第98話 アルの能力

 突然現れた天へと伸びた大地を見て、フェルメルどころかウッサゴの国民全員が見上げながら驚いていた。国全体がフェルメル城の方へと目線が向けられ、その大地をただ茫然と見ているだけである。

 フェルメルは窓からそれを見て、開いた口が塞がらない様子だった。

 メリンダもその大地から現れたのがアルである事にひどく驚いていたがすぐに安渡した。


「ああ……アルちゃん……」


 メリンダはアルの姿を見た途端、力が抜けたようにその場に倒れて気絶してしまった。


「ま……まさか、これは知神の真の力……私が求めていた四神の力がどうして……」


 アルは器用に自分が居た大地から降り立ち、窓からフェルメルの部屋へと入ると母親であるメリンダの傍へと駆け出した。

 それを横で見ていたイルがアルの言葉を聞いて、アルの後に続いた。


「ママ!? ママ!!」


 2人はフェルメルのことなど気にしてはいない。それをフェルメルが許すはずもなかった。


「なっ!? この小娘共はまさか取り逃がしたガキ!? ぐぬぅ……貴様らぁ!!」


 フェルメルは堪忍袋の緒が切れ、鬼のような形相になるとスカートの太腿から隠し持っていたナイフを取り出すと2人に襲い掛かろうとした。


「ぬいぐるみさん!! 助けて!!」


 イルが咄嗟にフェルメルに向けて持っていた熊のぬいぐるみを投げると、ぬいぐるみはひとりでに動いてフェルメルの顔面にへばりついた。

 フェルメルはぬいぐるみによって視界を奪われると、ナイフを振り下ろした勢いに耐えられず体勢を崩して転倒してしまった。


「何なのよこのぬいぐるみは!! 放しなさいこのゴミカスがぁ!!」


 あの優雅な女公爵の面影など無いような汚い言葉を吐き散らしながら、フェルメルはイルのぬいぐるみを顔から引きはがそうと必死になるもぬいぐるみの腕力が勝り、剥がすことができずにいた。


 そんな慌しい事が起こっている一方、大地から解放された者たちは大地の上で酷く驚いていた。


「ウッサゴに戻って来たのか……と言うか……どうなっているんだこれは?」


 ものの数分まではビフロンス湿地の地下墓所に居たはずの俺たちはイルが起こしたであろう能力によって飲み込まれた後、日が沈みかけて差し込む赤い日の光が見えた途端、俺たちの視界は地上を見下ろすほど高いところに居た。それもウッサゴの国の中で一番大きいフェルメル城の頂上に達するほどの高さにだ。

 しかも、全員に危険が及ばぬよう十分な足場と取っ手が1人1人に出来上がっていた。


「大地がここまで高く……大きくそびえ立つなんて」


 セシリアは俺のしがみつき、ウッサゴを見下ろしていた。


「だ……大地があんなに離れています!! ううぅ……高いところは苦手です……」


 ソレーヌは俺のにしがみつき、涙目になりながら必死に目を閉じて下を見ないようにしていた。

 なぜか偶然に、セシリアとソレーヌが俺の近くに居たのだが……わざわざ、俺の腕を掴まなくても良いような気がするが……


「うぉーー!! 高いんだぞ!! オイラが歩いていた街があんなに小さく見えるんだぞ!! ソレーヌも見るんだぞ!!」


「パ、パトラちゃん! 私の頭を揺らさないでくださいぃぃ!!」


 相変わらずソレーヌの肩に乗っているパトラは、目を光らせてソレーヌの頭を揺らす。

 俺はパトラへ、ソレーヌの頭を揺らさないように促した。


 周りを見ると、少し離れたところにルミナやシュリン、ウォルターも居た。しかし、驚いたのはダンジョンの外で待機していたはずの騎士団達も居たことだった。

 俺たちに関わった者達全員がおそらくアルの力によってここへ連れてこられたのだ。

 恐らくこの力は、玄武が死んだときに出た光によって得た力だろう。その力を目の当たりにして分かる、強力すぎる力は並大抵の特殊能力ユニークアビリティではなさそうだが、分からない。

 そんなとき、胸に付けた緑のペンダントが光り出す。こう言う時に頼りになる存在が来てくれるようだ、ナイスタイミング。


(マスター、お褒めにあずかり光栄です)


 物知りのシルフが来てくれた。俺はまだ何も言って無いのだけれども……


(マスター、2つお知らせがあります。一つはアルちゃんの先天的に取得している能力についてです。どうやら、アルちゃんが取得していた能力は特殊能力で間違いないようです、ただ……)


 突然、シルフがその先の話を閉ざす。


「どうかしたんですか?」


 俺がそう訪ねると、シルフは悲しげに口を開いた。


(実は私であろう者が、まさか勘違いをしておりました……お許しください)


 シルフは俺の目の前で深々と頭を下げる。


「勘違い? 一体何の事ですか?」


(私、少し前にアルちゃんの能力を『絶対解錠ではないか』と仰ったはずです。しかし、違ったのです。

 アルちゃんの本当の能力……それは、『破壊者デストロイ』だったのです)


「破壊者? ずいぶんと物騒な能力のように聞こけど、一体どういう能力なんですか?」


(破壊者はその名の通り、能力の使用者が壊したいと感じた対象を破壊する能力です。この能力が効果を発揮する対象範囲は生命を持たぬ物体から生命を持つ物体まで……つまり、悪意のある者が所持すると極めて危険な能力です。死神ノ鎌デスレイスが持っている『一撃必殺スレイヤー』は使用者の意思に反して自動発動してしまうのに対して、破壊者は自分の意思で効果を使用できます。ですので、心優しいアルちゃんはその能力を唯一『鍵を破壊した』事にしか使用していなかった為、解析違いを起こしてしまったのかもしれません。あの死神ノ鎌との戦いで、初めて【破壊者】を使用して、仲間を守るために彼女は命を破壊したのです。それと、アルちゃんの持つ短剣についても解析が完了しております。)


「短剣?」


(あの短剣は【破魔ノ短剣ダガー・オブ・トート】という、希少な武具です。この武具には装備能力ウェポンアビリティ『特殊能力強化』、『種族特攻:アンデット』、『種族特攻:魔人』が備えられています)


 シルフの解析結果から、あのアル自身も、アルの持つ短剣にも強力な力を持っている事が分かったらしい。

 しかし、驚くのはまだ早かった。何故なら、シルフの話はまだ終わってはいないのだから。

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