Chapter4-1 オープニング(1)
本日は13:00頃に二話目を投稿します。ご覧になる際は注意してください。
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そんな明るい天気なんだが、残念ながらオレ――ゼクスの心は曇り模様だった。気持ち、オレの象徴たる白髪の毛先が
何せ、本日は学園の入学式だ。ゲーム『東西の
カロンを死の運命から脱却させることこそ、オレの第一目標である。ゆえに、気合を入れて学園生活へ臨む必要があった。
原作ゲームと違い、彼女は心優しい女の子に成長した。魔王に
しかし、世界の強制力の有無を証明できていない以上、気を抜くなんて無理だった。常に細心の注意を払って行動すべきである。
そういう理由もあって、憂鬱な気分で始まった一日。今は、馬車に乗って学園へ向かっている。
同乗者はオレを除いて四人。
一人は言をまたないだろう、妹のカロンだ。
ポニーテールにまとめたクセ気味の金髪、透明度の高い白い肌、ややツリ気味の紅い瞳と、一目で惹かれる特徴が目白押し。
それだけではない。容貌も老若男女すべてが振り向くほど美しく、プロポーションはグラビアアイドル顔負けレベルの素晴らしい代物を有している。まさに、究極の美女といっても過言ではないと思う。身内贔屓を抜きにしても、本当に美しい。
ちなみに、カロンのビジュアルは、原作ゲームとは結構異なっている。大きな点は二つ、髪型と体型だ。
前者は、
後者は、原作よりもグラマラスになった。これの原因もオレらしい。何でも、オレに好まれる容姿を目指して努力した結果だとか。こちらに関しても、趣味嗜好を打ち明けた記憶はない。
……改めて考えてみると、カロンの行動は些か恐怖を誘っているような? いや、気のせいだ。気にしたら負けだ。
「どうかいたしましたか?」
「いや、何でもないよ」
正面に座るカロンが、心配そうに尋ねてくる。
こんなにも健気な彼女が、ストーカー気質の危険人物なわけがないな、うん。
気分を改め、二人目の同乗者を窺う。
オレの隣に座るのは狐の獣人の少女――に見紛うほど可愛らしい男の子。義弟のオルカだ。
身長こそ百五十五まで伸びたけれど、彼の容姿は昔より変わらない。サラサラした茶色のショートヘアにクリクリした黄緑の瞳を覗かせる童顔。愛らしいそれが浮かべる人懐っこい笑みは、ある意味凶器と言える。たぶん、世が世なら、同性でも構わないと言い寄ってくる男は多かったと思う。
それほどまでに、オルカは可愛かった。今も、フリフリと揺れる尻尾がこちらの足に絡んできて、オレへの精神攻撃を行っている。耐えるんだ、オレ。
三人目はこれまた獣人。狼の耳と尻尾を携えた彼女は、オレの弟子であるニナ。元子爵令嬢で、今は『
彼女も美しく成長した。百八十近い身長と凛々しい顔立ちは、カロン以上に美しさを押し出している。片手剣をメインにした戦い方も相まって、騎士っぽい雰囲気が醸し出されていた。
実際は、何でもアリの泥臭い戦い方をするんだけどな。
これは他言無用だが、昔より変えていない髪型――一本の三つ編みには強いこだわりがある様子。陰では、髪を編むためのリボンを吟味していたりする。
感情の起伏が弱く、掴みどころもないけど、確固たる自己を持った強い子だ。
ニナの死の運命は間近まで迫っているため、今もっとも気をつけるべき人物だろう。ここ数年は動きがなかったけど、魔女の助力を得ている陣営が彼女を狙っている節もある。愛弟子が死ぬところなんて見たくはない。絶対に回避させたい。
最後は、フォラナーダの使用人たるシオン。エルフで元王宮の諜報員という異色の経歴を持つ女性だ。
エルフだけあって、その容姿は昔から変わらない。淡い青紫の髪をシニョンにまとめ、翠色の瞳を乗せた
メイド服をキッチリ着こなす彼女は、その風貌に違わず優れた能力を持っており、オレの秘書的な立ち位置にいる。一方、かなりのドジっ
また、彼女はオレへ好意を寄せている。自惚れとかではなく、実際に告白を受けている。正式な返事はできていないけれど、あの日より新しい恋が芽生えた様子は一切ない辺り、そろそろ覚悟を決めるべきなのかもしれない。
「ミネルヴァは学園にて合流でしたよね」
ふと、カロンが口を開く。尋ねてきたのは、オレの婚約者たるミネルヴァの事情だった。
彼女は六年前よりフォラナーダで生活をしていたんだが、さすがに入学式は公爵家の方々と共に訪れる運びになっている。ゆえに、昨日から別行動を取っていた。
オレは頷く。
「そうだよ。今さら外聞を気にしても仕方ないけど、公では
すると、次はオルカが問うてきた。
「そういえば、ミネルヴァさんを送る際、何か騒ぎが起こってたけど、何だったの?」
「あー、あれは……」
対し、オレは乾いた声を漏らす。オルカの言う騒ぎの鎮静に、手間取ったための反応だった。
というのも、オレたちは【
実力を隠すのをやめたオレは、ミネルヴァにも既に知られていたので、王都にある公爵家の別邸へ直接【
……結果は言うまでもないだろう。
その辺の事情を語ると、オルカは苦笑いを浮かべた。
「ははは、お疲れさま」
「ゼクスは意外とアホ?」
そこへ、鋭いツッコミをねじ込んできたのはニナだ。
真顔のまま、容赦ない言葉を切り込んでくるものだ。人に依っては怒髪天を衝いているぞ? まぁ、オレとニナの関係は、その程度で崩れるものではないけどさ。
この六年――ランクAに昇格した辺りより、彼女の遠慮のなさに拍車がかかった気がする。何故だろうか。
「当然だと思いますよ」
内心で首を傾げていると、静観していたシオンが呆れた風に呟いた。
心を読まれたようなタイミングだったけど、実際に読まれたんだろう。彼女との付き合いは長い。以心伝心を必要とする場面も多々あったので、この程度の思考は予想されてしまうんだ。逆も
シオンの感想は解せないけど、気にしても仕方がない。
オレは後頭部を掻きながら言う。
「最近は自重してなかったから、完全にロラムベル公爵の気質を失念してたんだよ」
人前でも惜しみなく魔法を行使していたために、すっかり感覚がマヒしていた。その結果、昨晩の騒動に発展してしまったのだから、阿呆という評価は甘んじて受け入れるしかない。この数年は大きな問題も発生しなかったからか、少し気が抜けすぎていたんだろう。気をつけねば。
「制約がないのも、考えものですね」
「そうだな。一般常識を忘れがちだ」
カロンの溜息交じりの言葉に同意する。
自重するつもりはないけど、周囲に構わず問題を起こしたいわけではない。その辺の塩梅は考慮していくべきだな。
……うん? 何故か、全員がこちらを半眼で見つめている。何事だ?
「どうかしたか?」
オレが首を傾ぐと、他の四人は次々に返す。
「お兄さまに常識など存在したのですね」
「今年一番の衝撃かも」
「
「ゼクスさま……あなたさまの常識は、常識ではありませんよ」
「キミたち失敬だなッ!?」
まったくもって失礼な反応である。オレの無茶な行動はわざとであって、一般常識を知らないわけではないというのに。
そう反論したものの、結局は受け入れてもらえなかった。日頃の行動のせいだというのか。とても解せなかった。
そんな雑談を交わしているうちに、とうとう馬車は学園の門前に到着する。ゲームのオープニングは間近だ。
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