Chapter6-5 魔の襲来(3)

※説明不足を感じたため、多少の補足をしました。

『当時のヒトは、“血”を代価としたんだ。脈々と受け継がれる“血”を~~』の後に一文追加いたしました。


――――――――――――――

 


“どうして、ヒトは魔法を扱えるんだろうか?”


 かつて、そんな問いを師匠アカツキへ投げかけたことがあった。


 最初こそ、『ゲームの世界』という前提のせいで思考放棄していたが、それで片づけるのは宜しくないと考えを改めたんだ。この世界はキチンと生命を育み、ことわりに沿って動いているんだから。


 アカツキの回答は実に簡潔だった。『魔力が存在するから魔法があるんだ』と返した。


 ……うん、それは正しいんだろう。しかし、オレを納得させる解ではなかった。魔力があるから魔法が生まれたのなら、魔力はどこから来たのかと悩んだ。“大気中の魔素を取り込んで魔力に変換する”という過程は理解しているが、そこが謎だった。


 魔素は良い。そういうエネルギーが存在する世界なんだと片づけられるし、そこを深掘りすると世界の誕生期までさかのぼらなくてはいけない。さすがに不毛すぎる。


 最大の疑問は、人体がどうやって魔素を魔力に【変換カラーリング】しているか、だ。


 魔力を生み出す器官が存在する?


 否、それはあり得ない。この疑問を抱いた後に何人もの体を調べたが、そういったモノは見当たらなかった。人間に限れば、前世の人体構造と大差はないと思われる。


 物質的な要因ではないとなると、残るは概念的な理由だ。それこそ魔法のような。


 オレは、この方向性で調査を開始した。魔力の出所を探ったり、埋もれてしまった遺跡を掘り起こしたり、ボロボロの資料を復元したり。


 興味本位の域を出ないため、空いた時間を費やす程度の遅々とした進捗しんちょくだったが、それでも着実に研究は進んだ。



 そして去年。一つの可能性にオレは辿り着いた。


 ――ヒトは、世界と契約を結んでいるのではないか?


 荒唐無稽な話かもしれないが、オレの研究した限りでは、他に説明がつかなかった。


 順序立てて説いていこう。


 前提として、古のヒトは魔力を有していなかった。原始時代では、己の肉体と知恵を活かして外敵と戦っていたと、現代に残る遺跡等より推測できる。


 だが、ヒトは途中でつまずいた。魔獣か天災か……原因は判然としないが、このままでは生存が危うい状況に追い込まれた。


 その際に開発されたのが儀式魔法だ。以前にも軽く触れたが、儀式魔法ならば、魔力なくとも魔法を発動できる。自身の体力や生命力を削り、魔力の代用とできるんだ。ゲーム的に言うなら、HPをコストに魔法を発動する感じか。


 これによって、人類は魔法技術の開発に力を注ぐことになる。魔法をより発展させ、勢力圏を伸ばしていった。


 ところが、ヒトは再び壁にぶつかる。儀式魔法の限界に。


 儀式魔法は、単体ではとても効率が悪い。魔力以外での魔法発動は、代用品ゆえに燃費が悪いんだ。


 だから、新たな魔法の可能性を求めた。資料によると新魔法の開発は難航を極めたらしいけど、とある天才の提案によって大きく動く。


 それは神との契約。当時にはすでに存在した宗教、その頂点にして超常の存在から力を貰い、ヒトは代価を払おう。そんな提案がなされたんだ。


 おそらく、彼らの信じていた神は存在しなかったが、世界が代理となったんだろう。この辺りはオレの推測が多分に含まれるけど、代価を支払うことで、魔素関連の理をヒトの都合の良い風に塗り替えたんだと思う。


 ヒトが理を捻じ曲げるなんてあり得ないと思うかもしれないが、全人類が――いや、未来永劫の人類すべてが契約対象なら、その限りではない。


 当時のヒトは、“血”を代価としたんだ。脈々と受け継がれる“血”を支払うことで、人類は魔力を得た。日々の僅かな血を代価に、【変換カラーリング】というシステムを手に入れたんだ。


 要するに、今生きるヒトのことごとくが、世界との契約者というわけである。




 さて、長々と語ってしまったが、この『ヒトが魔法を扱える理由』は前提の話だ。本題はここから。


 オレは考えた。『多少の血を払って魔力を手に入れられるのなら、もっと多くの代価を支払えば、さらなる力を得られるのでは?』と。


 善は急げ。新たなる力のため、実験を開始した。世界との契約を深めるのは容易ではなく、発現に一年もの時間を費やしてしまった。


 しかし、オレの試みは成功した。片方は・・・未だに安定しないけど、確かに新たな力を覚醒できた。


 それこそ『魔眼』。世界の真理に片足を突っ込んだ力。魔の深淵を覗きし大いなる瞳。








 閉じていた瞳を開く。


 オレから見える世界は変わらない。だが、今のオレの右目は、確実に変化していた。


「うおっ、なんだ。主殿のその目は!?」


 周囲警戒に務めていたノマが、素っ頓狂な声を上げる。


 高まる魔力が気になりコチラを覗いたところ、予想外の状況だったせいで驚いた。そんな感じか。


 現在、オレの右目は魔眼と化している。縁を赤で彩った白目で、中心には幾本の赤い線が刻まれている。そして、その瞳は白い炎で燃えていた。


 これぞオレの魔眼。名を【皡炎天眼こうえんてんがん】と言う、火属性・・・の瞳だ。


「あ、主殿。目から血が流れてるぞ。大丈夫か?」


 驚愕で呆然としていたノマは、次第にオロオロと慌て始める。


 痛みによって気づいてはいたが、やはり反動が来ていた模様。


 本来なら、魔眼を行使しても反動は起こらない。きちんと“瞳”という代価を支払っているんだからな。


 なら、どうして血を流しているのかと言えば、オレの適性の問題だった。火の素養はないオレが火の魔眼を使用したがために、こうして拒絶反応が発生してしまっているのである。


 フォラナーダの血筋が火属性ゆえにこの魔眼が発現したんだろうけど、もっと使い勝手の良いものが欲しかったよ。


「問題ない。そう深刻な奴じゃないんだ」


「そ、それならいいんだが……」


 オレが大丈夫だと返しても、ノマの憂慮は収まらない。


 まぁ、目からボタボタと血を流していたら、心配するなという方が無理がある。さっさと終わらせるべきだな。


 オレは【皡炎天眼こうえんてんがん】にさらなる魔力を注ぐ。すると、灯る炎がその強さを増し、煌々と輝き出した。


 探知はすでに終わっている。あとは実行に移すのみ。


「――燃えろ」


 小さく転がすような呟き。


 だが、それと同時に、学園の各所から白い炎が噴出した。


「な、なんだ!?」


 ノマは吃驚きっきょうの声を上げているけど、何てことはない。すべての悪魔が燃えたんだ。


 オレの魔眼【皡炎天眼こうえんてんがん】の基本能力は、『尽きるまで燃やす白い炎を対象に付与する』だ。一撃必殺の力なのである。


 復活の心配もいらない。白い炎は魂にも付随するため、対象が復活しようが、転生しようが、どこまでも燃え続ける。つまり、復活しても即座に燃焼するので、もはや悪魔は再起不能だろう。


 オレは瞑目し、魔眼を解いた。


 悪魔の殲滅が完了した以上、今回の【皡炎天眼こうえんてんがん】の役目はおしまい。反動は最小限に収めておきたい。


 チッ、やっぱり痛いな。しばらく右目は開けそうにない。


 流血と痛みがあるだけで後遺症を引きずる心配はないんだが、その激痛が厄介だった。十分ほどは目を使えない。右の魔眼の改善は、今後の課題だなぁ。


 そう考察していると、何者かが接近してくる気配を捉えた。


「主殿!」


 ノマも察知した様子。


 この魔力の感じはおそらく……。


 程なくして、その“何者か”は姿を現した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る