Chapter3-4 暗躍と対策(3)
夜のお茶会の二日後にはロラムベルを出立し、十日ほどの旅程を経て、オレはフォラナーダへ帰ってきた。
その間、新たな情報は何も得られていないが、もう焦りはしない。
「お兄さま!」
「ゼクス
領城に到着すると、いの一番にカロンとオルカが抱き着いてくる。
当然、受け入れる以外の選択肢は存在しない。可愛い可愛い弟妹たちとの抱擁を楽しむんだ。
そのまま、オレたちは談話室にて雑談に興じる。シオンは疲労が溜まっていないか不安がっていたけど、大丈夫だと言い聞かせた。普段より【身体強化】で体力強化をしているので、そう簡単には倒れたりしないから安心してほしい。というより、カロンたちと交流した方が保養になる。
二人とは、実に一ヶ月振りの再会だった。ニナ関連の事情でフォラナーダに何度か戻ってはいたが、カロンとオルカの方に顔を見せてはいなかったんだ。そんな暇がなかったことと、この機会に離れて生活するのに慣れてほしい願望もあった。
以前、『カロンは禁断症状でも出ていそうだな』なんて冗談交じりに考えていたけど、本当にヤバかったらしい。カロン曰く、「手足が僅かに震えて仕方がなかった」とのこと。オルカも「一週間すぎた辺りからのカロンちゃんの目はヤバかったよ」と頬を引きつらせていた。
カロンはオレの想像を超えたブラコンだったようだ。幸い、生活に支障をきたすほどではなかったみたいだけど、今の調子ではどうなるか判然としないし、近いうちに訓練を積ませた方が良いかもしれない。もはや、依存症の領域だもの。
カロンの矯正計画はさておき、二人からはオレがいない間の話を聞いた。カロンは教会の手伝いを中心にした普段通りの生活を、オルカはオレの代理で仕事を請け負う生活を送っていた。
カロンの方は、オレの不在を聞きつけた教会の人間がいつも以上に粘着質だったと愚痴を溢す。
一方のオルカには、働きすぎではないかと心配されてしまった。どうやら、オレの代理はめちゃくちゃ忙しかったらしい。はて、一部の仕事のみ回すよう指示を出していたはずなんだけどな。
しかも、傍で待機していたシオンまで「ゼクスさまは働きすぎです!」なんて追撃を仕掛けてくる始末。
この話題を続投するのは風向きが悪いと判断したオレは、早々に話題転換を目指した。ちょうど良いことに、全員が耳を傾けるだろう話題を持っているんだ。
「実は、この城に招きたい人がいるんだ」
こう切り出せば、狙い通りの反応が示される。
「どこの泥棒猫ですか!?」
「誰かな?」
「私、まったく聞き覚えがないのですが……」
カロンは気勢を上げ、オルカは興味津々に、シオンは困惑気味に。それぞれがオレの次の言葉に傾注した。
作戦成功。内心で『してやったり』と思いながら言葉を続ける。
「カロンの知ってる人さ。オレがシスの名義で保護してるニナって子だよ」
「「「嗚呼」」」
皆、ニナのことは伝え聞いていたので、異口同音に得心の声を漏らす。
特に、彼女と仲の良いカロンは、嫉妬に燃えていた態度を一転させ、非常に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ニナもここで暮らすように手配するのですか?」
待ち遠しいとばかりに体を揺らすカロン。二人の相性の良さを考慮すれば、納得の反応だった。
オレは苦笑しつつも答える。
「そうだよ。些か彼女の周りがキナ臭いんだ。だから、万全に守れるよう、城で生活を送らせるつもりでいる」
「それは……大丈夫なのですか?」
「問題ない。あらゆる可能性を想定して防備を固める。それに、正体不明だから厄介というだけであって、実力的にはあまり脅威じゃないさ」
ニナの身を心配するカロンに、オレは安心するよう返す。
『魔女の呪い』を発見した直後は深く悩んでしまったが、冷静に落ち着いて考えれば、それほど脅威となる敵ではないんだ。オレに呪いは無効だし、今は現物の呪いが手元にあるので、様々な検証実験を行えている。そのうち、呪いを完全に無力化する魔道具も作成できるだろう。
ゆえに、正体が分からない点を除けば、まったく気にする必要はなかった。城に匿うのは、対抗策が完成するまでの保険であり、念を入れた行動にすぎない。
それらを説明すると、カロンは目に見えて安堵した様子を見せた。それだけ、ニナを心配していたということだ。本当に優しい子だな。
ニナを情報としてしか知らないオルカは、興味深そうに言う。
「カロンちゃんがそんなに気にしてる子なんだ。ますます会うのが楽しみになってきたよ!」
兄妹の中で一番フレンドリーな彼らしい発言だった。城下町の子どもたち同様、オルカならニナとも
二人を頬笑ましく見るオレだったが、そこへシオンが苦言を呈してくる。
「ゼクスさま。外部から人を招く際は、事前に連絡をしていただかなければ困りますよ」
「セワスチャンには伝えてあるぞ」
「私、知らされていないのですが……」
「ほら。今日帰ってきたばっかりだし」
「ゼクスさまが教えてくださっても、よろしかったのでは?」
「あー……すまない」
半眼で睨んでくる彼女に対し、オレは素直に謝罪する。
言われてみれば、その通りである。シオンはずっと傍にいたんだから、いつでも通達できたはずだった。
それを行わなかったのは、単純に忘れていたから。オレのミスである。
「もう! 今度からは気をつけてくださいね」
頬を膨らませるシオン。
怒る彼女も可愛らしいなと思ったのは内緒にしておこう。きっと、さらに機嫌を損ねてしまうだろうからな。
オレたち四人の談話は、それより数時間は続いた。
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本日は、18:00にもう一話投稿予定です。
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