のオレたちに同行を願いたい連中だろう。一番安全な場所なのは間違いない。
「行こうか」
「「「はい!」」」
過半数が狩りに向かったのを見届けた辺りで、ようやくオレたちも動き出した。入り口を監視する騎士たちの横を抜け、魔獣たちの巣窟へと侵入を果たす。
森に入る前から、探知術の範囲は広げていた。この企画の行動許容エリアよりも少し広めに。だから、彼女が入口付近で待機していることは把握済みだった。
青葉のような落ち着く香りが届くとともに、声が掛けられる。
「ゼクス殿。少々お時間をいただいても宜しいでしょうか?」
近づいてきたのは、長い長い銀髪をなびかせる
彼女の護衛は五人の女性。全員が帯刀しており、
周囲に気配は感じられないので、今回は
魔力のない彼は、オレの探知方法だと見つけづらいんだよ。探知範囲にいても、隠密行動をされると即座に発見できない。
――とりあえず、
「問題ありませんよ。
オレは蛇足気味の思考を一旦切り上げ、
それを受けた彼女は、ホッと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます。場所が場所ですので、早速本題に入らせていただきますね。今回の狩り、私たちを同行させてほしいのです」
森に入った後で頼んできたのも、周囲への配慮だろう。最初からグループを組んでは、他勢力を刺激しかねない。ここならば、『狩りの最中に偶然出会っただけだ』と言いわけできるんだ。
これは信憑性があるかは問題ではなく、建前が必要という話である。
さて、どう返したものか。
オレは、
引き受けても引き受けなくても、フォラナーダに損得はあまりない。せいぜい、
強いて言うなら、相手の手のうちが判明することか? それだって、諜報部隊に誘導させれば、簡単に手に入る内容だ。メリットとは言い難い。
正直、オレはどちらでも構わない。
というか、現状だと、あちらがオレに興味津々っぽいんだよね。恋愛なんて甘い感情ではなく、利益を追求する打算的な思考で。王族としては正しい動機なので、まったく文句はないが。
『カロン、ニナ、シオン。三人の意見が訊きたい』
せっかくなので、同行者たちの意見も募ることにした。こっそり【念話】で問いかける。
レスポンスは早かった。繋ぎっぱなしの【念話】から言葉が返ってくる。
『
カロンは受諾派。理由は、自身の防御魔法で対処できるため。
『アタシはどっちでもいい。ただ、盲目王女がどう動くのかは、多少興味ある』
ニナは中立……ちょっと受諾寄りかな。
『私は反対です。不測の事態を考慮すれば、余計なお荷物は抱えるべきではないかと存じます』
シオンは拒否派。自分たちの身を最優先にする考えは、とても正しいと思う。
割とキレイに意見が分かれてしまった。若干、引き受ける方が優勢かな?
うーん……よし、決めた。
「承知いたしました。狩りの間は、共に行動いたしましょう」
オレは
こちらの答えを聞き、
「ありがとうございます! 足を引っ張らないよう尽力いたしますので、よろしくお願いしますね」
美しい所作で彼女はお辞儀をし、護衛たちも続く。
それに対し、オレたちも「よろしくお願いします」と歓迎のセリフで返した。
そういえば、軽い感謝でのお辞儀は、久々に見た気がする。何だか懐かしい気分になったよ。
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