第33話 ヒーラー、エルフの畔へ
フール達が森を進んでいくと視界が開けた場所へと出る。
そこはサファイアブルーの色をした綺麗な水が貯まっている池の畔へと辿り着いた。日光に当たった水が宝石のようにキラキラと輝いてとても幻想的である。
「着きました。ここが私たち妖精族が暮らす場所です。本当はここら辺に木を用いて作った家などがありましたが全て燃えてしまいました。今は多分、この池を辿ったところにある洞窟の中に助かった同族がいると思います。さぁ、行きましょう」
ソレーヌに連れられて、池に沿って歩いていくとそこには岩が綺麗にくり抜かれた洞窟があった。こんな薄暗いところに隠れているなんて可哀想でならなかった。
「みんな! 私だ! ソレーヌだ! 四神を倒してくれる人間を見つけました! セレナ様!」
すると、一人のセレナではない小柄なエルフが出てくる。
しかし、その顔は今にも泣きそうで明らかに喜んでいる顔ではなく、さっきまで悲しんでいた顔だ。
「ソ、ソレーヌ……セレナ様が……」
「落ち着いて、何があったの?」
ソレーヌが小エルフの両肩を優しく掴む。
「セレナ様の傷が酷くて……セレナ様……死んじゃう!」
「何⁉︎」
ソレーヌは小エルフの声を聞くと一目散に洞窟の奥へと駆け出す。
「ソレーヌ‼︎ みんな俺たちも行くぞ!」
俺は小エルフを抱っこして、ソレーヌを追いかけるように洞窟の奥へと向かった。
奥へと進むと傷だらけになったエルフや小妖精達が1人のエルフを囲んでいた。そこにはソレーヌもいる。
「セレナ様‼︎」
中心にいるのは、黒く焦げた腕を押さえて酷く苦しんで横たわる1人のエルフがいた。あれがここの長であるセレナというエルフだろうか?
ソレーヌはセレナの元に駆け寄るとセレナの手を掴んだ。
「セレナ様! ご無事ですか⁉︎」
「ソ……レーヌ、ごめんなさい……逃げる途中に……四神に襲われかけて、う……腕を切られてしまったわ……朱雀は……血液すらも燃やしてしまう程の力を持っています……この傷から私も……焼かれて……しまいます」
「セレナ様!」
俺達はエルフ達の間をくぐり抜け、セレナの隣へと寄り添う。
「この……方が……」
「初めまして、俺はフールです。セレナさん、傷を見せてもらっても良いですか?」
「ええ……」
俺はセレナの腕を優しく掴んで傷の様子を見た。
「これは……」
俺は傷を見て驚愕した。赤い血がまるでマグマのようにふつふつと沸騰しており、そこから腕を焦がしているのだ。
血が沸騰してしまう程の力を持っているのか……ここまで来るともはや火傷ではない。勿論、体の傷も含めたらソレーヌの時よりも重症であることは間違いない。
「こんな状態……私は見た事ない……」
「うん、私も……」
セシリアとルミナも酷く驚いているようだ。それもその筈、血が沸騰するなど普通は有り得ない。しかし、相手が普通ではないのだ。
「……やってみるか」
「フールさん! な、治せるんですか⁉︎」
「分からない……だけど、精は尽くす」
俺は祝福ノ杖を取り出し、セレナへと向ける。
「"治療"!」
魔法を詠唱し、緑色のオーラがセレナを包んだ。ヒールの効果によって腕の傷口が塞がれていく。
「やった!」
ソレーヌが笑顔を見せた瞬間、その塞がれた傷口を溶かすように血液が流れ出てくる。傷口が塞がってもマグマのように熱い血が塞いだ腕の皮膚を溶かして、また傷口ができる。
「くそっ!……回復速度が追いつかない」
やはり初級回復魔法であるヒールでは限界があるのだろうか……EXヒールを使うのも有りだが一時のその場凌ぎにしかならない。その時、ソレーヌが俺の腕を掴んだ。ソレーヌの顔を見ると涙が溢れ、悲しんだ顔をしていた。
「お、お願いします……どうか、助けて下さい……私の、私たちの……大切な人なんです……だ、だからぁああ……うぅ……」
ソレーヌが俺に懇願する姿は俺の心を大きく動かした。この子は自分が危険な状況に晒されていた時は歯を食いしばってでも泣かずにいた。だけど、自分の身の時よりも大切にしている人のために泣いて頼むなんて……
その時、俺の胸が熱くなり、何かが弾けた感覚がした。
「必ず……助ける!」
フールが杖に魔力をさらに流し込むとセレナを包んでいた緑色のオーラに輝きが増してくる。すると、セレナの身体中の傷が急速に修復されていく。セレナの腕から流れる沸騰した血が蒸発し、綺麗なサラサラとした血が流れ始めると、傷は瞬時に塞がれた。そして数分程でセレナの身体は完治し、傷一つ見えなくなった。
「こ……これは?」
セレナが起き上がり、自身の体を眺めていた。さっきまでの傷が嘘のように治ったことにとても驚いていた。
「セ、セレナさまぁああああああ!!」
元気になったセレナにソレーヌは強く抱擁する。抱き着かれたセレナは微笑みながらソレーヌの体を抱きしめ、頭を優しく撫でた。そして、周りにいたエルフと小妖精たちもセレナの復活によって一斉に歓声を上げる。安心感から抱きしめ合うものもいれば、ただただしくしくと涙している者がいる。妖精族全体が長の無事を喜んでいた。セレナは俺の方に顔を向け、笑顔を見せた。
「フール様と申されましたね。この度は私を救っていただきありがとうございます。まさか、上級回復魔法が使える程素晴らしい方々が来てくださるなんて……私、セレナは大変うれしく思います」
……そうか、俺はとうとう覚えたのか、上級単体回復魔法”
「す……凄いです……いつもより凄まじい回復力です……フールさん、やっぱり凄いですね。ねぇ、セシリー?」
ルミナがセシリアにそう声をかけるとセシリアの目がハートになり、尻尾をブンブンと振り回してフールに見とれていた。
(はぁ……♡ 素敵よフール♡)
「セシリー? おーーい、セシリー?」
ルミナの声がセシリアに届くことはない。セシリアの目にはフールしか映ってなかった。
それから、セレナに泣きついたソレーヌが顔を上げ、俺の方に歩み寄ってくる。
「フールさん、セレナ様を救っていただき本当にありがとうございます!」
「良いんだ、だけど……まだ喜ぶのは早い。まだ四神が残っている」
そう、セレナを救うことは出来たが、森を焼いた元凶がまだいるので喜ぶのはまだ早かった。一刻も早く四神を倒さなくてはセレナのように被害にあう者たちが出てしまう。
「セレナさん、早速だけど朱雀がいるダンジョンの方向を教えてくれないか?」
「朱雀はこの洞窟を出て右の方角へと飛んで行きました。朱雀が生み出したダンジョンには今までダンジョンボスだった強力な魔物も当たり前にうろついています。貴方にお渡したいものがあります」
そう言って、セレナが俺の首元に手をまわし、何かを身に着けてくれた。
「これは?」
それは緑色の宝石が埋め込まれた綺麗なペンダントだった。
「これは妖精族の力が込められたペンダントです。エルフは感覚が鋭い他に風の力を借りることができます。その風の力があなたの危機をきっと救ってくれるはずです。フール様のご無事を祈っております」
「セレナさん、ありがとう。必ず、朱雀を討伐して見せます」
セレナは俺に笑顔を見せ、そしてソレーヌの手を掴んだ。
「ソレーヌ、フール様たちの力になるのですよ」
「畏まりました!」
そう話していると、外の方から大きな衝撃音が鳴り響き、洞窟全体が揺れる。
「な、何が起きたの⁉ 外から聞こえたわ!! ルミナ行くわよ!!」
「うん!」
大きい音が鳴った場所へ様子を確認するべくセシリアとルミナは洞窟の外へと駆けていく。
「ソレーヌ行くぞ! セレナさんたちは洞窟から出ないでください!」
こうして、俺とソレーヌも2人を追いかけるように外へと急いで駆けて行った。
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