第39話 ヒーラー、朱雀の間へ

 俺たちは、ファフニールが守っていた宝箱を開封してみる。中には赤い液体の入った瓶が複数個とキラキラと虹色に光る液体の入った瓶が1つ、そして分厚い本と巻物が入っていた。

 この瓶の物はよくわからないのでパトラに後で聞くことにしよう。そして、分厚い本の表紙には『回復術士ノ魔導書・大全』と書かれていた。恐らく新たな魔法を習得する為の魔導書に違いない。今度、読んでみよう。

 そして、巻物……これを読めば新たな能力アビリティを得ることができる。巻物には『並・上・極』のレアリティがあり、レアリティが高いほど良い能力を習得する事ができる。因みに習得できる能力は1つだけでランダムに選ばれる。その巻物には『戦士ノ巻物・極』と書かれていた。職業が戦士であるセシリアにそれを渡す。


「えぇーー!!良いの⁉︎ これ貰っちゃっても‼︎」


「ああ、戦士であるセシリアがそれを使うべきだからね」


「わぁーーい♪ ありがとフール♪」


 セシリアは笑顔で尻尾を振りながら早速、その巻物を開いた。すると、その巻物の文字が光り出すと光が宙に浮かび上がって、セシリアの胸へと入っていく。そして、光が全てセシリアの中に入った時、その巻物は霧のように消えてしまった。


「どうセシリー? 何か変わった?」


「いや……特に何も……」


 能力は戦いの中で気がつくか、冒険者証を更新した時に確認する以外は自分の能力を理解する手段は無い。


「それ……もしかして、ハイポーションじゃないですか?」


 ソレーヌが赤い液体の入った瓶を見てそう言った。


「ソレーヌ、分かるのか?」


「薬学の知識は少しだけあります。これはかなり売値として価値がある物ですからパトラちゃん、とても喜ぶかもしれませんね」


 確かに、売値が高い物を渡せばあのパトラの事だ、目を光らせて喜んでくれるはずだ。


「じゃあソレーヌ、これはどうだ?」


 そう言って俺は、虹色に光る液体の入った瓶をソレーヌに見せた。


「うーーん……これは見た事がないですね……もしかしたらかなり貴重な物なのかも……」


 ソレーヌでも分からない薬……効果が分からないなら使わない方が良いな……


 俺は手に入れたアイテムを鞄の中へとしまった。


「よし! じゃあ先に進むか!」


「「「おぉーー!」」」


 俺たちはダンジョンの探索を再開し、先へ進んだ。カタリナ達が先に開拓している為、通路には松明が灯っている。セシリアの鼻と松明の灯りを頼りに進んでいくと次なる部屋を見つけた。


「クンクン……やっぱりここからも臭いがしないわ」


 セシリアの言葉を信じて、その部屋に入る。その通り、魔物の姿はない。あるのは未開封の宝箱だけ……やはり、カタリナのパーティが殲滅して行ったと考えられる。


「魔物がいない……やっぱりカタリナさん達が倒していたのでしょうか?」


 ルミナが構えていた盾を背中に背負い直す。


「恐らく……」


 これほど早くこのダンジョンの魔物を討伐できる実力であることは俺達も目の前で見ている。

 だとしても、進むペースが早すぎる。もしかするともう朱雀の居る部屋に着いているのかもしれない。


「みんな、宝箱は後だ。先に進もう」


 そう言うと全員が頷く。そして、部屋の奥へと進み先に進んだ。数十分おきに、部屋に入るがやはり魔物の気配がない。そして、道の真ん中に落とし穴が剥き出している道を見つけた。

 これもカタリナ達の仕業だろう。もしかすると、罠も全て解除されているのかもしれない。そう考えると俺たちは探索ではなくただただ道を進んでいるだけのようにも思える。これまでの道の様子から安全であると思った俺は道中でソレーヌと会話をする事にした。


「ソレーヌはどうしてセレナの事を大事に思っているんだ?」


「セレナ様は私達の母親同然です。セレナ様が居なくては私は愚か、仲間達もここまで成長する事はありませんでした。だから、我が子のように扱ってくれたセレナ様を最後までお守りする事が私の生き甲斐なのです……でも……」


「?」


 ソレーヌは下を向きながらもじもじとしていた。


「皆さんのことを見てたら何だか、冒険って面白そうだなって……私、森とアモンの村しか見たことないから世間知らずだし……でも、広い世界を見てみたいなとかそう言った憧れもあって……」


 ソレーヌの話す声が少しだけ震えていた。緊張しているのかその言葉の一つ一つを頑張って人に伝えようとする気持ちが伝わってくる。もしかしたら、初めて俺に打ち明けてくれたのかもしれない。


「ソレーヌ、確かにセレナ様の事を大事にしている気持ちはよく分かったよ。でも、良いんだぞ? 自分のさらに奥にある本当の気持ちを言っても良いんだ。折角の自分の人生なんだ。さらけ出していいんだ……」


「フール……さん……」


 俺がソレーヌにそう言えたのはギルドで雑用係をさせられていた過去の事が頭にあったからだ。今はこうして自由にしていられるのもセシリアと出会ってはっきりできたから。だから、俺もソレーヌにも良い人生を送る為の後押しできる人になりたかったのだ。


「フ、フールさん!」


 ソレーヌは急に俺の方を向くと真剣な眼差しで俺の目を見る。


「も、もし! 無事に朱雀を討伐できたら……わ……私も冒険に……」


 ソレーヌが言葉を言いかけた時、セシリアが大きな声を上げた。


「みんな! 見て! あれがそうじゃないかしら⁉︎」


 セシリアの指す方向を全員が向くとそこには赤く塗られた重々しい扉が目の前にはあった。B級ダンジョンの時とは違う、何か別のオーラを感じていた。扉の色と対比する青い松明の火が扉の左右に置かれ、不気味に揺らめいている。この先に朱雀がいる……そう思った時、扉の奥で大きな衝撃音が聞こえた。それによって俺たちのいる場所も衝撃によって揺れる。


 奥でカタリナ達が戦っている!


「みんな覚悟は良いか‼︎」

「うん! 私は大丈夫!」

「私も行けます!」

「参りましょう!」


 全員の覚悟を聞いて、俺はその扉を開いた。重い扉はゆっくりと開かれていく。

 部屋に入り、まず目に入ったのは目の前で2人が倒れている光景だった。倒れているのは片眼鏡の男セインとツインテールの少女サラシエルである。

 その前で、カタリナとライネがいた。2人ともボロボロでカタリナは鎧が壊れかけ、ライネは傷だらけな上に右腕が無くなっていた。


「カタリナ!」


「フ……フール!」


 カタリナの目の前で赤々と燃え上がる火が見える。それは凛々しく俺たちを細い目で睨む大きな鳥が炎を衣の様に身に纏い、静かに佇んでいた。


 そう……あれこそが四神の一柱であるSS級モンスター……"炎神"朱雀だ。


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