Chapter9-3 納涼(6)
スキアの案内で辿り着いたのは墓地でした。
長い間を放置されていたせいか、森の中にあったせいか、それとも両方か。原因は定かではありませんが、ものすごくボロボロの墓地です。墓石のほとんどが砕けて風化し、一面は草でビッシリと覆われています。墓地跡と表現する方が適当かもしれませんね。
一連の事件の元凶があると推測し、この場所に足を運びましたが、十中八九当たりでしょう。
何故なら、ここには大量の
加えて、墓所には火の玉がいくつも浮遊しておりました。青白く発光するそれは、まさに物語で聞き覚えのある『人魂』そのものです。
火の玉に関しても、【ディア・カステロ】を突破できなかったのは安心しました。
どこを見てもホラーな景色に些か
「何か分かりましたか?」
誠に悔しいところですが、情報収集については彼女に頼る他ありません。
しかし、肝心のスキアも首を横に振りました。
「も、申しわけございません。ご、
「なるほど」
指摘されて納得しました。『魂の残骸』を手掛かりに動いていたため、
「謝らなくて大丈夫ですよ。これだけウヨウヨいるのですから、仕方ありません」
彼女へ慰めの言葉をかけつつ、思案しました。
とはいえ、思考を回す時間は多くありません。
「先刻は、突然の事態とあって慎重を期しましたが、今は違います」
よくよく考えれば、
要するに、敵の数が多くて感知しづらいのなら、それ自体を減らしてしまえば良い。
「使う術は……
効果があるかは不明ですけれど、試運転として、近場の敵へ上級光魔法の【浄化】を放ちます。本来は身を清めて汚れを落とす魔法ゆえに、攻撃性は皆無なのですが――
「ご、
スキアの言葉通り、【浄化】の光に触れた
どうやら、【浄化】には霊を祓う効果もあったようです。新発見ですね。発見する機会自体、巡ってきてほしくなかったですけれど。
「スキアも手伝ってください。
「は、はい。お、おま、お任せください!」
その後、二人で協力し、
だいたい三十分ほどは費やしたでしょう。そのせいで、スキアの魔力はほぼ空っぽです。
お兄さまのご指示で、今はもう魔香花による増強は行っておりませんが、それでも常人を遥かに上回る魔力を
スキア単独だったり、フォラナーダ以外の一般人が巻き込まれていたら、危機を打破することは難しかったでしょうね。
『自分が巻き込まれて幸いだった』と複雑な気分の感想を抱きつつ、軽く乱れた息を整える
「スキア。改めて手掛かりを探しましょう。捜査に関しては、あなたしか出来ませんので」
「は、はは、はいッ」
これは失敗しました。些かプレッシャーをかけすぎたようです。弟子でもあるせいか、ついつい期待を込めすぎてしまうのですよね。彼女、魔法関係の筋がとても良いので。
まぁ、問題はないでしょう。
態度こそオドオドしているスキアですけれど、精神面はかなり図太い方だと
しばらく周囲を見渡していた彼女は、ふと、とある一点に視線を固定しました。何かを発見した模様です。
「こ、こちらに、な、何か、あ、あります」
指差す先は墓地の最奥でした。――崩れた門があったので、あちらが奥で間違いありません。
一番奥に重要そうなものを設置しているとは、
「向かいましょう」
罠の可能性もありますが、ここに留まっていても問題は解決しません。
本当はもう少し休憩を挟みたいところでした。
しかし、悠長に過ごす時間はありませんでした。何故なら、新たな
歩くこと数分。到着した先にあったのは、大きな石碑だっただろう代物でした。経年劣化により土台以外が崩壊しており、今や見る影もありません。その原型を、かろうじて想像できる程度です。
「こ、ここに、お、おお、多くの『魂の残骸』が、し、集約されています。ち、地下が、あ、ありそう?」
その石碑跡に近寄りながら、スキアが口を開きました。
念入りに調べたいらしく、先のセリフを最後に、スキアは沈黙してしまいました。キョロキョロと些か挙動不審な感じで動いていますが、声は一切発せられません。真剣な面持ちで、石碑を観察しています。
こういうところに、彼女の性格が表れていますよね。他者との交流スキルは壊滅的ですけれど、生真面目で勤勉。チェーニ家の一件より愛の深い子であるとも分かっています。
性格も能力も、スキアは素晴らしい女性です。わざわざお兄さまが勧誘したのも納得でした。今までの生活からも理解はしていましたが、こういった緊急事態でも崩れない辺り、より強く実感しました。
たぶん、スキアは自分を偽らない――いえ、偽れない子なのでしょう。己を欺くことが圧倒的に苦手。だから、他人との交流に難が出てしまう。
そう考えると、彼女も不器用の部類ですね。手先等は器用で間違いないですが、性格が不器用とでも申しましょうか。ふふ、親近感が湧きます。
そんな風に益体のないことを考え頬笑んでいた
微かで
次の瞬間、石碑跡が爆発しました。――否、地下よりの一撃により吹き飛びました。
そこは【ディア・カステロ】の影響下だったはずですが、見事に打ち破られています。やはり、スキアを抱き寄せたのは正解でしたね。
石碑の残骸と【ディア・カステロ】の残滓がパラパラと散る中、
石碑跡のあった床には、成人男性が三人通れそうな穴が開いていました。そして、その横には、全身を鎧で包んだ騎士が一人。
しかし、ただの騎士ではありません。錆びついた鎧と大剣を携えた彼には、首が存在しませんでした。
――
かつて読んだ本に登場していた
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