第37話 S級モンスター ファフニール戦②

「カタリナ……どうしてここにいる」


 俺たちの後ろに突然現れたカタリナのパーティに対してこの場にいた全員が驚いていた。この道はカタリナ達が開拓したものではないのだろうか。


「どうした? まるでこの道はカタリナ達が開拓した道ではないのか? どうして、俺たちの後ろの道から現れているんだ? そう思っている顔をしているなフール」


 カタリナには完全に俺が思っていることを見破られているようだ。


「まぁいい、種明かしは後だ……お前たちの実力は十分に分かった。後始末は私たちがしようではないか……」


 そう言って、カタリナを含めた三人は淡々とこちらに歩いてくると俺の横を歩き、前に出る。


「あなた達は引っ込んでなさい!」


 小さな少女は俺にそう告げると、自分の背丈よりも一回りも大きい杖を構えた。


「あはは、ちょっと横失礼するね」


 片眼鏡の男もそう言いながら俺の横を歩き、前へ出ると木製の杖を構える。


「セシリー、私たちはどうしよう……」


「……一度、フールのもとへ行きましょう」


 そうして、二人は突然のことに困惑した様子で俺のもとへと戻ってくる。ソレーヌも状況が呑み込めぬ様子だったが俺の方へと戻ってきた。

 俺は不安になっている二人の頭を撫でながら前向きな声をかけた。


「大丈夫だみんな、少し様子を見てみよう。ソレーヌも大丈夫だからな」


 そう言って、ソレーヌの頭もなでてやると少し照れたように頬を赤くしていた。

 俺たちは部屋の後ろへと下がり、カタリナたちの様子を見ることにした。


 一方で、カタリナがファフニールへ向かって歩きながら、腰に付けたバスタードソードをゆっくりと引き抜く。カタリナは剣を構え、ファフニールに向けて鋭い視線を向けた。

 ファフニールは損傷した部位を自己再生の効果で修復されていくと怒りの面持ちでカタリナへと威嚇する。

 カタリナはゆっくりと深呼吸し、心を落ち着かせている。そんな中、カタリナに向けて損傷部位が回復したファフニールが大きな口を開けて襲い掛かってくる。

 カタリナはゆっくりと目を閉じた。

 すると、カタリナの立つ地面に黄色い魔方陣が生み出されると、カタリナの刀身に雷が纏う。


「”属性付与エレメンタルグロウ”、ファフニール……確か奴は雷属性に弱かったと書物にありましたので宜しければお使いください」


 どうやら、片眼鏡の男が支援魔法をかけたみたいだ。電流が飛び散るその剣に動じず、カタリナは構えの型を崩さない。


「我……我が剣を信じ、身を任せん……」


 そして、カタリナは自身に向かってくるファフニールへと横に剣を振った。真っすぐ水平に大きく口を開けたファフニールの口に刃が入ると流れるように肉が切られ、ファフニールの体が真っ二つに割れる。

 しかし、ファフニールの体はすぐにも再生を開始しようと肉が分裂した他の肉を求めて動き始める。


「”結界牢獄パリアプリズン”」


 カタリナがそう呟くと切られたファフニールの肉から光の格子が生まれる。その光の格子は分離したファフニールの肉と肉の間を挟み、ファフニールの自己再生を阻む柱となっていた。

 ファフニールの肉は繋がりたくともカタリナの生んだその柱によって肉の接着が困難になり、再生速度がかなり低下している様子である。


「あとは頼んだぞ、サラシエル」


「言われなくても魔力は溜まってるわよ! 食らいなさい!! ”空間炸裂エリアスプロ―ジョン”!!」


 サラシエルが杖を掲げた時、ファフニールの中心が一瞬光るとけたたましい爆音とともに激しい爆発が起きた。この空間全体が揺れ、爆風と埃ががこちらへと向かってくる。

 俺はセシリアとルミナ、そしてソレーヌの3人を抱いて爆風から身を守る壁になった。

 ある程度時間が経ち、埃が収まってきたのを確認してから3人から離れる。


「みんな、大丈夫か?」


「あ……ありがとうフール」

(フール良い匂い……)


「だ、大丈夫です!」


「助かりました!」


 ファフニールはどうなったのだろうか? 

 みんなの無事を確認してから俺は後ろを振り向いた。すると、そこにはファフニールの身体は跡形も無くなっていた。肉は一欠けらも残っておらず地面には『居た』という痕跡だけを現した血だけがそこにはあった。


「たわいもないな……」


 カタリナは剣を静かに鞘へと入れた。カタリナが後ろを振り向き、2人の元へと歩み寄る。


「セイン、良いサポートだった。今後も頼む」


「お役に立てたみたいで光栄ですよ」


 カタリナの言葉に片眼鏡の男はニコニコと笑っている。


「サラシエル、良く奴を一撃で消し去った。助かった」


「ふん! この程度の事、私に掛かれば息を吐くことと一緒だわ! まぁ褒められるのは悪い気がしないから受け止めてあげるわよにゃーーはっはーー!!」


 ピンク髪の女が得意げに腰に手を当てて堂々と笑う。褒められてまんざらでもない表情である。

 俺たちが苦戦していたS級モンスターであるファフニールを一瞬で倒してしまった……一人一人の実力はさることながらも徹底された連携力は圧巻だった。

 これが本当のS級パーティ……俺は心の中でそう感じた。

 2人に声をかけた後、カタリナは俺たちの方へと歩いてくる。俺は3人を背に恐れず前へと出る。


「……助かった、ありがとう」


 俺は素直にカタリナへ頭を下げる。


「礼など良い。紹介しよう、セインとサラシエルだ」


 カタリナは俺たちに仲間の二人を紹介した。男はニコニコと頭を下げるがサラシエルは興味がなさそうにふんっとそっぽを向く。


「そんなことより……お前たちは私が思っていたよりもかなりガッツのある者たちだと言うことは分かった」


「それは、どういう事だ?」


「悪いが試させてもらったわよ。お前たちの実力を……」


 カタリナが口元を緩め、笑みを浮かべながらそう言った。


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