第36話 S級モンスター ファフニール戦①
初手、俺はセシリアに向けて”EX治癒(エクストラヒール)”を持続詠唱を始めた。それに合わせてセシリアがファフニールの方へと駆けていく。
「セシリア、奴の身体は硬い! 気を付けろ!」
「OK! やってやるわ!」
そう言ってセシリアは『雷光』、『烈風』を鞘から抜き、勢いに合わせてファフニールへ向けて剣を振るう。刃がファフニールに当たると金属を切ったかのように甲高い音が鳴る。セシリアの攻撃は硬い鱗によって防がれてしまう。しかし、セシリアは切れない刀剣に力を込め、切るのではなくファフニールの体を浮かせるように持ち上げた。こんな巨体は男の戦士でもできるものはそうそういない。なぜなら、俺のエクストラヒールによって攻撃力上昇効果によってできる力技だからだ。
セシリアがファフニールを切り上げ、胴体が宙に浮くそこに駆け込んできたのはルミナだった。
「ルミナ!」
「了解です! フールさんお願いします!」
「分かってるさ!」
俺はエクストラヒールの対象をセシリアからルミネへと変える。そして、セシリアが後方へ下がり、ルミナが入れ替わるように前に出る。
「行きます! ”
ルミナの盾がファフニールの胴体を叩く。その追撃によって、見事その巨体であるファフニールの全身が宙へと浮かんだ。そのタイミングを見ていたのは勿論、後方でずっと魔導弓を構えていたソレーヌである。
「ソレーヌさん!! お願いです!」
「分かりました!」
ルミナの声と共にソレーヌは弓を引く。光の矢が現れ、ソレーヌが見たファフニールの体全体に魔法陣が浮かび上がっていく。
「我が光の矢よ、強固なその鱗を貫きたまえ! ”
ソレーヌは矢を放つ。その矢は空中でファフニールの目の前で拡散し、ファフニールの体中に付いた六芒星の魔方陣に向かって飛んで行くとその硬い鱗を無視して貫通する。無数の光の矢がファフニールの体を貫き、ファフニールはそのまま血だらけのまま地面へと落下する。ソレーヌの光の矢のおかげで硬い鱗が割れて、その亀裂の間から血が流れていた。
「何よ、S級も大したことないわね! せっかくだから素材剥ぎ取りましょ?」
そう言って悠々とセシリアは剣を納刀し、ファフニールの方へと歩んでいく。確かに、手ごたえがなかった……そのことがどこか胸に引っかかる……ここまで弱い魔物だったか?
そう思って様子を見ていると、セシリアが倒れたファフニールの体へ近づいたその時、一瞬だけファフニールの前足の指が少しだけ動いた気がした。
「……!! セシリア離れろ!!」
「へ?」
セシリアが俺の方を向いた時、その死角を突いてファフニールが自身の尻尾を薙ぎ払う。
「セシリ―危ない!!」
ルミナがぎりぎりセシリアの間に入り、盾でその尻尾を防ごうとしたがそんなこと関係ないと言わんばかりに盾はルミナごと吹き飛ばされ、後ろにいたセシリアの身体もルミナの体に巻き込まれて、2人は壁際まで吹き飛ばされた。
「ルミナ‼ セシリア!! 大丈夫か⁉」
「ふ……防いだはずなのに……」
「ええ……ルミナのおかげでダメージは低いわ……」
2人は何とか無事なようだが、問題はファフニールの方だ。俺はすぐにファフニールの様子を確認した。ファフニールは起き上がると損傷した部位がくっついてどんどん回復していく。割れた鱗も治り、ファフニールの流血が収まり、傷が元通りになった。ファフニールは特殊能力である”自己再生”を持っていたのである。すると、ソレーヌが俺たちの前に出る。
「フールさん、2人の回復をお願いします! 私はその間、あいつの注意を向かせます!」
そう言ってソレーヌがファフニールの方へと駆け出していく。
「ソレーヌ待て!」
「私は大丈夫です! それよりも2人の回復を!!」
ソレーヌが囮になろうとファフニールの目の前に駆け込み、それを見たファフニールはソレーヌを追いかけ始めた。
「すまないソレーヌ!」
俺はすぐに2人の元へと近づいて”
一方で、ソレーヌはファフニールの攻撃に耐えていた。ファフニールが硬く鋭い爪を振り下ろすがソレーヌの身軽な動きによって華麗にアクロバッティックに避けていく。
ファフニールは怒り、セシリアに仕掛けたように長い尻尾で周囲を薙ぎ払う。ソレーヌはそれを見て、高く飛び上がり、空中で魔道弓を構えた。
「……これならどう⁉︎」
ソレーヌの光の弓が生み出された時、ファフニールの周囲の地面に魔法陣が浮かび上がる。
「動きを止めよ! "
ソレーヌが矢を離すとその矢は光の糸となり、ファフニールに絡みつく。そして、魔法陣によって糸が固定され、ファフニールは身動きが取れなくなってしまった。その大きな口も光の糸によって巻きつかれて口が開かなくなっている様子だった。
そしてソレーヌは華麗に着地を決めると俺たちの方に後退してくる。
「皆さん今です!」
「任せなさい! 良くもやってくれたわね‼︎」
「私がサポートします!」
ソレーヌと交代するように2人が前へと飛び出す。
俺はセシリアに"
セシリアは二刀の刀を一度鞘に収めて、『雷光』にだけ柄を握る。
「ルミナ! 行くよ!」
「セシリー! 来て!」
ルミナが一歩前に出て、盾を構えた。セシリアはルミナの盾に向かって走り、その盾を踏む。
「"
ルミナが盾を押し、セシリアを空中へ飛ばした。高く飛び上がったセシリアは握っていた雷光を一気に抜くと、雷光の刀身にはバチバチと音を鳴らしながら神々しく光る雷が纏わり付いている。雷光の装備能力である"雷属性攻撃"だった。
セシリアは雷光を上から下へと落下と同時に振り下ろした。
「"
セシリアの刀から雷が放出されると大きな落雷が落ちる。その攻撃によって糸と一緒に拘束されていたファフニールの体が真っ二つに斬られていた。
「やった! こいつ雷に弱いのね!!」
しかし、セシリアの喜んでいる間に切り裂かれたファフニールの肉がぐちゅぐちゅと動き出すと、分離された肉が一人で結合しようしている。
「なんて再生速度なんだ……くそっ!!」
やはり、ファイアボールを使うか……
そう思ったその時、ファフニールの体が突然爆発した。それは1発ではなく2回、3回と爆発し、身体の鱗がはがれて肉が飛び散る。目の前で起こっていることに困惑している俺たちの後方から何人かの人の気配があった。
「なーーによ、これくらいのS級モンスターに手こずるなんて!! 私の爆炎魔法にかかればこんな奴、自己再生もへったくれもないわ!! にゃーーはっはっは!!」
甲高い声を聴いて、俺たちが後ろを向くとそこには3人の人間がいた。一人は片眼鏡をかけてニコニコと笑顔の男、もう一人はドヤ顔と赤い宝玉が先端に付いた杖を俺たちに向けたピンク髪のツインテールの少女、そしてもう一人は鎧を身にまとった美女カタリナだった。
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