Chapter5-3 存続の条件(1)

ローレルは関西弁キャラですが、筆者自身は生まれも育ちも関東のため、エセ感が強いと思われます。


――――――――――――――



 弱小魔駒マギピースクラブへの入部が決まった日の晩。とある情報が、オレの元に寄せられた。


「それは本当か?」


「間違いありません」


 衝撃的すぎる内容に、報告に訪れたシオンへ問い直してしまう。だが、彼女の返答が変化することはなかった。


 断言された以上は、現実を受け入れるしかない。オレは溜息を吐きつつ、状況の確認に努めた。


「話の腰を折ってすまない。報告の続きを頼む」


「承知いたしました」


 シオンは慇懃に一礼し、つらつらと言葉を紡ぐ。


「先程申し上げました二件の襲撃は、現時刻より十二分前に同時発生いたしました。場所は領境の最西端と最東端。それぞれ、現地に居合わせた騎士が約十分の戦闘で鎮圧したそうです」


「思ったより戦闘時間が長いけど……嗚呼、例の仕掛けか」


「はい。戦闘中に賊の幾人かが爆散したため、対応戦術に切り替えました。その影響による遅延ですね」


「賊の元々の人数と応戦した騎士の人数は?」


「どちらも賊が十、騎士が一です」


「そうか」


 もう少し、戦術を練り直した方が良さそうだな。あと数分は削減できるだろう。


 オレは改善案を頭の隅で模索しながら、今回最大の問題に切り込む。


「……で、襲撃犯の中に、サウェードの次期当主候補がいたわけか」


「仰る通りです」


 そう。此度の襲撃犯はサウェード家の隠密部隊だった。しかも、その中に後継者争い真っ最中の両名が含まれているというではないか。


 最初は何の冗談かとも思ったが、ジョークではないらしい。頭が痛い。


 後継者争いについては、サウェード子爵から聞いていた。フォラナーダに近々接触してくる懸念も同様。


 とはいえ、この事態は予想外である。まさか、こんなにも早く、騒動の中心人物が攻めてくるとは思うまい。普通、大将は自陣で待機しているものではないのか?


 そも、片方の後継者候補は、フォラナーダに恭順する方針だった気がする。それがどう転んだら襲撃する流れになるんだか。


 現状は、意味不明の連発だった。


「尋問の進捗しんちょくは?」


「相手が相手だけに、時間がかかりそうです。彼らも一応は諜報員ですので」


「ただでさえ人手不足になり始めているのに、余計な手間が増えたな。爆散させておいた方が楽だったか?」


「そちらの場合でも、余計な手間は増えたでしょう」


「だよなぁ」


 連中が考えなしの行動を取った時点で、面倒が増えるのは確定していた。


 オレが溜息を吐いていると、シオンはやや呆れ気味に言う。


「そもそも、体に刻まれた爆破術式を消すといった芸当は、ゼクスさまくらいしかできません。彼らを捕縛できたことは、王宮側に衝撃を与えるでしょう」


「シオンを爆死させられちゃ、かなわないからな。大事なキミのためなら、これくらいの無茶は通すさ」


 サウェードの爆破術式は、当然ながらシオンにも刻まれていた。それは遠隔でも起動できる仕組みになっていたので、彼女がこちら側についた時点で解析及び抹消を実行したんだ。魔力による刻印だったお陰で、割と簡単に消せたのは幸いだった。


「ぜ、ゼクスさま……」


 オレのストレートな物言いに照れたらしく、シオンはそのクールな相貌そうぼうを崩した。頬を朱に染めて唇を食むという、可愛らしい仕草を見せてくれる。


 相変わらず、この手の攻めに弱い。彼女のそこが可愛いんだけどな。


 照れまくるシオンはすぐさま我に返り、自身の両頬を軽く叩いた。それから、キリっと表情を正して報告を続ける。


「ごほん。現状で判明している内容をお伝えしますね。まず、この襲撃が後継者争いの延長で実行されたのは間違いなさそうです。かの家にとって、自分たちよりも優秀な諜報員を抱えるフォラナーダは目の上のこぶで、我々への対応が次代の方針の要となっていたようです」


「はた迷惑だな。放っておいてくれれば、こっちからは何もしないのに」


「同感です」


 眉を寄せるオレに、シオンは頷きつつも「ですが」と続けた。


「あの家の内情を知る身としては、納得もしてしまいます。諜報の腕のみで今の地位を得ていますから、プライドが異様に高いのですよ。そのプライドが聖王家への忠誠を上回れば、此度の行動も必然でしょう」


「なるほどな」


 有する技術に誇りを抱くこと自体は間違っていない。そこから自信ややる気が生まれるわけだから。


 でも、誇りが肥大しすぎて傲慢プライドに変貌するのはダメだ。過剰な傲慢の末に待ち受けるのは、破滅の未来しかない。


 今回の一件も、サウェード家の滅亡を早める悪手にすぎなかった。


「とりあえず、サウェード家への抗議文の作成。あと、向こうに何を要求するか、意見をまとめておいてくれ」


「承知いたしました。それでは、失礼いたします」


 シオンはキレイな礼を見せてから、オレの前より辞していく。


 部屋にはオレ一人が残された。


「サウェードはどうなるかねぇ」


 次期当主候補二人が他領に攻め込んできた。この事実はとても重い。連座処刑とお家取り潰しは固いかもしれないなぁ。いや、聖王家の諜報員の質を考慮すると、家は存続させて恩を売った方が得策か。将来のウィームレイに暗部が残っていないとマズイ。


 となれば、当主および二親等以内の縁戚は連座で打ち首。分家のエルフにサウェードを継がせ、諜報部隊の空気を一新するのがベストかな。それだとシオンも含まれるが、彼女は正式にサウェード家の者と認められていないため、害が及ぶことはない。


 次期当主候補たちが阿呆な行動に出てくれたお陰で、想定以上にサウェード家の問題が早く片づいた。おそらく、功を焦ったとかの事情だろうけど、その一点はバカな彼らに感謝しても良いだろう。








○●○●○●○●









 弱小魔駒マギピースクラブへの入部手続きを済ませたオレたちは、かのクラブの部室へ訪れていた。


 相も変わらずボロボロのプレハブ小屋で、部員全員が八人もそろうと手狭に感じる。そこにシオンたち使用人も加わるのだから、軽く動いただけでも肘が当たるレベルだった。


 そんな中、部長であるローレルは、鼻歌交じりにその場でスキップを踏んでいた。


「部室が満員御礼やなんて、いつ以来やろか。もう廃部の危機に怯えんくて済むなんて幸せやわ~」


 聞いた話によると、昨年度までギリギリ五人を何とか維持していたらしいので、彼女の反応は無理からぬものだろう。


 ただ、有頂天になっている彼女には悪いが、一つ悪い知らせを教えなくてはいけない。


「廃部の危機は、まだ去ってないぞ」


「へ?」


 間の抜けた声を漏らし、呆然と固まるローレル。即座にオレの言葉の意味を理解できなかったようで、キョトンと首を傾げていた。


 しかし、徐々に思考が回り始めたようで、十数秒も経った頃には再起動を果たした。人口過多の部室を掻き分け、オレの元へ詰め寄ってくる。


「ど、どういうことです!?」


 寝耳に水だったようで、彼女は目をグルグル回しながら問うてきた。


「どうもこうも、クラブの存続条件を知らないのか?」


「……部員そろえるだけ、ちゃうんですか?」


「違うよ」


 オレは頭を抱え、呆れ返った。ローレルは部長という立場のくせに、クラブ関連の校則をロクに読んでいなかったらしい。


 このままでは話が進まないため、しょうがないと懇切丁寧に説明する。


 校則によって定められたクラブ存続の条件は、基本的に一つだ。ローレルも言っていたように、部員が五人いればクラブとして最低限は認められる。


 だが、そこには補足項目が存在するんだ。


「『体験入部期間最終期限でクラブの定員をそろえた場合、そのクラブの能力が確かであると学園側に示すこと』。要するに、実績を示さないと廃部決定だ」


「な、なんやってぇぇ!?」


 オーバーリアクションで崩れ落ちるローレル。


 たぶん、ズルズルと何もしないクラブを排除するためのルールなんだろう。一度でも定員割れを起こしたクラブは、機能不全におちいっている嫌疑がかけられるわけだ。


 この様子だと、すぐに学園側へ提出できるような実績はないらしい。まぁ、期待はしていなかったけどさ。


「じ、じゃあ、ここは廃部なんですか?」


 ユリィカが恐る恐る尋ねてきた。


 オレは肩を竦める。


「何もしなければ廃部だな」


「そんなぁ」


 涙目になるユリィカ。


 どうして、彼女はこのクラブにこだわる・・・・んだろうか。不思議に思うけど、今はそれを問うタイミングではないか。


 項垂れる二人に声をかけるよう、オレは語る。


「実績がないのなら作ればいい。幸い、廃部までの猶予はあるからな」


「いつまでなのでしょう?」


「体験入部終了から一ヶ月、七月いっぱいが期限だ」


 カロンの質問に答えると、ミネルヴァが眉根を寄せた。


「一ヶ月半しか残されてないじゃない。そんな短い期間で、この弱小クラブに何ができるのよ」


 その疑問は想定の範囲内だった。


 オレは頬を持ち上げて笑う。


「決まってるだろう。ここは魔駒マギピースクラブなんだ、ゲームに勝てばいい。トップクラブのトップチーム相手に、な」

 

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