第99話 地母神〜ガイア〜
(なので、恐らくですがアルちゃんが死神ノ鎌の核を一撃で壊せたのはアルちゃんの【破壊者】の能力が無意識に自動発動してしまったからだと推測できます。ですが、【破魔ノ短剣】と【破壊者】であると気づくことが出来たならば、アルちゃん1人で死神ノ鎌を倒してしまうほどの力があったのではないかと思われます)
これは流石に俺も驚いてしまった。あのアルにこれほど強力な力を持っていたとは考えた事は無かったからだ。
今までにアルに関わってきた者達がそれに気がつかなかったのは、アルの優しき心によってその能力が無意識に抑制されて居たからであろう。だから、アルも自分には特異な能力を持っているとは気づいてはいたものの、自分の能力に気がつかなかったのだ。
それはイルの時と似ている。イルも最初は自分の能力を『ぬいぐるみを動かす』とだけしか認識していなかった。
けど、実際は『
それに気がつかなかったのも、イルが守護人形を生み出す機会など無かったのが原因である。
あの時、イルは自分で力を発動し、悪意ある者達ではあったが命を奪ってしまったことに酷くショックを受けていた。
だから、アルも自分の力の片鱗を目の当たりにして恐怖を抱いてしまうのでは無いかとばかりに思っていたが……実際は違った。
(そして、もう2つ目の能力ですが……こちらが重要です。アルちゃんは四神の能力を授かってしまったのです)
「まさか、この力のことか?」
(はい。この能力は玄武が持つ大地を操作する能力……この世の生が踏みしめる母なる大地を操るその能力を他の者達はこう呼びました……
「四神能力?」
(四神能力とはその名の通り四神のみが使用できる固有能力です。しかし、極希な出来事ですが四神に気に入られたり、認められたりすると能力を継承することが出来るのです。アルちゃんは……お父様である玄武から、託されたのでしょう)
俺はシルフの話を聞きながら、アルのことを思った。
先程の話の続きだが、アルは今の自分が持つ強大な力について認識しているはずだ。それでも、あの子は恐れている様子などは無かった。アルは前を向いたのだ。
奴隷から抜け出してからの生活から、死神ノ鎌との戦い、そして玄武になった父親の死を経てアルの心は強くなった。
だからこそ、アルは恐れない。父親から預かったその能力の使い方を既に彼女は心に決めているのだから。
そして、フェルメルの部屋にて、アルとイルは実の母親であるメリンダを窓から運ぼうとしていた。
アルはメリンダの腕を、イルは足を掴み必死で外に出そうと奮闘してた。
フェルメルはイルのぬいぐるみに気を取られているので今がチャンスなのだが、そろそろ長くは持たなそうであった。
「イル! 急いで!」
「う、うん!」
アルは母親の顔を見る。綺麗だった顔は窶れ、目元に濃い隈ができているのを見て胸が痛くなった。
今すぐイルと一緒に母親の暖かい胸の中へと入り、その身体を抱きしめたかった。そして、これまでに起こってきたことを直ぐにでも話してあげたかった。しかし、アルは歯を食いしばってこの部屋という鳥籠の中から早く解放してやろうと必死に運ぶ。
「くぅ!! こんのガキ共!! 私をなめるんじゃぁないわよぉ!!」
等々フェルメルはぬいぐるみの顔を鷲摑み、顔から引き剥がして放り投げると駆け足で2人の元へと駆けだした。
「お姉ちゃん危ない!!」
それを見て、イルが母親の運搬をやめて咄嗟にフェルメルの前へと出る。
「イル!!」
「どきなさい!!」
フェルメルは右腕を大きく振りかぶり、イルの頬を勢いよくぶった。
「きゃあぁ!! うう……」
フェルメルの一撃によってイルは吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れる。
「イル!! ふわっ!!」
イルを心配する時間もあるには与えてはくれない。イルをぶっ飛ばした後、フェルメルは直ぐにアルの首を掴んで壁に押しつけた。
皺のある手がアルの艶ややかな白い首をじわじわ後絞め始めた。
「はぁはぁ……手こずらせてくれたわねぇ……」
「うぐぐ……うぅ……」
アルは振り解こうとするもアルは所詮、ただの子供だ。狂った侯爵の怪力などに敵うはずがない。
「この髪の赤いガキが使っているに違いない。私が……いや、私と共にバルバドス様が求めていらっしゃった力の一つ、『地母神』をどうしてお前が使えるのだ!!」
「ぐぅ……お前なんかに喋るもんか……」
「しゃべろぉ!!」
フェルメルは首を掴みながら、アルの頬を殴る。何度も、何度も、何度も殴る。
しかし、アルは泣かなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……さぁ……話す気になったかい……」
「しゃべ……ら……ない……」
目の片方が赤く腫れ、口から血を流してもアルは涙を流さず、鋭い眼差しでフェルメルをにらみつけていた。
フェルメルはそのアルの姿に少しだけぎょっとした。
これはフェルメルにとって誤算な出来事だった。子供なら殴れば大人を恐れて色々吐き出すという浅はかな考えが今ここで消し去ったのである。目の前に居るのは子供では無い、数多の苦難を乗り越えて成長した戦士なのだ。
フェルメルはぞっとする。このままでは自分の身が危ない。そう感じた、フェルメルは殴っていた手もアルの首へと運び、本格的にアルの首を絞め始めた。
「うぐぅ!?」
締め付けが急に強くなり、アルが大きく苦しみ出す。
「この能力は残念だけど、代わりはまた作れば良いのさぁ!! だから、お前はここで死ぬといい!!」
フェルメルは本気でアルを殺すつもりだった。
アルも必死にもがくが、段々と力が入らなくなってくる。視界がゆっくりとぼやけ、徐々に暗闇が周りを包んでいく。
擦れる声、倒れているイルと母親へ手を伸ばすがそれは儚くも届かない。
その伸ばす手さえも力が抜けていき、床へ落ちていく。
意識が……消える……
「あがっ……おか……あ……さん」
闇が視界を覆う。その時、視界に光が見えた。そして、その光はアルへ声をかける。
「使うんだ……私の力を……お前なら出来る!」
それは父親であるマーカードの声だった。その声でアルの心臓が大きく高鳴った。
「うぐぅ……あがぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
その時、アルは大きな雄叫びを挙げるかの如く、この部屋から漏れ出すほどの大きな声を上げた。
その瞬間、この部屋全体がまた大きく揺れ出した。また大地が揺れだし、フェルメル城が揺れ出したのだ。
「な!? ま……まさか」
フェルメルは咄嗟にアルの首から手を離すと辺りをせわしなく見渡していた。
「げほっげほっ!!」
アルが大きく咳をしながらゆっくりと立ち上がる。
「許さない……許さないから……もうお前を……ゆるさない!!」
アルの怒りが膨れ上がるにつれて、フェルメル城は更に揺れが増す。
今の揺れは前までの揺れとは比較にならない程大きく、フェルメルがその場にしがみつくように伏せていた。
しかし、アルはその揺れすら微動だにせず、立っていた。
その揺れは外にいる者達にも影響を与えていた。
フェルメルの部屋で何が起こっているのかも分からないまま、突然また大地が揺れだしたのだ。それも先ほどの比では無い大きさだ。
「またか……!」
「ひぇええ!! またですぅう!!」
「まるで、大地が怒ってるみたい……えっ!? ちょっとフール!! あれ見て!!」
セシリアが指を指した方向を向く。
それはウッサゴのあらゆる大地から土が砂が石が空へと舞い上がっていく。
そして、その大地の一部が徐々に形が作られていく。
「あれは……龍だ、龍の顔だ」
俺はそう見えた。どんどんと形となっていくそれは龍の頭だ。それもあの玄武にどこか趣があった。
しかし、それだけではない。その龍の頭がとてもでかすぎるのだ。
どれくらいかというと、フェルメル城を丸呑み出来るくらいである。
そして、出来たその大地の一部で作られた龍の頭は大きな口を開けて、フェルメル城をにらみつける。
「ま……まさか」
俺の予感は的中する。
そしてフェルメルの部屋では、アルがフェルメルへ向けて腕を伸ばす。
「ま……待ちなさい……」
フェルメルは先ほどまでの強気は消え去り、怯えきった様子だった。それでも、アルは容赦をする気は無かった。
「世界に食われて……」
アルは腕を挙げた。
「待っ……」
「お願い『
その言葉が合図となり、外で作られた大地の竜頭は大きく伸びると巨大な口でフェルメル城を上から飲み込んでいったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます