Chapter2-2 勇者(4)
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「薬を分けてほしい?」
オレは素っ頓狂な声を上げた。
理由は、領都へ帰ろうと準備をしていたところ、村長より頼みごとをされたためである。内容は先のセリフの通り、薬を分けてほしいというもの。
すると、村長はオレが怒ったと勘違いしたのか、その場で土下座を始めた。
「も、申しわけございませんッ!! お貴族さまに対する無礼、平にご容赦ください。お、お命だけは何卒ッ」
「……いや、気に障ってなんていないから、頭を上げてくれ。それよりも、何故薬が必要なのかを教えたまえ」
オレは呆れながら問う。
貴族に直接物品を要求するなんて、確かに無礼な所業だ。そういうことは、役人か商人へかけ合うのが筋だろう。相手によっては、その場で処断されても仕方がない。
だが、村長の表情には焦りが見える。相当切羽詰まった状況なのだと察した。ゆえに、罰は与えず、情状酌量の余地を残す。
傍にいた騎士たちにも、抑えるよう手で合図を出す。というか、すでに軽い【威圧】で抑え込んでいた。そうでもしないと、今頃、村長の首は物理的に飛んでいたからな。忠誠心が高いのも考えものだ。
村長は、恐る恐る頭を上げる。
「よ、よろしいのですか?」
「何か事情があるのだろう? 無罪放免とはいかないが、話次第では情状酌量してやる」
「あ、ありがとうございます!」
貴族の体面があるため、何の罰則もナシというのは難しい。それを理解しているようで、村長は頭を地面へ叩きつける勢いで、再び土下座を始めた。頭を上げろと言っているのに。
幾分か時間を置き、ようやく村長が落ち着いたところで、話が進む。
彼の語った内容は、想像以上にマズイ状況だった。無礼を働いてでも薬を欲するのも頷ける。
「狩人全員が重傷か」
しかも、命に差し障る大ケガだという。
このままでは、この村に狩りの行える者がいなくなり、肉を蓄えることができなくなる。隣の山より多大な恩恵を受けている村にとって、それは大きな痛手に違いなかった。いや、冬越え前という時期を考慮すれば廃村の危機か。
何故、そのような事態に陥ったのか尋ねると、村長は渋りながらも答えた。
何でも、オレたちの食事を用意するためだったらしい。貴族に質素な料理を提供するわけにはいかないので、新鮮な肉を確保したかったのだとか。
うーん、これは罪悪感がすごいな。
今回の一件、村長が勝手に動いただけであって、オレの責任はない。
とはいえ、すべてを無視するのは、あまりにも良心が痛んだ。こちらを
「容体はどうだ?」
狩人たちの様子を見に行かせた騎士たちに、オレは尋ねる。
彼らは厳しい表情で首を横に振った。
「持って三日といったところでしょうか」
「おそらく、フロックベアに襲われたのでしょうが、患部の傷が深すぎます。我々の所持する薬では、一日二日の延命が精いっぱいです」
「そうか……」
薬を渡して終わり、とはいかないみたいだ。
さて――。
「ハァ」
数分ほどの熟考を挟み、オレは大きく溜息を吐いた。
本当は頼りたくなかったんだが、この村が壊滅してしまうのは避けたい。まぁ、
「シオン、領城へ伝令だ」
「
オレの指示に対し、打って響くように返答するシオン。
ずっと傍仕えしているだけあって、こちらの考えていることは把握しているようだ。頼りになるな。
「カロンを呼ぶ。出立の準備をしておくよう伝えろ」
「承知いたしました」
シオンは慇懃に一礼し、その場を離れていく。
重傷者を治すには、カロンの手を借りるしかない。
正直言うと、彼女をユーダイに近づけたくはなかったんだが、背に腹は代えられなかった。このままだと、彼の故郷が潰れてしまうからな。
迎えはオレが向かう。実は新たな移動魔法を開発しており、それを行使すれば、一瞬で領城と村とを行き来できるんだ。周囲よりの目を考慮し、迎えに行くのは翌朝と間を置くが。
新たな魔法は、シオンを含む領城で働く者の大半が知るところなので、言葉に出さなくても理解しているだろう。
あとは、カロンの到着まで、狩人たちを生き長らえさせるだけ。
オレは騎士たちにも指示を出す。
「お前たちは狩人たちへ薬を処置しろ。出し惜しみはしなくていい」
「「「「ハッ! 承知いたしました」」」」
小気味良い返事の後、護衛以外の騎士たちも去っていく。
ここまでの様子を見ていた村長は、涙ながらに頭を下げた。
「ぜ、ゼクスさま。私の嘆願をお聞きになってくださり、誠にありがとうございます!」
「構わない。だが、先の無礼に関しては、何かしらの罰を与えなくてはならないぞ」
「覚悟はできております」
「分かった。沙汰は追って下す」
「ははぁ」
「では、持ち場に戻れ。村長には、他にやることがあるだろう」
「はい、失礼いたします」
深々と
部屋に残る者が護衛の騎士二人のみとなり、オレは座していた椅子へ体重を預けた。
「ハァ、面倒なことになった」
狩人の重傷を指して、ではない。そのことが関連してはいるが、もっと重大な問題が発生していた。
というのも、狩人が全滅しているということは、マリナを救助する人員が存在しないんだ。最悪、彼女が死んでしまう可能性が生まれてくる。
多分に悲観的な推測が混じっているが、確率はゼロではなかった。オレがこの村に来たせいでヒロインが死ぬなんて、目も当てられない事態だろう。
しかも、このままユーダイたちを見捨てた場合、彼に逆恨みされる可能性も存在する。
客観的に見てオレの責任はほとんどないんだが、ユーダイの性格を考慮すれば、恨まれる
現状、オレが狩人の代役を務める他になかった。騎士たちでは、崖下に落ちた少女を救うには装備が重すぎる。
しばらく瞑目していたオレは、おもむろに立ち上がる。そして、騎士たちに告げた。
「出てくる。帰るまで、身内以外は誰も部屋に入れるな」
「ハッ、承知いたしました。どちらまでお向かいになられるのですか?」
「山だ。できるだけ早く戻るが、もしかしたら翌朝まで無理かもしれない。その時の言いわけは、シオンにでも考えさせてくれ」
「承知いたしました。お気をつけて」
騎士たちはオレの強さを存分に理解している――たまに模擬戦をしている――ため、出先を尋ねるだけで引き留めようとはしない。話が早くて助かる。今度の模擬戦、この二人には優しくしてやろう。
オレは【
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