Chapter9-3 納涼(7)
濃密な殺気を放つ
ここに来て、本格的な
とはいえ、【シャインブースト】で強化済みの【ディア・カステロ】を突破してきたのですから、油断できる相手ではないでしょう。少なくとも、最上級魔法を超える威力の技を保有していらっしゃるのは確定です。
おそらく、かの者の内部にひしめく『呪い』を利用したのだと予想します。
大雑把に感じる相手の力量からして、
ですが、現状はどちらの要素も満たしておりません。スキアに
「短期決戦ですね」
守れない以上、攻めるしかありません。
逃亡の選択肢も一応考えましたが、それは難度が高い気がします。あちらがバリバリの前衛に対して、こちらは両者とも後衛職ですからね。彼我の実力差が小さい今、背を向ける方が危険でしょう。
「スキア、常に
「は、はいぃ!」
背後で転がっていたスキアへ強めに声をかけたところ、いつもより調子の外れた返事が返ってきました。
もしかしたら、突然の襲撃に唖然としていたのかもしれません。この辺りは実戦不足ゆえに、仕方ない部分ですね。
もはやスキアに構っている余裕はないため、彼女より意識を外そうとしました。しかし、その寸前にスキアが言葉を続けます。
「き、気をつけてください、カロンさま。そ、その
「ありがとうございます」
礼を申し上げてから、
スキアと話しながらも牽制の殺気を放っていたお陰か、敵は登場時より動いておりません。抜き身の大剣を掲げるだけでした。
ですが、それも終わり。こちらの会話が途切れたタイミングを狙い、
まさか、正面突破を図るとは驚きましたが、その程度の速度なら問題はありません。お兄さまは、もっと早いですよ。
選択した術は、オリジナルの火・光合成魔法【フシールス】。核として用意した火魔法を、光魔法によって加速させる【
効果範囲と射程は核のサイズ次第ですが、最小で直径五センチメートル/飛距離五メートル、最大で直径五メートル/飛距離一キロメートルですね。
今回は、最大火力で放つ必要はないため、範囲は少し多めの直径二メートルに設定。飛距離は気にしません。
嗚呼。言い忘れておりましたが、威力は申し分ありませんよ。何せ、お兄さまの五重結界を突破しましたもの。
どの規模でも同様の火力を生み出せるのが、この魔法の利点でしょう。そも、威力は調整できませんし。
さすがに、【フシールス】を受けて無事で済むとは考えられませんが、
目映い光の中に消えた
「スキア!」
【フシールス】発動の影響で、魔力や光、熱による探知は難しい状況です。そのため、それ以外の感知が行えるスキアに声をかけました。
背後にいる彼女の顔は窺えませんが、現状をよく理解してくれているようです。即座に応答がありました。
「やられていません! 少しずつ前進していますッ」
「ッ」
自慢の技で倒せないのは、思った以上に悔しいですね。手持ちの中で、もっとも火力の高い魔法のはずなのですが。
これに耐え切るとなれば、
有象無象の敵で消耗させてから、まったく反対の耐性を有する強敵を当てる。とても有効的で、ものすごく嫌らしい戦術です。これを考案した人物は、相当性格が悪いと思います。
しかし、困りました。最大火力技で倒せないとなると、もはや
火魔法オンリーで攻めるのもアリですが、そちらにも耐性があったら、目も当てられません。逃亡用の魔力まで消耗してしまうのは避けたいところ。
どうしたものかと悩んでいるうちに、とうとう
全身が真っ黒に焦げ、動きも僅かに鈍っていますけれど、五体――四体満足の状態です。
目前にそびえる炎壁と大剣の衝突に、周囲一帯へ轟音が鳴り響きます。その後も、何度か剣戟の音が聞こえましたが、【ブレイズウォール】が破られることはありませんでした。
やはり、光魔法への特攻を有しているよう。火魔法は大丈夫なのは幸いですが、厄介なことには変わりないです。
壁の突破を諦め、横から回り込んできた
床を撫でる炎の波に足を取られた敵。その隙を突かない手はないでしょう。
「【ボルケーノランス】」
詠唱で威力を補強し、直径十メートルはある炎槍を投げつけました。
ですが、直撃とはなりませんでした。
炎槍の突き刺さった大剣はドロドロと溶解してしまいますが、肝心の本体は無傷で済んでしまいました。
その頃には向こうも【
ここまで来ると、接近は許容するしかありません。すでに、魔法で牽制する距離ではありませんでした。
覚悟を決め、
それから、
やはり、純粋な前衛職の相手は厳しいところがあり、時折スキアが闇魔法でフォローしてくださらなければ、五分と持たなかったでしょう。
とはいえ、この均衡が保っていられるのも時間の問題です。
元々、スキアは魔力が尽きかけていました。このペースで魔法を使い続けると、十分もせずに気絶してしまうと思われます。
そして、その瞬間は訪れてしまいました。
バタリと、背後より何かの倒れる音が聞こえました。その原因など言をまたないです。それ以降、スキアによる魔法の援護は途絶えました。
そうなれば、形勢は一気に傾きます。膨大な呪いを込めた剣戟を
「しまっ」
ついに、と言うべきでしょうか。増えていく傷のせいで手元が狂い、致命傷となる攻撃への防御が遅れました。これを通してしまえば、
何とか身をよじって避けようとしますが、あまりにも無駄な努力。歯を食いしばって、迫り来る衝撃に耐えるよう、気合を入れ直すしかありません。
ところが、ついぞ想像していた強烈な痛みは襲ってきませんでした。
「【
突如として響いた冷たく低い声。それと同時に、
あまりにも無慈悲な攻撃でしたが、
ボタボタと落ちる残骸に目もくれず、
背後――スキアの隣には、想像通りの人物が立っておられました。
「お兄さまッ!」
歓喜に声を震わせ、
嗚呼。この温もり、この匂い、この硬さ。間違いなくお兄さまです!
まるで物語のように、見事なタイミングで現れるお兄さま。絶対に、
愛しております、お兄さま!
この後に駆けつけたミネルヴァたちに引きはがされるまで、
むぅ、まだまだ抱き着いていたかったのに。
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