Chapter1-3 養子(3)
オルカがフォラナーダ家に入ってから一週間は、何事もなく過ぎ去っていった。いや、過ぎ去ってしまったと言い換えるべきか。
外部より人間が入ってきたら、普通は何らかのアクシデントが発生してしかるべきである。だのに、些細な問題さえ出てこない。これは、明らかに異常な事態だった。
原因はハッキリしている。オルカが消極的すぎるんだ。それはもう、ヘビに睨まれたカエルの如くガチガチに固まっており、誰かが声をかけるだけで悲鳴を上げる。しかも、一日の大半を部屋にこもっているので、取りつく島さえもなかった。
フォラナーダに来た経緯が経緯なので、この一週間はオルカの自由にさせていた。だが、ここまで周囲を拒絶しているとなれば、方針を変える必要があるだろう。もっと、こちらから積極的に関わっていかないとならない。彼との仲は、オレとカロンの将来がかかっているんだから。
というわけで、庭園でのお茶会にオルカを招待した。参加者はオルカの他にオレとカロンの兄妹、お茶汲み役のシオンだ。
お日さまの照る華やかな庭園で美味しいお茶とお菓子を食べれば、きっと仲も深まるはず。ドジっ
さて、意気揚々とお茶会を開いたわけなんだが――
「「…………」」
絶賛、沈黙が支配中である。
カロンは無表情でお茶を啜るだけで、オルカはいつも通りカチコチに固まっていた。その二人の様子を、オレとシオンがハラハラしながら見守っている。この状態が、かれこれ十分は続いていた。
オルカは理解できる。この家に来てからと変わらない態度だ。
しかし、カロンの方は解せない。お茶会に誘った時は嬉々としていたのに、こうしてメンバーが一堂に会した瞬間から、仏頂面に変貌してしまった。
「ゼクスさま、何かアクションを起こすべきでは?」
痛い沈黙に耐えかねたのか、シオンがオレの耳元に口を寄せて囁く。
やっぱり、それしか方法はないよなぁ。二人が自主的に行動しない以上、オレが何とかして仲を取り持つしかない。
現状を考えると無茶振りがすぎるが、これはオレたち兄妹の未来も関わってくること。一肌脱ぐしかないか。
「二人とも。今日のお茶会は、オレたち兄妹の親睦を深めるためのものだ。もう少し肩の力を抜いてくれないか?」
こぼれそうになる溜息をグッと堪えて、オレは声を発した。オルカを怯えさせないため、言葉の中にトゲを含まないように気をつける。
すると、ブスッと不機嫌そうに茶を啜っていたカロンが、カップをソーサーに置いてオレを見る。
「お兄さま」
「な、何かな?」
いつになく威圧的な彼女に気後れしつつも、オレは見つめ返す。
対し、カロンは溜息混じりに続けた。
「
「え、そうだったか?」
「はい。お茶会をする旨しか聞いておりません。ですから、てっきり
「あー……それはすまなかった」
言われてみれば、参加するメンバーについて伝え忘れていたかもしれない。
ブラコンのカロンのこと。二人っきりではないと知った時は、さぞ落胆したに違いない。これはオレの落ち度だった。
ただ、今のセリフには、幾分か含むところがあったように思える。特に後半の部分。
何となくだが、カロンがオルカを敵視している理由が分かった気がする。
たぶん、嫉妬しているんだ。
弟妹が生まれた際、小さな子どもには二つの反応が見られる。自分が世話を焼く側に回ったことを誇りに考え喜ぶ、もしくは一身に受けていた親からの愛情が分散することを妬む。
カロンの場合は後者だったんだろう。あと、兄妹という特別な絆の中に、余所から他人が入り込んでくるのが我慢ならない。そういった感情も加算されている風に見える。
オレは頭を抱えたくなった。
こういう心の問題に、決まった解決方法は存在しない。ふとした拍子に改善する時もあるし、第三者の仲介で何とかなる場合もある。または、時間が解決するなんてこともある。
最悪なのは、ずっと険悪なままになるパターンだ。
これも割とあり得るんだよなぁ、幼少期のニガテ意識が大人になっても続くって。この状況に陥ってしまうと関係改善の難易度が増すので、できるだけ早期決着を図りたいところだ。
まぁ、そう考えると、オレの方針はそこまで間違っていない。
カロンは人見知りでもなければ、嫉妬深い子でもない。それは城下町のダンたちとの交流で証明されている。今回は、愛してやまない兄との絆が根幹にあるから、暴走してしまっているだけ。
であれば、オルカのことを知っていけば、多少は態度も柔らかくなるだろう。仲良しこよしまでは望まない。せめて、引っかかりなく会話を交わせる程度にはなってほしかった。
とりあえず、このお茶会では、お互いのプロフィールを教え合うところから始めるべきだな。徐々に段階を踏んで、仲良くなっていこう。
オレはそう決心し、早速二人へ話題を振っていく。
「せっかく集まったんだ、お互いのことを知っていこうじゃないか。これから、兄妹として支え合うんだし」
「
「ひぃ」
「そう言うなよ、カロン。オルカだって色々苦労してるんだから。オルカもそう怯えないでくれ。妹は、本当は優しい子なんだ」
カロンはオルカへ鋭い視線を向け、彼は怯えて縮こまる。そんな二人をオレが取り持つ。
軽い頭痛を覚えるが、オレやカロンの未来のため。頑張るんだ、オレ。
結局、お茶会は険悪な雰囲気のまま終わりを告げる。カロンとオルカの仲を取り持つのは、骨が折れそうだった。
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