Chapter1-4 冒険者(6)

 はてさて。短剣を取り出したは良いけど、今回は趣向を変えて戦ってみようかな。他人の目を気にせず、多数の格下を相手取れる機会はそんなにないだろうし。


 カロンたちを守りながら立ち回る必要はあるが、その辺も十分に何とかなる。よし、やるか。


 まずは敵からのヘイトを自分へ集中させる手を打った。精神魔法の【アピール】を四十余のグレーウルフたちに放つ。


 この魔法は、魔力量の差によって注目の集約度が変わる代物。オレとグレーウルフたちの魔力量の差は歴然であり、彼らは完全にこちらをロックオンした。カロンとオルカなんて、完全に眼中にはなくなる。


 これで、安心して攻撃に専念できるようになった。


 敵のヘイトが自分に集まったことを認めたオレは、前方へと駆け出した。オレの動きに反応して、向こうの視線も追ってくる。


 足を動かしながら、次の魔法に取りかかる。


 小手調べに、両手を使って【銃撃ショット】を発動した。忙しなく左右の人差し指を動かし、魔力の弾丸を発射していく。


 以前は、一発撃つだけで魔力を枯渇させてしまう欠陥を抱えていたが、それはうの昔に改善していた。無属性ゆえに燃費の悪さは健在だけど、威力に応じた魔力消費で済んでいる。今のオレなら、三桁は撃ち出せるだろう。


 さらに、別の改良も施していた。


「キリがないな」


 銃口が二つでは、四十いる敵を一掃するには手間がかかる。現に、倒し切れなかったグレーウルフが目前に迫っていた。


 オレは手に持つ短剣で、攻撃をなす。十倍の【身体強化】に加えて、【先読み】までも発動しているので、敵が何体もいようと、その凶刃が命中することはあり得なかった。


 クルクルとダンスを踊るように回避しつつ、再び【銃撃】を放つ。


 しかし、今度は人差し指を構えない。何故なら、そんな無駄は必要ないから。


 オレを起点とした周囲二メートル以内の複数個所に、オレより放出された魔力が集約する。数は四十。それは独りでに銃弾を形作り、そして、次の瞬間にはグレーウルフたちへ向かって発射された。


 舞い散る花びらの如く、周囲に展開される四十の銃弾。いつの間にか敷かれていた魔力のレールに従い、それらは敵の頭すべてに違わず命中した。


 バチュッと頭蓋と血が弾ける音が響き、続けてドサリとグレーウルフたちの倒れる音が鳴る。


 一瞬で決着がついた。もはや、この場に立つ敵対生物は存在しない。


 見て分かる通り、オレは【銃撃】をどこからでも、何発でも撃てる風に改良した。魔力で発射口を作成することで、両手を使う必要がなくなった。


 また、オートターゲット機能も追加した。対象に接続した魔力のレールに沿って銃弾が走るんだ。この世界では【魔力視】を使える人間が限られているため、ほぼ間違いなく命中するだろう。


 自画自賛になってしまうが、【銃撃】は世界最強の魔法だと思う。何せ、回避はほぼ不可能で、探知と合わせれば超遠距離攻撃もできるんだ。


 これを使うオレに勝つには持久戦に持ち込むしかない。膨大な魔力を持つオレに持久戦を仕掛けるのは分の悪い賭けになるとはいえ、それを差し引いても無属性魔法は燃費が悪いからな。


 ただ、少し慢心してしまっているけど、満足して停滞はしない。今はグレーウルフ格下だったから上手くいったが、やはり接近戦には難が残る。同格以上だと手こずりそうだと感じた。


 武の師匠は探しているんだけど、ピンと来る人は見つかってないんだよなぁ。シオンは専門外だし、部下の騎士たちだとオレのスタイルに合わない。どうしたものか。


「さすがお兄さま。一瞬で片づけてしまいました!」


「すごい、すごいよ!」


 オレが将来の課題に頭を悩ませていると、愛し子たちの声が聞こえてきた。


 見れば、カロンとオルカがピョンピョンと跳ねて喜びを表現している。妖精さんかな?


 しばらく感動を全身で表現していた妖精たちは、オレの元へ駆けつけてくる。それから、その勢いのまま抱き着いてきた。


「おっと」


 一度に二人の抱擁を受け、思わず声を漏らしてしまったが、尻もちをつく無様はさらさない。【身体強化】は継続していたからな、これくらいは受け止め切れる。


 カロンたちと抱擁を交わしたオレは、頬を緩ませながら尋ねた。


「いきなり、どうしたんだ?」


「だって、お兄さまの魔法が、とっても素晴らしかったんですもの! 魔弾が縦横無尽に飛び回るさまは、目を奪われるほどキレイでした!」


「すっごい緻密な魔力操作だった! あれ、ボクたちにも再現できるかな?」


 興奮冷めやらぬ様子で、カロンとオルカは感想を口にしていく。今回の【銃撃】は、想像以上に二人の琴線に触れたらしい。


 そういえば、今みたいな多段攻撃は見せたことがなかったか。これで兄の面目躍如になったのなら、嬉しい限りだ。


 とはいえ、いつまでも抱き合っているわけにもいかない。先程注意したように、ここは森の中で、人間にとっての敵地同然なのだから。


 オレは二人の背中を叩きながら諭す。


「感動してくれたのは嬉しいけど、そろそろ離れてくれ。まだ森の中だぞ」


「あっ、申しわけありません」


「ご、ごめんなさい」


 バッと離れ、シュンと縮こまるカロンたち。


 オレは苦笑しながら告げる。


「そこまで気落ちしなくていいよ。あとで、さっきの魔法の解説をしてあげるから、今はグレーウルフに集中してくれ」


「「はい!」」


 明快な返事を認め、オレは血だまりに沈むグレーウルフたちの死体を見る。


「この数をわざわざさばくのは手間がかかりすぎるな。他の動物やら魔獣が寄ってくるだろう。【位相隠し】にしまって、ギルドで処理してもらうか」


 手数料を取られるが、自分でこの数を扱うよりはマシだ。それに手数料と言っても、そこまで大した額でもないし。


 血の臭いがこれ以上広がらないよう、オレは手早く魔力を広げ、四十七あった死体らを覆い隠す。【位相隠し】に収納されたグレーウルフは、瞬く間に姿を消した。


 それを見届けたカロンが、意気揚々と言う。


「あとは巣に残った数体の敵のみですね!」


「残りは片手で数えられる程度だよね。だったら、ボクたちに戦わせてくれないかな?」


 オルカも、彼女のテンションに乗っかる。


 ああ、残敵を自分たちで倒したかったのか。それは申しわけないことをしてしまった。


 やや後ろめたさを覚えるが、ここで黙っていてもじきにバレる。オレは素直に事実を伝えた。


「ごめん、もうグレーウルフは残ってないんだ」


「えっ? ですが、巣に残った個体がいたはずですよね?」


「最初にやった探知では五十以上いて、ここには四十七。最低でも三体は巣にいるはずだよ?」


 不思議そうに首を傾げる二人。


 うん。確かに、巣に残ったグレーウルフは四体いた。でも、生き残ってはいないんだよ。


「本当に申しわけないんだけど、巣に残ってた敵は、もうすでに処理済みだ。死体を回収するくらいしか、やることは残ってない」


 オレの言葉を聞き、カロンとオルカは「え?」って感じで目を丸くしていた。現実を受け止め切れていない模様。


 だが、次第に内容を理解したらしく、わなわなと震え始めた。


 そして――


「い、いつの間に倒していらしたんですか、お兄さまっ!」


「噓でしょ!? ゼクスにぃ、ここから一瞬も離れてないじゃん!」


 どうやって残敵を掃討したのか理解できず、オレに詰め寄ってきた。


 可愛い二人がやっても迫力に欠けるんだが、それは言わぬが花か。


 オレはドウドウと両手を振りつつ、事情を説明する。


「さっきと同じ魔法で倒したんだよ。あれ、魔力の届く範囲なら、どこでも発射口を設置できるんだ」


 探知しないと照準を合わせられないため、射程無限とはいかないけど、発射口を設置するだけなら制限はない。魔力が到達できる場所であれば、室内でも海の中でも地の底でも、どこでも【銃撃】を発射できた。


 今回は敵の巣に複数の発射口を設置し、それを使って残敵を一掃したんだが……ここまで話したら、カロンたちの目が遠くを見始めた。あれは現実逃避をしている瞳だ。


わたくし、夕食のつまみ食いは二度と行わないと、ここで誓います」


「ぼ、ボクも同じく」


「ぷっ、ふはははははははははははは」


 急に懺悔をし始めた二人があまりにも可愛くて、オレは堪え切れずに笑ってしまう。


 対し、当人であるカロンとオルカはキョトンと首を傾げた。


 本当に、オレの弟妹は可愛い子だ。安心してくれ、二人をスナイプすることなんてないから。


 何とも締まらない終わり方だったが、オレたち三人の魔獣狩りは、こうして無傷のうちに終了した。

 

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