第38話 ヒーラー、強い意志を胸に

「試した?」


「そうだ。私たちが先にこのダンジョンへと入った時、もしかしたらお前らが私の忠告を聞かずにこのダンジョンに入ってくると思ったのだ。その時こう思ったのだよ。ならば、試してみようではないかとな」


 カタリナの言うその言葉を聞いて、俺はここに来るまでの今までの道のりを思い出した。分岐点での松明の明かり……臭いがしない未開拓地……その謎のつじつまが繋がってくる。


「お前も気が付いたか? では、答え合わせをするとしよう。私たちはこの部屋に一度来ている。確かに先ほど居たファフニールを確認し討伐しようと考えたがこいつでお前らを試そうと思い、敢えて野放しにした。その代わりにファフニールに続く道へと松明を付け、あたかも開拓したと見せかける。そして、私たちは分岐点に戻り、別の道の方を選んだ。もちろん、松明の火などを付けずにな」


 やはりか……あの時セシリアが分岐点で臭いを嗅いだ時、真っ暗な未開拓の道の方は臭いがしないのに明るく照らされて開拓されていた道から臭いがしたのはそういう事だったと言うことだ。それに、別の道を選んだとしても魔物が現れる可能性だってあったのにそれを松明の明かりを一つも付けずに探索していたなど超人過ぎる。


「で、でもどうして別の道を進んだのに私たちの様子が分かったのよ⁉ 暗くても道を進んでるなら私達の様子何て分からない筈だしすぐに来られない筈よ!」


 セシリアが話に入ってくるとカタリナに向けて指を指しながら言った。しかし、カタリナは動じずに小刻みに震えながら笑っていた。


「ふふ、すまない……私がいつ、先へ進み続けたと言ったのかしら? 私は別の道を選んだとしか言っていないわよ」


「じゃ、じゃあ!! どうして臭いがしなかったのよ⁉ 魔物が居なかったとでもいうの⁉」


「臭いと言うのは私には分からないが、私たちが選んだ道には確かに魔物は潜んでいた。因みに、私たちは4人パーティなのだがよく見たまえ、1人いないだろう?」


「そ……それって……」


 セシリアが顔を引きつらせている。セシリアの思ったことは俺にも分かった。勿論、俺もセシリアと同じ気持ちである。


「そろそろ、戻ってくる頃か……」


 カタリナがそう呟いた時、この部屋の入口の方から凄い速さで駆けてくる音が聞こえてきた。そして、その音が近くまで聞こえてきた時、飛び込むように部屋の中へと入って来る。

 黄色の髪とその髪から出た獣の耳……豊満な胸とその剛毛な毛を纏った獣の手に変形した手と足はまさしく外で俺たちを襲った女、ライナだった。


「因みに、私がこいつの気配に気が付けたのはこの道に探知魔法”気配感知(アクティブソナー)”をかけておいたからだ。気配感知は物体がその場所を通ると私の神経に知らせてくれるという魔法だ。だからお前たちの気配を感じる事ができた」


 俺たちはカタリナの思惑通りに動かされていたと言うことだ。短時間でここまで計算高く作戦を練られるとはこのカタリナと言う女は一味違う人間だと感じる。


「リーダーさんよぅ、あの通路の魔物は全部倒してきたぜ!! 楽しかったけどなんっか骨がねぇんだよなぁ~~」


「え⁉ あの道の魔物全て⁉」


 ルミナは驚いて、思わず声に出してしまったようだ。

 ぼりぼりと頭を掻きながら緊張感の無いライネにカタリナは一つ溜息を吐く。


「……まぁ、ライナはあまりにも度が過ぎる戦闘狂ではあるが今回ばかりはその性格も使わせてもらった」


 カタリナには仲間の性格さえもうまく使うほど知恵があるようだ。ますます、カタリナの実力を見せられたことによって俺もこのパーティの実力を受け入れる他なかった。


「カタリナ達が十分に凄いことは分かったよ。で、俺たちの事はカタリナ達から見てどうだったんだ?」


「正直、全滅か半壊になって逃げてくると予想していたのだが、私たちが来た頃には全滅はおろか、ファフニールにダメージを与えていたことに驚いた。普通の冒険者ならファフニール程度なら逃げ出すのだがな。そんな様子を見て、少しは骨のあるパーティだと感じた。だが、やはり疑問だ……なぜお前がF級冒険者なのだ?」


 カタリナの鋭い言葉に俺は少し後ずさりしてしまう。


「実力か? いや……それよりも手っ取り早く考えられるのは能力……特殊能力ユニークアビリティか……」


 カタリナに感づかれてしまったようだ。俺の”魔力無限”という能力までは予測されなくとも俺にも特殊能力が備わっていることが。


「……」


 俺は沈黙したまま黙秘をし続ける。カタリナは真っすぐに視線を俺へと向ける。俺の瞳の中を覗きこんで真実を見つけ出そうとしているような目だった。


「……まぁ良い、言うとも言わなくとも変わらない。しかし、このままお前たちをこの先へ進ませたくはない。相手は四神だ、私たちでも太刀打ちできるか分からん相手だ……そんな奴の待つところへなど行かせるわけにはいかん。悪いことは言わん……今すぐひきかえ……」


 カタリナの言葉に割り込むようにソレーヌは言葉を発した。


「嫌です!! 私は先へ進みたいです!!」


 ソレーヌは自分のスカートを強く握りしめ、小刻みに震えていた。そして、涙が頬を伝って地面へと落ちる。怖いのだろう。先に何が待っているのか分からない恐怖、そして、目の前に追い付くには程遠いほど実力を持った者に対して反発する恐怖、その全てを受けながらソレーヌは言葉を吐き続けた。


「私は私の森を、仲間を焼かれたんです!! 私が……焼かれて失った森や仲間たちの思いを持って敵を討ちたいんです!! それに、私はセレナ様と約束しました。必ず私と手を取り合ってくれる人たちと共に朱雀を討伐すると!! 貴方達と同じように私たちも固い意志を持ってここへ来ているのです!!!! 生半可な気持ちではここまで来ません!!!!」


 ソレーヌに心を押されたのかセシリアとルミナもソレーヌの肩にそっと手を置いた。


「そうよ!! ソレーヌの言う通りよ!! 私たちも国から四神討伐の命を受けてるの!! ここまできて逃げ出してたまるもんですか!! それにソレーヌと一緒に戦うって決めた。私たちには私たちの思いでここへ来てるんだから好きにさせなさいよね!!」


「そうです!! ソレーヌちゃんもセシリーもフールさんも私が守って見せます!! 四神も倒して、ソレーヌちゃんの目的も私たちの目的も叶えます!!」


 俺はこの時、2人の成長を実感した。強さだけじゃない、強いものに対してでも自分の思いを伝えることのできる心の強さ……それさえも成長している。

 そんな3人を見て、俺も体が動く。俺は3人を腕の中に包み込み、カタリナへ言葉を言った。


「ああそうだ!! 俺たちには俺たちの目的がある。負ける負けない、危険だ危険じゃないの世界じゃないんだ! やるために俺たちはここへと来たんだ!! 俺は確かにF級だ……だけどな……俺にも思いはある!! 四神は必ず討伐する……」


「み……皆さん……」


 ソレーヌは涙を拭いながら俺たちの顔を見る。全員がソレーヌに笑顔を向けるとソレーヌも笑顔になった。


「……そうか、なら止めはしない。そこにある物を含めてダンジョンにある宝もくれてやるし、私たちの後でも構わん……四神討伐へ向かうが良い。皆、行くぞ」


 カタリナが指さした方を向くと部屋の隅に汚らしい木箱が置いてあった。宝箱だろう。カタリナたちはそんな宝箱など見向きもせずこの部屋の出口へと向かって行く。


「これだけは言っておく……死ぬんじゃないぞ」


 カタリナが俺たちにそれだけを告げると歩みを早めてこの部屋から出て行ってしまった。この部屋に残された俺たちは、全員顔を見合わせた。全員が真剣な表情をして誰一人として意志を持たぬものなどいなかった。


「ソレーヌ、ありがとう」


 俺が感謝するとソレーヌは俺の手を握った。


「必ず……倒しましょう!!」


 すると、2人もそれに合わせて俺とソレーヌの握った手に手を重ねた。


「大丈夫よ! フールにみんなが居てくれたら!」


「私だって頑張るんです! みんなで頑張りましょう!!」


 俺たちの思いは一つになり、改めて四神への討伐の思いを深めた。

 俺もこの3人のおかげで気持ちも成長できる気がする……やろう……この手で……


「……っと、その前に! パトラちゃんのお土産っていう目標も達成しないとね♪」


 セシリアがそう言って宝箱の方へと指さす。


「そうだな、大事なことだ」


「それじゃあ、レッツ宝箱タイムです!!」


 ルミナとセシリアが尻尾をブンブンと振りながら宝箱の前ではしゃいでいた。

 それをソレーヌが目を輝かせてみている。


「ソレーヌ?」


「ごめんなさい、ちょっとほっとしてしまいました。さっきまであんなに真剣だったのにしっかり笑うこともできるなんて……素敵だなって」


 俺たちは強い意志を持ってるけど、あんな二人のような感じで行くのが俺たちらしい冒険の仕方だ。俺はソレーヌの頭を優しく撫でてやった。


「怖いかもしれないが、必ず成功させるからな。二人もそう思ってる……だから、今は笑おう」


「! ……はい!」


 ソレーヌは明るい笑顔を向けてくれた。ソレーヌの緊張が解けたみたいでよかった。


 俺は必ずこの笑顔を守って見せる。そう、前よりも成長したこの心で決めたのだ。少しでも俺を成長させてくれたみんなの為に……


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