Digression-Caron プレゼント大作戦【400話記念】

拙作も400話まで到達いたしました。

ついでに、11月27日に一周年も迎えていたようです。

ここまで毎日投稿を続けていけたのも、ひとえに読者の皆さま方の応援があったからです。ありがとうございました!

今後とも、応援をよろしくお願いいたしますッ。


※当話の時系列はChapter6の直後辺りです。


――――――――――――――



「子どもたちにプレゼントを贈りましょう!」


 定期的に開かれる女子会の場にてわたくし――カロラインがそう高らかに宣言したのですが、皆の反応は芳しくありませんでした。


 キョトンと呆けるシオンマリナはまだ良い方です。他の二人――ミネルヴァ、ニナに至っては、まるっと無視してお茶や菓子に口をつける始末でした。


「いくら何でも、失礼すぎませんか?」


 苦言を呈したところ、三人は顔を見合わせ、代表してミネルヴァが口を開きました。


「あなたの話は突拍子がなさすぎるのよ。内容も抽象的だし。いったい、どんな反応をすれば良いのかしら?」


「マリナのような感じか、詳細を尋ねたりが望ましいですね」


「面倒くさい」


「それが本音ではありませんか!」


 彼女があまりにも無慈悲に切り捨てるため、わたくしははしたなくも叫んでしまいました。


 というか、


「同じ反応だったニナも、同意見ということですよね?」


 親友にも面倒くさがられていたとしたら、さすがのわたくしもショックを禁じ得ません。


 対し、ニナは変わらぬ落ち着いた態度で、首を横に振りました。


「考えすぎ。アタシのリアクションが薄いのは、いつものこと」


「たしかに……」


 ぐぅの音も出ない正論でした。ミネルヴァの直截すぎる意見を聞き、わたくしは思った以上に混乱していたようです。反省しなくてはいけませんね。


 友を疑ったことに些か気落ちしていると、「で?」とニナが問うてきました。


「子どもたちにプレゼントって、何をするつもり?」


「あっ、そうでした」


 すっかり出鼻をくじかれてしまいましたが、わたくしはかねてより考えていた計画を相談することにしました。


「今度の年明けに合わせて、領内の孤児たちすべてに贈り物を渡す計画を立てているのですよ!」


 フォラナーダや教会が支援しているとはいえ、孤児院の経営に余裕があるとは言い難いものです。彼らは誕生日プレゼントどころか、個人所有の物品自体少ないでしょう。たいていがお下がりか共用です。ゆえに、子どもたちに笑顔になっていただこうと、プレゼントを贈ることを考えました。


 わたくしの計画を聞いた面々は、反応がそれぞれ分かれます。


「ステキな考えだと思うなぁ」


「きっと、子どもたちも喜ぶでしょう」


「福祉活動の一環ってことね。……予算降りるの?」


「そもそも、今から間に合う?」


 マリナとシオンは肯定的な感想をくださいましたが、ミネルヴァとニナは現実的な問題点を提示してきました。


 これは想定内です。現実主義寄りの二人は、必ずその辺りを指摘してくると踏んでいました。


 想定していたのであれば、当然ながら対策も講じてあります。


「予算は問題ありません、わたくしの自腹ですからね。時間の方も、解決策を考案済みです」


 そう告げたところ、ミネルヴァたちは僅かに驚いた様子を見せました。どうやら、わたくしがここまで用意周到だとは考えていなかった様子。


 フフン。最近は大雑把と揶揄やゆされがちなわたくしですが、しっかりやろうと思えばできる子なのですよ!


 すると、今度はマリナが心配そうに口を開きました。


「自腹って大丈夫なの? 領内の孤児院って、そこそこ数が多かった気がするんだけど……」


 彼女の言う通り、フォラナーダは他領に比べて孤児院が多いです。これは孤児が多い影響ではなく、お兄さまがそちら方面に力を注いでいる結果ですね。補助金の増額や査察の徹底など、色々と力を入れていらっしゃいます。


 必然、孤児の人数も相応。費用は膨大となります。


 ですが、マリナのそれは杞憂です。何故なら、


「この企画のために、稼ぎまくりましたから問題ありません! 国家予算とまではいきませんが、かなり余裕がありますよ」


 計画を立案してから二年間。治療系の仕事をはじめ、お兄さまにお頼みして冒険者の仕事も引き受けておりました。お陰さまで、割とグレードの高いプレゼントも買えてしまいます。こればかりは自慢しても良いと思うのですよ。


 シオンはわたくしのお小遣い事情を把握しているため、目を丸くして驚いていました。ドヤッ!


 こちらの準備が万端であることを知ったミネルヴァは、深く頷きました。それから、改めて質問を投じてきます。


「実行可能なのは分かったわ。では何故、私たちに相談しようと思ったの?」


 良い質問です。というより、そこが今回の本題なのですよね。前振りでずいぶん時間を掛けてしまいました。


 わたくしは居住まいを正し、この場にいらっしゃる四人へ願います。


「実は、当日のプレゼント配りを手伝ってほしいのです。移動手段は用意したのですが、さすがにわたくし一人では配り切れないので」


 要請を受けた彼女たちは、一瞬だけポッカーンと間の抜けた表情を浮かべられました。


 しかし、すぐに我に返ったようです。


「ち、ちょっと待ってください」


「当日に配るって……企画のすべてを自分でまかなうつもりだったの?」


「さ、さすがに厳しいんじゃないかなぁ。孤児院の数、両手両足じゃ収まらないよ?」


「言い振りからして一日っぽい。無謀。ゼクスの力でも借りるの?」


 各種各様に否定的な意見を発する彼女たち。


 この反応は無理在りませんね。普通に考えたら、一日で領内すべての孤児院へプレゼントを配るなど不可能です。それこそ、ニナの言うように、お兄さまの手を借りねばならないでしょう。


 ですが、今回はわたくしの足で配るつもりです。……いえ、正確にはお兄さまの力は借りてしまいましたが、あの方に運び屋の如きマネはさせません。


 わたくしは自信をもって断言します。


「問題ありません、足は用意済みですから。何なら、一夜で完了します」


「「「「……」」」」


 疑わしげな視線が集中しますが、わたくし狼狽うろたえませんでした。やましい点は何一つありませんからね。


 結局、最後まで彼女たちは疑念を持ったままでしたが、当日の協力を取りつけることにだけは成功しました。


 フフッ。実行日、彼女たちの驚く顔を見れるのが楽しみです。









○●○●○●○●









 時間が過ぎるのはあっという間。孤児たちにプレゼントを配る『プレゼント大作戦』(命名:カロライン)の実行日がやって参りました。


 皆には年明けを祝うパーティーを抜け出してもらい、領城の中庭に集合していただいています。


 中庭の開けた場所には、大きな布がかぶされた物体が二つ並んでいました。


 それを見て訝しむミネルヴァ、ニナ、シオン、マリナの四人。


 わたくしは彼女らのリアクションに期待しつつ、布を引きはがしました。


「これが、今回の『プレゼント大作戦』の移動手段です!」


 布の下にあったのは大きなソリでした。赤と緑を基調としたデザインで、後ろには荷台まで完備されています。当然、荷台にはプレゼントを詰めた大袋が乗っけられていました。


 恐る恐るといった体で、マリナが問うてきます。


「えっと、これは?」


「飛行移動用魔道具『黄金鼻のトナカイ』です!」


「トナカイ? ソリじゃ?」


「元ネタではトナカイが引っ張るソリらしいです。結局、効率重視で自走するようになったと嘆いておられました」


 欲を言えば、名称は”赤”にしたかったそうですが、色々都合が悪いとのこと。お兄さまのお考えは、たまにわたくしでも理解が及びません。


 すると、頭痛を堪えるように眉間を抑えていたミネルヴァが、口を開きました。


「この魔道具の作成者はゼクスとノマね?」


「はい。『プレゼント大作戦』のご相談をした際、作成していただきました」


 お二人とも、ノリノリで作業をすすめておられましたね。機能としては【飛行移動】、【重量無視】、【光化加速】、【認識阻害】などなど。【光化加速】に関しては、わたくしが付与に力をお貸ししました。お陰で、登録した場所まで一瞬で移動できるのです。


 ソリの機能を一つ一つ説明していくと、皆一様に頭を抱えてしまいました。


 はて? この程度の魔道具は、日頃お二人が作っていらっしゃるものに比べたら、赤子にも等しい気がしますけれど。


 わたくしは首を傾ぎつつ、皆に渡すべきものを取り出しました。赤と白を基調とした可愛らしい服です。帽子もついていますよ。


「本日専用の衣装です。こちらには【認識阻害】が付与されていて、わたくしたちの素性が露見しないようになります」


 貴族が孤児たちにプレゼントを配ったと知られては、騒動が起きてしまいますからね。もちろん、孤児院の管理側には伝達しておりますが、話は内々に留めた方が安心できます。


 しばらく頬を引きつらせていた皆さんですが、最終的には折り合いがついたようです。それぞれ衣装を受け取り、魔法で遮光してから着替えてくださいました。


「ハァ。終わったら、ゼクスたちとお話ししないといけないわ」


「あのお二方の創作意欲は、底が知れませんからね……」


「考えない方が楽だよねぇ」


 破れかぶれな印象を受けますが、仕事はきちんとこなしてくれるでしょう。彼女たちは責任感ある方々ですから。


 あと、マリナ。思考放棄は今さらすぎます。わたくしは、とうの昔に受け入れました。






 少し混乱はあったものの、わたくしたちは『プレゼント大作戦』を実行いたしました。


 その成否については……翌朝に響く子どもたちの歓喜の声を聞けば、答えるまでもないでしょう。

 

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