第100話 怒り静める者
フェルメル城を飲み込んだ竜頭はそのまま地面へと一体化し、フェルメル城があった場所は竜巻のように砂埃が舞い上がっていた。竜巻のように回転する土はその場所全てを取り囲み、外からは中の様子は分からなかった。しかし、唯一分かるのはフェルメル城の形が跡形も無くないと言う事だけである。
「フール! アルちゃん達は!?」
「分からない! どうなってる!?」
俺とセシリアは目をこらしながらその竜巻の中へと目を凝らすが人影のようなものはない。
中が一体どうなっているのか確認する事は愚か、周囲に舞飛ぶ砂埃を制しながら目線を竜巻へ向けることが精一杯な状況である。勿論、それは俺たちだけでは無い。フェルメル城があった場所を見ているこの国中の者達もそうであった。
何が起こっているのかも分からぬまま、国中はパニックになっている。
それを制する為の聖騎士団達はここに居るため、市民の避難活動も出来るはずが無いのだから。
必死にアルとイルの姿を探していると、突然砂煙が晴れると共にその巨大な竜巻が消えた。砂煙が消えると共に姿を現したのはあのフェルメル城を丸呑みにした竜頭だった。
その竜頭はけたたましい鳴き声を上げると共にその場の大地から這い上がるように大きな身体を見せた。
その身体は背中に亀の甲羅を乗せた玄武を彷彿とさせる土で出来た巨大な竜がフェルメル城の嘗て場所に鎮座していたのだ。しかも、その大きさはあの玄武の数百倍の大きさを誇っている。
そんな巨大な竜の背に乗っている3つの人影が見えた。1人は2足で立ち、2人は近くで寝転がっていた。
「あの立ってる子……アルちゃんだわ!」
セシリアの言うように真ん中で立っているのはアルだけだった。しかし、なにやら様子がおかしい。
あの優しいアルの目に光が無く、ただ呆然と立ち尽くしているだけであった。
「何かがおかしい……」
正直嬉しくは無いが、今回だけは俺の悪い予想がかなり的中するようだった。
「……」
アルが右腕を前にゆっくりと出すと、それが合図となったのか玄武の形を模した大地竜は大きな雄叫びと共にゆっくりと前進を始める。竜の一歩で国中が揺れるほどで、その振動でフェルメル城付近の高級住宅区に存在する建物が崩壊していく。
アルは竜を歩かせ、どこかへ向かおうとしているのだろうか? しかし、このまま歩かせてしまうとこのウッサゴの国全てが崩壊してしまう可能性があった。
「セシリア、ソレーヌを頼む」
俺はソレーヌを身体から離すと優しくセシリアへ渡した。
「フール? 何する気?」
「アルを止める」
俺はそう言って一歩踏み出し、空へと舞い上がった。
「ええっ!? ちょっとフール!!」
「フールさんが落ちちゃったぁ!!!!」
俺は飛び出しさながら空を舞う鳥……のようでは無く、急滑降する隕石の如く地面へと向かっていく。
勿論、考えなしに飛び込んだ訳では無い。俺には強い味方が着いている。
「シルフさん!!」
(はい、お任せを! 『
空中でシルフが呪文を唱えると俺の身体はまるで羽が生えたようにゆっくりと下降するようになった。
(私のスキル『強風操作』でマスターを彼女の元へ飛ばします。準備は宜しいですね?)
「ああ! いつでも頼む!!」
(行きますよ、どうか御武運を!)
シルフが手をかざすと俺の後ろから強風が吹かれ、それが追い風となって俺の身体を押す。
その風に乗って、俺は一気にアルのいる竜の背へと着いた。無事に降り立つと倒れているの女性とイルだ。
恐らく、この女性こそ2人が探していた母親であろう。
(無事に着いてよかったのですが急ぎましょう)
「はい!」
俺はアル達の元へと駆け寄り、アルの正面へと立った。アルと同じ目線となって瞳を見ながらアルの肩を揺らす。
「アル! おいアル!! しっかりするんだ!! 進行をやめるんだ!!」
しかし、俺がいくら声をかけても揺さぶってもアルに変化は無い。
(マスターだめです、四神能力が暴走してアルちゃんの意識がありません)
シルフのこの言葉を素直に捉えるのなら、今アルは
このままだとあと少しで街の中へと入ってしまう。
どうすれば良い……どうすれば良いんだ……!!
目の前に迫る危機を止めることが出来ぬ事に絶望し、俺は思わず目を閉じてしまった。
しかしその時、俺の頭に声が入ってくる。
(今、目の前に起こっている事を止める事こそ、お前がいる理由だ)
これはシルフの声では無い。男のような野太い声……どこかで聞いたことがあるような声だが誰なのか思い出せない。
(マ……スタ……! ……スター!!)
シルフの声が入らなくなってくる。
(さあ、思い出せ……お前は)
その言葉と共に、俺の意識が消えた。
(マスター?)
シルフはフールの行動を最後まで見ていた。
シルフが見たのはフールの目が開かれると共に、その目が青く光り出す。
そして、その目を持ってフールはアルの頬に両手を添えて目線を上げさせると、目を合わせた。
すると、アルはフールのその青い瞳を見ると口を開いた。
「……フール?」
アルのその声を聞いた瞬間に俺の意識は戻った。戻ったとき、俺は優しげな笑みを浮かべていたようだった。
アルの目を見ると、いつも通りの光り輝いている綺麗で元気な瞳に戻っていた。
同時に、進行を進めていた竜の歩みも止まった。
「お帰り、アル」
俺が優しくそう声をかけるとアルは俺にもたれ掛かるように気絶してしまった。
アルが気絶したことによって、竜もまるで命が抜けタ銅像のように硬直してしまった。
(まさか……『賢者』が……解析を拒否したなんて……)
全てを見ていたシルフは驚いていた。この世の全てを解析する特殊能力『賢者』が解析できない事象が発生したのだ。
それは、シルフにとって初めてで有り、目の前の光景で起こった出来事が
(マ、マスター、お怪我は?)
「いや、なんとも……」
(まさか、瞬時に暴走を止めるなんてお見事としか言いようがございません)
「俺は一瞬だけ、意識が飛んだような気がするんだ。気がついたらアルが元に戻っていて……シルフさん、俺は一体何をしていましたか!?」
(も、申し訳ございません。私には何も……)
珍しくシルフが肩を落としていた。
俺は訳が分からぬまま、アルの暴走を止めウッサゴの危機は一応回避することができたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます