Chapter1-4 冒険者(1)

2022/02/17:

冒険者になる理由の辺りを修正しました。物語に大きな影響はございません。


――――――――――――――



 オルカがフォラナーダに来てから一年、オレは七歳を迎えた。前世でいう小学生の年齢とあって、身体の成長は著しい。だいぶ体格も定まってきたように思う。まぁ、本格的な成長は、もう少し後なんだろうけど。


 一年前よりの懸念事項だったオルカの件は、思いのほか順調に進んでいる。元々感受性の高い子だったようで、すぐにフォラナーダの皆と打ち解けていった。


 やや確執のあったカロンとも、今では良い友だちといった風になっている。領城ではよく一緒に遊んでいるし、城下町に出た時も仲が良い。オレとの時間が減ってしまったのは寂しいが、二人にとって良い傾向なので、甘んじて我慢しよう。


 嗚呼、オレとオルカの仲も良好だぞ。今や「ゼクスにぃ」と呼んで慕ってくれている。


 ちなみに、フォラナーダの実権を握った今、周囲に忍んで街に出る必要はない。賊に襲われたこともあったし、きちんと暗部の護衛をつけている。もちろん、護衛の件はカロンやオルカに伝えてない。純粋に外出を楽しんでほしいからな。


 閑話休題。


 オレの実権になってから様々な施策を投入したが、部下が優秀なこともあり、そろそろオレ抜きでも回り始めてきた。


 であれば、オレも次の計画に移る段階かもしれない。


 善は急げとも言う。早速、オレはシオンを伴って、城下町へ出ることにした。


「あ、ゼクスにぃ!」


「これはゼクスさま」


 領城の出入り口まで歩く途中、オルカと家令であるセワスチャンに遭遇した。オルカは元気いっぱいに手を振り、セワスチャンは慇懃な態度で一礼する。


 一年前に比べて、オルカは大変明るくなった。ゲームでも内向的な性格だったので、ここまで明快な気質に育つとは正直驚いた。それだけ、ゲームでの境遇がつらいものだったと窺える。


 容姿も、以前よりもずっと可愛らしくなった。いや、男に対する形容ではないのは理解しているんだが、オルカに限っては適切なんだよな。男物の服を着ているのに、一瞬女の子に見紛えてしまう。


 二人に軽く手を挙げて応え、オレは問うた。


「珍しい組み合わせだな。何かあったのか?」


 セワスチャンはその役柄上、使用人やオレの隣に立つことが多い。逆に、仕事に関わらないカロンやオルカとは、接触機会が少なかった。ゆえに、相応の要件があったのだと推測したわけだ。


 はたして、その推察は正しかったらしい。


「もうじき魔法の教師を雇うので、オルカさまにはご希望等をお伺いしておりました」


「獣人に偏見がない人って頼んだよ!」


「もう、そんな時期なのか」


 それなら、この組み合わせも納得だ。人事関係は、セワスチャンに一任しているからな。


 本来、独自の修練を積んでいるオレはもちろん、オレの指導を受けているカロンやオルカに、外部より教師を招く必要性は皆無だった。特に、オレに至っては無属性だし、教師の方も困るはずだ。


 それでも、この雇用は必要経費だった。


 というのも、他家の目があるためだ。もし、ここで教師を雇わなかったり、テキトーな二流教師を雇ったりしたら、確実にフォラナーダの評判を落としてしまう。あの家は一流の魔法の教師を雇う経済力ないしパイプもないのだと侮られる。


 横の繋がりを重視する貴族社会にとって、その噂は致命的だった。ただでさえ、次期当主オレが無属性のせいで厳しい目を向けられているのに、これ以上の弱点をさらすわけにはいかない。


 そういう都合もあり、オレたち三人には魔法の教師が宛がわれる。あとで、カロンとオルカには、授業中に手加減をするよう釘を刺しておかないと。


「教師の件は任せた。オレは、周囲に文句を言われない人選なら誰でもいい」


「承りました。ところで、ゼクスさまは外出なさるのですか?」


「街に出るの? ボクも一緒に行きたい!」


 セワスチャンの問いに、オルカが嬉々として乗っかってくる。


 オルカは街の子どもたち――特にダンと性分が合っているようで、遊びに行く時はカロン以上にテンションが高い。


 遊びに行くなら、喜んでカロンやオルカも連れていくところだけど、今回は別件なんだよな。心苦しいが、断るしかない。


「すまないな。今日は別の用事で出かけるんだ。オルカはお留守番しててくれ」


「むぅ、残念」


 唇を尖らせるオルカ。非常に可愛い仕草だが、翻意は望めないぞ。


 オレたちのやり取りを頬笑ましそうに眺めながら、セワスチャンは訝しげに問うてきた。


「別の用事、ですか?」


「例の件だよ。オレの手がなくても完全に任せられるようになったし、そろそろ動こうと思う」


「ああ、なるほど。承知いたしました。お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 フォラナーダの重鎮たちには、オレが何をするのか、事前に知らせてある。それを思い出した彼は、丁寧に礼をした。


「行ってくるよ。シオンも同行させるから、日が沈む前には帰ってこられると思う」


 オレは返事をしつつ、そのままの足取りで領城を出るのだった。








 この世界には、他のファンタジー作品の多分の漏れず、冒険者という職業が存在する。


 概要は、おおむね想像通りの代物だ。街の雑用から商人の護衛、魔獣退治など、様々な仕事を請け負う何でも屋みたいなものである。


 ただ、冒険者は、周囲の憧れを集めるような職業ではない。


 何故なら、学園で落ちこぼれた者の大半が就職するためだ。優秀な者は国に仕える騎士や官僚になるのが常で、その枠に入れなかった戦闘職脳筋が冒険者になる傾向が強かった。


 中には物好きの天才なんかもいるらしいけど、基本的に冒険者とは落伍者だった。


 そんな冒険者に、オレはなろうとしている。


 次期当主としての地位が決まっているのに、どうしてかって?


 理由は四つある。


 一つはレベルを上げたいから。この一年、相変わらず山林での魔獣狩りを続けてきたが、結局一つしかレベルが上昇しなかった。小物では力不足になってきたので、依頼という形で魔獣を狩れる冒険者は最適だった。


 一つは、魔獣の素材をフォラナーダの関与なしで集められるから。この先、もっと強くなるためには、当然ながら強い装備を用意する必要がある。その際、レアリティの高い素材を自前で用意できるかが鍵になってくる。そういう代物は、たいてい実力者が抱え込んでしまうからな。


 大枚を叩いて収集するという手もあるにはあるけど、あまり好ましくはない。フォラナーダが買いあさっていると知られれば、他家より余計な勘繰りをされて妨害を受ける確率が上がるんだ。それは回避したいところ。


 集まる人材の関係で、冒険者は誰でもなれるという特色がある。身元確認も、表向きはまったく行わない。よって、フォラナーダとの関係を疑われずに、自らの手で素材を集められるわけだ。


 一つは、素材を売ることで資金稼ぎができるから。前述した内容と矛盾していると思うかもしれないが、そんなことはない。手に入れたモノすべてを装備に使用するわけではないため、売買に出す分もあるんだ。


 そして、最後の一つ。これが何より重要だろう。自由に動ける身分を手に入れられるから。現状、オレが表舞台に立つのは控えたい。隠密行動もできるけど、ずっと続けるのには限界がある。だから、冒険者というカバーを手に入れられるのは、今後の活動の役に立つんだ。


 レベル上げができて、希少な魔獣の素材が集められて、おまけに資金調達もできる。それらをほぼ・・制約なしでできるとは、まさに一石四鳥といっても過言ではなかった。ゆえに、オレは冒険者に就職することを決めたのである。


 さすがに、今の姿のまま出向くと騒ぎになりかねないため、【偽装】を使って年齢や外見を誤魔化す。ゼクスだと気づかれないようにしたいから……前世の姿で良いかな。黒髪黒目は五属性以上の魔法が扱える証なので相当目立つとは思うが、希少性の高い魔獣を狩るつもりの時点で目立つ。どうせなら、どんどん目立ってやろう。


 シオンを同行させているのは、彼女が冒険者の資格を持っているというので、最初のうちは色々教わろうと考えたから。今のオレは簡単にやられるほど弱くないが、やはり先駆者の知恵は必要になる。何らかの失態を犯さないよう、この手の指導は必須だった。

 

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