Chapter1-4 冒険者(5)

 オレは二人から目を逸らし、話を進める。


「まぁ、せっかく情報収集したんだし、何が分かったのか聞こうか。教えてくれるかい?」


「「はい!」」


 カロンとオルカは快活に返事をし、集めた情報を語り始める。


「グレーウルフの巣は、現在地より一.二キロメートル先にあります。おそらく、地面に穴を掘ったものかと思われます」


「しかも、出入りしてるグレーウルフの数からして、何箇所も巣穴があるみたいだよ。たぶん、十くらい? 二十はないと思うけど、結構規模が大きいかも」


「また、巣の警護のためか、数体は周囲へ散らばっている模様です。わたくしの索敵範囲の外にいる可能性もあるため、正確なグレーウルフの総数は不明ですが、おおよそ五十はいるかと」


「警護役のグレーウルフは、巣を中心に、だいたい十メートル以内をウロウロしてる感じ」


「なるほど。よく調べたな」


 オレは二人の頭を撫でる。


 小気味良く出された情報は、どれも精度の高い代物だった。彼らの年齢を考えれば、合格点どころか花丸を上げても良い。


 粗がないとは言わないが、現状はこれだけ出来れば十分だろう。


「巣穴の最奥に、一番力の強い個体がいる。たぶん、それがボスだから、二人は気をつけるように」


「分かりました」


「うん、気をつける」


「じゃあ、先へ行こうか。作戦は歩きながら話すよ」


 一つだけ注意を促し、オレたちは歩を進める。


 作戦といっても、これといって複雑なものは考えていない。このままグレーウルフを強襲し、一網打尽にするだけだ。


 これだと取りこぼしが発生するんだが、街道にグレーウルフが溢れないようにするのが今回の目的なので、全滅させる必要はない。要するに、間引きということ。


 カロンとオルカは魔獣と戦いたがっていたし、警護役の個体は任せても良いかもしれない。群れていない狼程度なら、初戦の相手にちょうど良さそうだ。


 森をかき分けていくと、ついにグレーウルフと邂逅を果たす。警護役の個体だった。幸運なことに二匹。カロンとオルカに、それぞれ一体ずつ相手させよう。


 オレはこれ幸いと、二人へ指示を出す。


「二人とも、目前のグレーウルフを倒すんだ。各個撃破か協力するかは任せるけど、油断はしないように」


「「はい!」」


 彼らは元気良く返事し、それから得物を構える。どちらも短剣だった。


 実は、二人とも後衛タイプなんだよな。本来なら、魔法行使の補助道具である杖や魔導書の類を持つべきなんだけど、オレが短剣使いだからって、短剣を希望したんだ。


 愛い奴め。カロンとオルカは、オレを萌え死なせようと画策しているのだろうか?


 まぁ、今回は最適な装備か。後衛の二人だけで戦うなら、接近されても対処できる武器の方が安心だし。一応、扱いの基礎も教えてあるので、下手を打つ心配もない。


 さて、二人の初実戦を見守ろう。


 二人とグレーウルフらは、おおよそ十五メートルの間隔を空けて対峙していた。お互いに警戒をしており、ピリピリとした空気が蔓延している。


 グルグルと唸り、毛を逆立てていたグレーウルフは、不意に息を大きく吸い込んだ。そして、次の瞬間に遠吠えを上げる。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!」


「「あっ!?」」


 それを聞き、カロンたちは自らの過ちに気づいた。


 今の遠吠えは、仲間にオレたちの存在を伝えるものだった。これにより、現在進行形で増援が迫ってきている。探知術によると……おお、群れのほとんどが向かってきていた。それだけ、オレたちが脅威だと判断されたらしい。


 カロンとオルカのミスは、グレーウルフの隙を窺ってしまったこと。群れるタイプの敵は、今みたいに仲間を呼ばれることもあるので、早々に討伐しなくてはいけないんだ。


 さっさと倒せる技量がなくても、遠吠えをさせなければ良い。こちらから攻撃を仕掛けて回避に専念させるとか、な。隙は窺うものではなく、作るものなんだよ。


 早速、不利な状況に陥った二人だが、この後はどう動くだろうか。――なんて言っている場合ではないな。あの数の増援は、さすがに任せられない。


 大量の増援が近づいているのを感知したようで、カロンとオルカの顔は青ざめていた。そんな彼らへ、オレは声をかける。


「増援の方はオレが対処するから、二人は目の前の敵に集中するように。終わったら反省会な」


「ありがとうございます、お兄さま」


「ありがとう、ゼクスにぃ


 二人は礼を言うと、目前の敵に向き直る。


 それから、できるだけ増援が到着する前に倒そうと、早速攻撃を仕掛けた。


 先手はカロンが打った。短剣の切っ先をグレーウルフたちへ向け、魔法名を唱える。


「【ファイヤアロー】」


 刹那、二本の火の矢が短剣の先に発生した。約三十センチメートルはあるだろう火矢は、ゴォォという音を鳴らしてグレーウルフへ直進する。


 そして、避ける暇を与えず敵に直撃し、奴らを炎上させる。


 初級魔法ゆえに一撃とはいかなかったが、かなりのダメージを負わせられた模様。


 相当の熟練度だと感心させられる攻撃だった。【設計デザイン】から【現出クリエイト】までの流れに一切の淀みがないし、二重行使なんて技巧を見せてくれた。威力も申し分ない。我が妹は天才だな。将来は宮廷魔法師のトップ――聖王国最強――も夢ではない。


 ――と、ついついカロンばかりに関心を向けてしまったが、戦闘はまだ終わっていない。体が炎上しつつも、グレーウルフは死んでいないんだ。


 奴らは怒りを抱いて、攻撃してきたカロンに突進してこようとする。


 だが、それは行動に移されない。


「【アースウォール】」


 オルカの唱えた魔法によって土壁が二つ出現し、カロンへの進路をふさいだ。突然の出来事にグレーウルフたちは対応できず、壁へしこたま体を打ちつけてしまう。


 土壁は崩れたが、走る勢いのまま衝突した敵二体のダメージは大きかった。骨折でもしたのか、思うように立ち上がれないでいる。


 その隙を二人は見逃さない。


「【フレアボール】」


「【ストーンスパイク】」


 それぞれの中級魔法――炎の球と石の杭がグレーウルフらを襲い、その命を刈り取った。


 見事な完勝だ。火矢でターゲットを誘導し、土壁で大ダメージを与え、最後にトドメを刺す。初めて対峙した魔獣に怯えることなく、上手く立ち回っていた。


 カロンは無論、オルカの魔法の精度も高い。訓練時間の差があり、今はカロンの方が様々な観点で上だけど、そのうち彼も追いつくだろう。それくらい筋が良い。


「やりました!」


「やったね!」


 初の魔獣退治が相当嬉しかったようで、ハイタッチを交わし合う二人。それから、オレにも褒めてほしいのか、こちらに向かって駆け寄ってこようとしていた。


 うーん、盛大に褒め甘やかしたいところなんだけど、その暇はないんだよな。初めての勝利の余韻で忘れているかもしれないが、もうすぐ敵の増援が到着する。それの対処をしなくてはいけない。


 二人がオレの元に来る前に、言葉で留まるように言う。


「カロン、オルカ。二人はその場で待機。ここからはオレの仕事だよ」


「え? 分かりました」


「あっ! ごめんなさい!」


 カロンは首を傾げながらも指示に従い、オルカは謝りながら立ち止まった。


 ……オルカは及第点として、カロンはちょっと心配になってくるな。オレの言うことなら何でも聞いてくれるみたいなんだけど、それってどうなんだろう? ブラコン極まっているなぁ。他人のことは言えた身ではないけどさ。


 苦笑しつつ、オレは【位相隠しカバーテクスチャ】より二本の短剣を取り出す。


 それと同時、


「「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!」」」」」」」


 四十数体のグレーウルフが、オレたちを囲むように姿を現した。


 さぁ、狩りの時間だ。

 

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