Chapter1-1 ゲームの世界(2)
カロンの世話を続けること二年、オレは三歳を迎えた。現状、オレの打ち出した方針は上手く運んでいる。カロンは、二歳になった今も優しい女の子だ。
「にいさま、チョウチョです! あちらにチョウチョがいます!」
「あれは――魔光蝶という種類だな。大気中の魔素がキレイかつ育ちのいい花畑にしか現れない、貴重な蝶らしい」
「マコーチョウ……。さすが、にいさま。ハクシキ? ですね!」
「ふふ、ありがとう。カロンも、よく“博識”なんて難しい言葉を知ってたな。カロンも博識だよ」
チョウチョを見つけて大はしゃぎするカロンの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
オレたち兄妹は日課の庭園の散歩をしているんだが、相変わらず妹は可愛い。日光を反射して輝く金髪に、太陽のように鮮やかな紅目。ゲームでも、表向きは『陽光の聖女』なんて通り名もつくし、日輪の申し子と評しても過言ではないだろう。
また、それは見た目だけの話ではない。
「私たちがマコーチョウを見られたのは、ニワシのかたが毎日てーねーにオハナさんたちのお世話をしてくださっているお陰ですよね。あとでお礼を申しあげておかないと」
「そうだな。散歩の後にでも声をかけよう」
「はい!」
このように、他者への感謝もできる、心優しい子でもある。外も中も素晴らしいなんて、我が妹は完璧すぎる。
これならカロンに死の運命なんて訪れるはずないだろうが――気を抜くわけにはいかない。まだ二歳。今後、性格が変わっていく確率は十分にある。
それに、ゲームに類似した世界なだけあって、同じ運命に収束しようとする強制力があるかもしれない。絶対の安全が確保されるまで、オレは安心できなかった。
可愛い妹は、何としてでも守ってやる。オレはそう改めて決意した。
カロンを守るためには、オレ自身が力を持つ必要があった。いくら前世の知識を有しているとはいえ、知恵一つで乗り越えられるほど現実は甘くない。
幸い、前世の知識には、この世界で強者になる方法もあった。今までは体ができ上がっていなかったため、魔力増強や魔力操作力向上の鍛錬のみ行っていたが、そろそろ次の段階に入っても良い頃合いのはずだ。
大雑把な方針として、肉体面の強化および武術の習得と魔法の鍛錬である。
前者は前世の鍛錬と変わらない。走り込みで体力をつけ、筋トレなどで筋力を増強する。『幼いうちに筋肉をつけすぎるのは良くない』なんて話を耳にしたことがあるので、様子を見ながら鍛えようと思う。あとは柔軟もやっておこう。体を柔らかくしておけば、その分だけケガのリスクは減るのだから。
後者は、前世のゲーム知識を役立てようと考えている。その方が強くなれるというのもあるんだが……実のところ、一般に広まっている知識では、オレは強くなれなかった。というか、ゲーム知識を動員しても先行きが不透明だったりする。
何故なら、オレの体質に問題があった。
この世界の魔法には【属性】という適性が存在し、基本的には先天性の代物だ。生まれつき火属性のみの適性を有している者は、一生火属性しか扱えないわけである。
その適性は術者の容姿から判断できる。適性に応じた色が、髪や瞳に現れるんだ。火なら赤、水なら青、土なら茶、風なら緑、闇なら紫、光なら金といった感じ。複数属性持ちなら色が混ざるか、髪と瞳で異なった色になる。たとえば、カロンの場合は金髪紅目なので、光と火属性持ちということだ。
ちなみに、光属性は非常に希少で、
閑話休題。
この魔法適性が、オレの抱える問題に関わってくる。ここで振り返ってみよう、オレの髪と瞳の色を。白髪にめちゃくちゃ薄い紫眼である。
察しの良い人間なら何となく理解できたと思うが――そう、白に該当する属性はない。つまり、オレの魔法適性は無属性となる。闇の適性も若干混じっているが、魔法として使いものになるレベルではなかった。
この世界において、無属性は無能の証だ。無能者や色抜けなんて蔑称で呼ばれることも多々あり、『生まれながらにして魔法使いの道を閉ざされた落伍者』のレッテルを張られる。
何故、ここまで無属性がバカにされるかといえば、無属性は魔法を【
この世界の魔法は、魔法として発動させる手順が明確に決まっている。
第一に、大気中の魔素を取り込む【
第二に、体内に取り入れた魔素を魔力に変える【
第三に、繰り出す魔法の形を想像する【
第四に、【設計】を与えた魔力を体外へ放つ【
最後に、体外の魔力を【設計】通りの魔法へ変える【
この五工程をこなして初めて、魔法は発動するんだ。
ところが、無属性は最後の工程である【現出】ができない。どう頑張っても、魔力を魔力のまま扱うしかなかった。
何か手段はないかとも悩んだけど、前世でのゲーム開発陣が無理だと明言していたので、諦めるしかなかった。
魔法が無理なら、魔力のまま活用すれば良い。幸い、【現出】しなくとも【設計】通りに魔力は動かせる。
――そう考えるかもしれないが、それも現実的な方法ではなかった。
というのも、魔力とは純粋なエネルギーなんだ。実体を持たない幽霊みたいなもので、物理現象に介入するのは難しい。攻撃や防御に活かすなんて、夢のまた夢だった。
無属性持ちの絶対数が少ないとはいえ、この世界の住人もバカではない。一通りの研究はしたんだと思う。その結果、無能と呼ばれているんだから、簡単に起死回生の手段が見つかるはずはなかった。
だからこそ、オレはゲーム知識を使って、魔法系統の技術を鍛えるしかない。現時点の一般知識では、とても無属性を活用することはできないためだ。
ただ、ここまで絶望的な見解を話したけど、強くなれる可能性が全くないわけではない。
実はゲーム中、とある研究者が無属性に関する、いくつか言及をしていたんだ。それは、今後の研究結果次第という、あやふやなものだった。
だが、オレにとっては希望の種と言って過言ではない。ゲーム内で触れる内容がまったくの見当はずれの確率は低いだろうし、何より、オレには他に頼れる術がないんだから。
もし、ゲームの言及が正しかった場合、オレは最低でも二十年は先行した技術を扱えることになる。これは大きなアドバンテージになるだろう。
純粋な鍛錬というよりは、研究の一環のような感じになるが、気合を入れて精進したい。この成果次第で、オレとカロンの行く末が変わってくる予感がするんだ。
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