第96話 騎士、巻き込まれる

 一方その頃、ビフロンス湿地の入り口のベースキャンプで待機している騎士達は単騎で向かった隊長のウォルターの帰りを待っていた。

 ウォルターと共に向かっていた、クラリスとパウロ、そしてアイギスは魔人との戦闘によって負傷したためウォルターに帰還を命じられ、他の騎士達と待機してた。

 ウォルターを単騎で見送ってから時間が経過し、外はすっかり日が暮れている。

 他の騎士達は周りを警戒しつつも、あまりにも長時間の待機時間に耐えられず寝ている者やトランプで遊戯を楽しむものまで出ていた。

 しかし、アイギスも疲れているのかそんな部下たちに対して注意をしようとは思わなかった。ただ、今はウォルターの力になれなかったことに酷く気を落としていたのだ。

 アイギスは外の様子を見て、大きくため息を吐くと隊長クラス専用の大きなテントの中へと入る。

 そこに座って自身の武器である長槍の手入れを行っていた。隣では、鎧を脱いで軽装になったクラリスが椅子の上で正座している。


「調子はどう? どこも変じゃないかしら?」


「アイギスさん、私は何ともないです。でも、申し訳ありません……私が足を引っ張ってしまったばかりに迷惑をかけてしまって……」


「気にするんじゃない。例え、お前がああなっていなくとも俺たちは奴らに負けていた。それに、自分の命が助かったことをありがたく思うんだな」


「パ、パウロさん」


 パウロは長槍の手入れが終わると背中に背負って、立ち上がった。


「じゃあ、俺は部下たちの様子を見てくる。待機時間だからと言ってだらけさせるわけには行かん。仲間が死んでいったというのに……」


 苛立ちを見せながらパウロは勢いよく、テントから出て行ってしまった。恐らくパウロも自分が実力不足であることを情けなく感じているのだろう。

 あの迷宮へ行った者たちが出会った魔人の恐ろしさを目の当たりにして、実力の差を感じていた。アイギスもパウロも全力を出したはずだった。

 それで、少しでも一矢報いたはずだと思っていたが、魔人達の力の方が上手だったのだ。

 もし、ウォルターが居なければ生きて帰って来た者たちはとっくに死んでいた。そう考えるだけで、ぞっとする。アイギスは寒気を感じた。


「アイギスさん? 大丈夫ですか? お顔の色が悪いようですけど」


 クラリスが心配の眼差しをアイギスに向ける。


「いえ、大丈夫よ。少し、疲れてるだけだから」


 確かに疲労もあったかもしれないが今回はいつもと違った。アイギスは不幸なことが今後予想されるといつも決まって悪寒を覚えるのだ。

 今の今までひどい目にあってまだ変なことが起こるのだろうか?


「……まさかね」


 アイギスは一瞬、そう思ったが自分が疲れているだけだと改めて思った、その時だった。

 突然、アイギスたちが立っている大地が大きく揺れ始めたのだ。


「何!? うそでしょ!?」


「はわわわわっ!! な、何なんですか今度はぁ!?」


 その揺れはさらに増してくる。最早、立つことすらままならない揺れによってアイギスが入っているテントの足が崩れ、テントは倒壊し、2人はテントの屋根の下敷きになってしまった。

 それでも収まることのない揺れにアイギスもクラリスもテントの下で動揺している。


「おいおい!! 一体何だってんだ!?」


 アイギスは布で出来たテントの屋根を手で破って外を見るとパウロ達もその場に伏せていた。周りのテントも崩れ落ち、ベースキャンプは崩壊している。


「私も分からない!!」


「おいおい、もしかしてこれも魔人の仕業とか言うんじゃないよなぁ!?」


「だから分からないわよ!!」


 アイギスとパウロがお互いに言い合っていると、ベースキャンプから見て中心の大地が地割れを起こした。そして、その地割れは大きく広がり騎士達を飲み込んでいく。まるで、地面から巨大な口が生えたように。

 アイギスとパウロ、そしてクラリスも地割れの中に飲み込まれると大地がひとりでに動き、その割れた地面が閉じる。

 そして、全員を飲み込んだ大地は脈打つようにある国へと進んでいく。

 その国とはウッサゴだった。

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